十川家7-4

父さんと神無のお父さんが友達ということには驚いたが、それよりも重要なことを神無のお爺さんが言っていた気がする。


ネタバラシって一体なんのことだ?


「まあ武司のことはまた今度話すとしよう。あいつとの思い出を話し始めたら夜中になってしまうからな。それよりも今日おまえを呼んだ理由を教えてやる」


理由?神無にお見合いをさせたいのに

邪魔な彼氏がいたから、僕を呼び出して、神無と別れさせるためじゃないのか。こちらが偽彼氏という事でややこしくなっているが神無のお父さん側からすればそれ以外の理由はない気がする。


「ただ単に神無の彼氏がどんなやつかを見たかっただけだ」


「え?」


「そもそも、神音がおまえをこの部屋に連れてきた時点で、変な理由で神無と付き合っていないということは間違いないしな」


なるほど、そういうことか。

神音さんなら見ただけでどんな人間なのかわかる。金目当てだったり、権力目当てで付き合っていたらその時点で部屋に入れてもらえなかったということか。


純粋に変なやつという点だけで言えば女装して女子校に行っている僕よりも変なやつはそうそういない気がするけど。



「でも、最初に挨拶した時に名前を覚える気が無いって」


「ああいうのは、娘の彼氏が来たらやるもんだろう」


そういうものなんだろうか。

たしかに、お前に娘はやらんとか、おまえにお義父さんと言われる筋合いはないとかはちょっと言いたいかもしれない。


「じゃあ、お見合いとか、神無の事を考えていないような発言も嘘ですか?」


「お見合いは本当だ。神無は女子校だし出会いも無いだろうと思って気を効かせたつもりだった。お見合いの話を持ちかけた時点では彼氏がいるなんてことは聞いていなかったしな。

だが、婿養子や会社のためとかは全部嘘だ。可愛い娘を商売の道具みたいにしたりは断じてしない」


真っ直ぐな目をしてこちらを見る神無のお父さんを見て、神無や神音さんみたいな能力がない僕でもこの人が嘘をついていないことははっきりとわかった。


「なるほど、じゃあ柔道をやったり、将棋をしたのは僕を試していたわけではなかったんですね」


「全く試していなかったというと嘘になるな。神音や神無の目は信用しているが、もし男として度胸が無いやつだったら許すつもりはないからな」


「まあお前の度胸があることは最初の口論の段階でわかっていたから本来は柔道をやる必要は無かったんだが、神音に乗せられてついつい試合をしてしまった。まあ神無との出会いがナンパみたいなものだったのも気にくわなかったし、お灸を据えたかったのもある。お義父様もそうですよね」


「ああ、儂は本気で勝負をするやつかを見極めるために将棋を指した。電十の会長である儂にも遠慮せずに勝つ度胸がある男でなければ可愛い孫を預ける訳にはいかないからな」


「な、なるほど」


「とりあえず、付き合うのは許してやろう。あとお見合いの件も白紙にしてやる」


良かった。これでお見合いを阻止するという神無との約束は達成できた。


「ありがとうございます」


「神無もそれでいいな」

「うん」


「明日も学校だしそろそろ帰りなさい」


「はい、失礼します。また将棋を教わりに来ますのでその時は父の話を聞かせてください」


「おう、またいつでも来い。北村、車で送ってやれ」


「はい、かしこまりました」


とりあえず、一件落着だけど何かが納得いかない。


そうか、神音さんのように神無も心を読めるなら、神無のお父さんが神無の気持ちをないがしろにしてお見合いをしようとしているわけではないっていうのはわかってたはずじゃないのか。

それなら一回くらいお見合いに行っても良かった気がするんだけど

なんでわざわざ偽彼氏まで作って断ろうとしたんだろう。


帰りの車を出してくれるまでに少し待ち時間もあるし今聞いてみようかな。


神無の方に行き、おそらく僕の考えていたことは読めていると思うので、端的に聞いてみる。


「神無、僕の考えてることわかった?」


「うん、家族のは読み取るのが難しい」


「なるほど、そういうものなんだ」


「うん、そういうもの」


たしかに、神音さんも全員のが読めるなんて一言も言ってなかったもんな。

見えない相手がいても全くおかしくはないか。


なんか神音さんが楽しそうに近づいてくるがどうしたんだろう。


「今日は楽しかったわ。神無も意外とそういうところがあるのね」


そういうところってなんだ?

神無の方を見ると珍しく顔が赤くなっている。


「お母さん、余計なこと言わなくていい。優、行こ」


「え、でもまだ車の準備ができてないって」


「外で待つ」


神無がぼくの手を引っ張り無理やり部屋から出て行こうとする。

特に抵抗する意味もないので、神無の両親とお爺さんに軽く挨拶だけして外に出ることにしたが、後ろでずっと爆笑している神音さんがかなり気になった。

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