生徒会長編5-3
「来月の生徒会長選挙に立候補しなさい」
何を言っているのかを瞬時に理解することはできず、彼女の顔をまじまじと見る。なぜ退学になる僕が生徒会長に立候補するという話になるんだろう。
「嫌なの?嫌ならしょうがないけどばらしちゃおうかな~」
「嫌とかじゃなくて、そもそもばらさないっていう選択肢があるんですか?」
僕は至極当然な質問をすると、さも当たり前の様に彼女は頷く。
「うん、ばらしても私に得になることもないしね。それよりもいてくれた方が私にとっては都合がいいし」
「都合ですか」
「そそ、だから取引しようよ。次の生徒会長になることと、私の活動について秘密にしてくれれば私もあなたが男の子だってことは誰にも言わないから」
「こっちとしてはそうしてもらえるとすごく助かるんですけど、なぜ僕が生徒会長に立候補するんですか?」
引き続き会長がやるのは駄目なんだろうか。
どうやら話を聞くと堀江学園では6月から次年度の5月までが生徒会の期間のため三年生は生徒会長になれないらしい。
そして前任の生徒会長はアドバイザーのような形で補助につくみたいだ。
「そうなのよ。それに今年は配信の回数増やしていこうと思ってるから忙しくなりそうなの。だから、事情を知ってくれている人のアドバイザーに付いた方が時間の都合も付けやすいし、あなたなら寮でも教えられるし私としては最高なのよ」
なるほど、僕に都合が良すぎる取引だと思ったが彼女にもそれなりのメリットがあるのか。
「前々から次の生徒会長は寮生がやってくれたらいいなと思ってたんだけど、五條さんは部活とか助っ人で忙しそうだし、十川さんはそういうの絶対やらないだろうから半ば諦めていたのよ」
たしかにあの二人は絶対やらないだろうな。一年生である花宮さんにお願いする訳にもいかないし、僕が一番適任だと思う。
僕としても、生徒会長になることはめんどくさいとは思うけど、ばらされて路頭に迷うことを考えるとやる以外の選択肢は無い。
「なるほど。会長がその交換条件でいいならやります。」
「うん、よろしくね。生徒会長選挙は大変かも知れないけど頑張ってね」
「え、そんなに大変なんですか」
「うーん、私のせいで結構大変かも。私が補助に就くからそれを目当てにして立候補する人結構多いのよ」
「私が生徒会長になったときも前年の生徒会長が人気者だったから10人くらい立候補していたし」
なるほど。たしかに生徒会長はファンクラブがあるくらいだもんな。
「もし生徒会長になれたらファンの人に恨まれそうですね」
「いや、そっちよりももっと大変なのは…」
「え、なんですか?」
「それはなってからのお楽しみにしておこうかな」
彼女が楽しそうに笑っているので、嫌な予感しかしないがもう拒否権もないし、後のことは考えないようにしよう。
その後、生徒会について色々な話しをしたので、部屋に戻る頃にはいつの間にか1時を回っていた。
生徒会長と密談をしてから一週間が経ち色々な所から、ミスコンや生徒会選挙の話題が聞こえてきた。
今週末には選挙ポスターの張り出し、GW明けには放送での演説、5月中旬には選挙があるから盛り上がるのも当然だろう。
生徒会長との契約のためには、なんとしてでも生徒会選挙に勝たないといけないので、準備は全力で取り組まなければいけない。無駄に時間を使っている暇はないな。
まずは過去の情報を知る必要があるかな。生徒会長からはある程度聞いてはいるが他の人の客観的な意見も欲しいし前の席の会田さんに聞いてみようかな。
「会田さん、去年の選挙ってどんな感じだったの?」
「うーん、どんなって聞かれると難しいけど現生徒会長の圧勝って感じかな。生徒会選挙の演説なんてだいたいみんな同じような感じだけど天野さんのだけは別格だったよ。それに彼女の推薦人の神崎先輩もかなり演説がうまかったし」
配信の上手さからしても、彼女の演説が上手いのは容易に想像がつく。
選挙に当選するには本人の演説の上手さが必須なのは当然だが、立候補者の性格や人柄を客観的に説明するためには推薦人がかなり重要になる。
特に僕の場合は転校してきてからまだ日が浅いしほとんど知られてないだろうから、そこの重要さは他の人よりも高くなるだろう。
本当は生徒会長に頼むのが一番良さそうだが三年生に頼むのは規定違反のためできない。
そうなると誰に頼むのが良いんだろう。なるべく僕のことを知っている人のほうがいいよな。
毎日一緒に学校に行っているのもあり、一番仲が良いのは神無だけどめんどくさいって言って断られそうだ。
まあとりあえず聞いてみるか、駄目だったら会田さんか五條さんに頼もう。
神無の方を見ると自分の席でチョコを食べていた。口が小さいからなのか、リスみたいに頬張って食べていてめちゃくちゃ可愛い。
朝に学校行くときに話してもいいけど、明日まで放置すると忘れそうだし、今が話しかけるチャンスかな。珍しく神無の周りに人もいないし。
「神無。今いい?」
こくっと頷きながらチョコをモグモグしているので、食べ終わるまで待ってから話を切り出す。
「僕、生徒会選挙に出るんだけど推薦人になってくれないかな」
「いいよ」
「だよね、他の人探すよ。っていいの?」
「うん、優は特別」
神無なら断りそうだと思っていたが、なぜかオッケーされた。
特別って僕のことが好きなんじゃないか?
「今日の朝、雪に頼まれたから。優に推薦人を頼まれたら引き受けてあげてって」
勘違いだった。一瞬死にたくなったが手伝ってくれるだけでもありがたい。
ありがとう、生徒会長。
僕が言う前にすでに根回しをしてくれているとは本当に仕事ができるな。
「ありがとう。さっそくだけど今日選挙のポスター作るから手伝ってもらっても良い?」
「二人だけでやるなら良い」
やっぱり僕のこと好きなんじゃないか?どうせまた勘違いだとは思うがついついそう思ってしまう。
放課後になり、神無と教室で作業を始める。
神無に声をかける前にすでにポスターの構想は考えていたので、下書きを簡単に書いて神無に見せる。まあ書くことって名前と公約だけだし、他は自分の写真を貼るくらいなので、誰が作っても同じだとは思うけどね。
「全然駄目」
「え、でもこんな感じじゃないの」
「やっぱりついて来て」
いつも通り神無の表情からは何を考えているかはわからなかったが、僕のセンスに呆れていることだけはなんとなくわかった。
神無は急に立ち上がり、僕の手を取って教室を出た。
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