生徒会長編5-1

少しの間校舎裏でゆっくりしていると、近くで声が聞こえてきた。


こんなところで、話しているなんてまた告白かな?


アニメの声優のような可愛らしい声で何かを話しているが一人分しか聞こえないし電話でもしているのだろうか。

結構近くにいるようだがこちらが窪みにいるせいでおそらく向こうは僕が近くに居ることに気づいてはいない。


「今日のロゼララコラボよろしくね。配信の打ち合わせと準備は18時半からでいいんだよね」


コラボ?何の話しだろう。人の話しを盗み聞きするのは良くないが今出ていったら驚かせてしまうだろうししばらくじっとしてよう。

まあ声を聞いた感じでは会ったことがある人では無いし、今すぐ出ていっても一瞬気まずくなる程度でこの場を立ち去ることはできる気もするけど。


「うん、今はまだ学校だよ。生徒会の作業が終わってなくて」


あれ?なんかどんどん声が近づいて来てる気がするんだけど。


「でも大丈夫だよ、家近いし18時半までには帰れるから。えっ」


「えっ」


電話している人とバッチリ目が合ってしまった。

どうやら彼女もこの窪みにもたれかかるつもりだったらしい。


驚いた表情で彼女がこちらを見るが、恐らく僕は彼女よりも驚いている。


先程まで聞いていた声と僕が聞いたことのある目の前の人の声が全く一致していなかったからだ。


「せ、生徒会長…?」


「ららちゃん、一回通話切るね。うん、また後で」


「さて、何であなたはここにいるのかしら?」


生徒会長が通話を切り、低めの凛々しい声で僕に話しかけてくる。

この声を聞いてやっと生徒会長だと確信できた。


訝しげな目をして彼女はこちらを睨みつける。


もう正直に言うしかない。

僕は先ほどまで告白されていたこと、疲れたのでここで休んでいたことを説明した。


彼女は眉間に手を当てながらため息をつく。


「なるほどね。ここにいた理由はわかったわ。電話の内容はどのくらい聞こえたのかしら?」


「いや、全く聞こえませんでした。

声もいつも通りでした」


僕の明らかな嘘に今までと段違いの怒気を纏い冷静な声色で淡々と話してくる。


「そんな訳無いでしょう。まあ、今は長話するほど暇でもないから寮でゆっくり話しましょう。今日の23時半に私の部屋に来なさい」


声をあらげないのが逆に恐い。

今日は立て続けに恐い目にあいすぎじゃないか。何も悪いことしてないのになぜこんなことに。


不可抗力とはいえ体育の着替えでクラスの女の子の下着姿を見てしまっていた事を思い出してバチが当たったのなだと思い知る。


僕は観念して、わかりましたとだけ返事をした。


生徒会長と別れて、寮に戻る。


そういえば、ロゼララってなんだったんだろう。

どうせ怒られるなら今のうちに知っておこうかな。

coocleでロゼララと調べるとバーチャルユーチューバーのロゼとララのコンビと書いてあった。バーチャルユーチューバーとは2Dや3Dのキャラに声を充ててゲームの実況や雑談などをおこなうユーチューバーだ。しかもかなり人気のようで両方ともチャンネル登録者数が20万人以上いる。

事務所にも所属しているようでかなり有名なようだ。

動画を見てみるとロゼのほうが先ほど話していた声と同じだったので間違いはないだろう。

中の人は声優や有名な動画配信者などがやっている場合が多く、高校生でこれ程人気なのは凄いと思う。


堀江学園はアルバイトが禁止されているわけではないので、他の人にばれても活動をやめないといけないということは恐らくないだろう。

でも、こういう活動で一番恐いのは身ばれをすることだ。ネットに書かれるとすぐに拡散されてしまうのでなるべく誰にもばれたくはなかったんだろう。不可抗力とはいえ、申し訳ない事をしてしまったな。

とりあえず、夜に話す時に謝って絶対に口外しないということを誓おう。

そうすれば多分許して貰えるんじゃないだろうか。


そういえばやけに部屋に来いと言われた時間が遅いと思ったが、夜から配信をするからなのか。


夕食を食べ終わり、生徒会長の部屋にいく時間にはまだまだ余裕があったので、ロゼララの配信を見てみる。


一言でいうと人気があるだけはあり、かなり面白い。ただ、普段の生徒会長とは声も性格も全然違い明るく楽しそうだった。


ロゼララのゲーム実況が面白すぎて20時くらいから見始めたのにあっという間に22時半になっていた。

配信も終わったし、とりあえずシャワーを浴びにいくか。


シャワーを浴びながらどんな顔して会いに行くかを考える。なんか配信を見てしまったせいで有名人に会いに行くような感覚になってしまっている。それ以前の問題でそもそも夜に女性の部屋に入るの自体が初めてなので緊張してしまう。


ただでさえ、浴槽に入れずシャワーだけなのであまりゆっくりできないのに、余計なことを考えていたせいで全くくつろぐことができなかった。


まあしょうがないか。とりあえず着替えて部屋に戻ろう。


浴室から出ると、さも当然かの様に生徒会長が更衣室にいた。

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