学校生活4-3

こんなところ告白かカツアゲくらいでしか、来ないよな。

日当たりも悪くジメジメしてはいるが誰も来ないだろうし秘密の話をするにはもってこいの場所だろう。


校舎裏の呼び出された場所に行くと同じクラスの女の子がすでにいた。というか、さっきのバスケの敵チームにいた、バスケ部の谷村さんだった。


谷村さんは亜麻色の髪をしており、バスケをやっているときは機敏な動きをしていたが、普段は雰囲気が柔らかくややおっとりしている印象を受ける。


彼女は僕を見つけると、笑顔を僕に向けてこちらに走ってきた。


「来てくれてありがとう」


「あの手紙をもらって来ない人はいないよ。名前が書いてなかったら一瞬イタズラかと思ったけど」


「ありゃ~ごめんね。文章のほうに力入れすぎて名前書き忘れちゃった。そういえば、今日のバスケ凄かったね。バスケ部に入ってほしいくらいだよ」


「ありがとう。でもさっきも言ったけど高校では運動部に入らないって決めてるから」


「そっか、あんなに上手いのに勿体無いな~。バスケ部入ってくれたらもっと一緒にいれると思ったのに~。まあバスケ部の話はとりあえずいいや」


何かを決心したような顔をして彼女は話し続ける。


「昨日、教室で見たときに一目惚れして、今日の体育で更に惚れたの。私と付き合ってください」


初めて女の子に告白された。

半信半疑だったがやはり告白だったのか。

嬉しくないかというと嘘にはなるが、やはり告白を受けることはできないだろう。

そもそも彼女は男の僕ではなく、女の姿の僕を好きになってくれたのだから。


「ごめんなさい。昨日会ったばかりであなたの事を全然知らないので付き合うことはできない」


なるべく傷つけないように言葉を選んだつもりだったが彼女は下を向いて顔を真っ赤にしてぶつぶつ独り言を唱えていた。

もしかして怒らせてしまったのだろうか。


しばらくして彼女が顔をあげると見たことがないくらいの笑顔で僕の肩を掴み顔を見上げた。


「じゃあ、私の事を知ってくれたら付き合ってくれるってことだよね?」


あれ?付き合えないって言ったはずなのに、上手く伝わってない気がする。

早く誤解を解かなければいけないな。


「いや、そうじゃなくて…」

「え?」


谷村さんの目から一瞬でハイライトが消えて、無言で僕の肩に力を込める。


命の危機を感じるんだけど告白ってこんな怖いイベントだっけ。

とりあえずもう一度断ってみよう。


「ごめんなさい、あなたとは付き合えない」


目のハイライトが戻らない彼女は凄い勢いで話しかけてくる。


「それは、私の事を知らないからだよね。まずは友達からってことにしようよ。これからは優ちゃんって呼ぶから私のことは伊織って呼んでね。」


ものすごい圧を感じるし、取り敢えず彼女に合わせておこう。


「じゃあ、とりあえず友達ってことでいいかな」


「うん、今はそれでいいよ」


徐々に締め付けがゆるくなり、なんとか命の危機は回避するとこができた気がする。


とりあえず友達から始めるということで谷村さんも納得してくれたので、胸を撫で下ろす。


これからどうしようかな。

谷村さんの告白でどっと疲れてしまったので、ちょっと一人でゆっくりしたい気分だ。


「谷村さん、ちょっと一人で考え事したいから先に帰ってもらってもいい?」


しまった。ちょっときつい言い方になってしまった気がする。

谷村さんはふてくされているのか、頬を膨らませている。


「伊織って呼んでくれたら今日は帰ってもいいよ」


神無にも名前で呼べと言われたけど女の子を名前で呼ぶの恥ずかしいんだよな。


「伊織」

「そんな風に呼ばれるとなんか照れるね」


顔を赤くして谷村さんは微笑む。

照れるなら呼ばせないでくれると助かるんだけど。

少し会話をして、谷村さんは満足したようでやっと帰ってくれた。


とりあえず、校舎裏の2つの梁が出っ張っているところの間に隠れてゆっくりする。

ここだと正面から見ない限りは誰にも見えないし、かなり落ち着けるだろう。ややジメジメするがゆったりできる。


この時の僕はなぜさっさと帰って寮で考え事をするという選択肢を思い付けなかったのだろう。

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