初日3-1
目が覚めると実家とは違う天井の光景が広がっていた。
頭が回り始め、昨日寮に入ったことや、今日から女子しかいない学校生活が始まるということを思い出す。
前の学校は男子校だったのでそのギャップに苦戦しなければいいな。
考えるだけで気分が重くなってしまう。
普段なら2度寝するところだが、今寝ると現実逃避で2度と起きることができなさそうなので起きることにした。
とりあえずウィッグと偽装胸を装着し、洗面台のある一階にいく。
まだ6時だから誰にも会わないとは思うが、どこからバレるかわからないし油断しないようにしないとな。
階段を下ると、ジャージ姿の五條さんがいた。
「あ、おはよう。」
「おはようございます!」
五條さんは昨日も元気だったけど、朝からフルテンションだな。
「もう、学校に行くの?」
「バレー部の朝練なんではやいんすよね~!」
「そっか、こんな朝からやるなんて凄いね」
「好きでやってることなんで全然凄くないっすよ。じゃあ私はもう行きますね!」
「うん、いってらっしゃい」
「はい、いってきます!」
ドアが閉まり、安堵の溜め息がもれた。
油断しないで、ウィッグと偽造胸を付けておいて本当に良かった。
洗面所に向かうと、今度は姉さんが顔を洗っていた。
「あら、おはよう。早いわね」
「おはよう、シャワー浴びた後すぐ寝ちゃったから早く目が覚めて。姉さんこそいつもこんなに早く起きてるの?」
「毎朝この時間に起きてるわよ。これから朝ごはん作ったり、準備したりしないといけないけらね」
「そっか、大変だね。料理手伝うよ」
「もう慣れてるからそんなに大変じゃないわ。私を手伝うよりも今日からなんだから自分の準備を万全にしなさい。化粧とかね」
確かにその通りかもしれない。
1日目でいきなりばれるなんてことになったら僕だけじゃなく、姉さんにも迷惑がかかるしな。
「うん、そうするよ」
洗面所で軽く顔を洗って、部屋に戻り、とりあえず制服の準備をする。
制服は紺のブレザーにスカート、白いブラウスしか指定はなく、靴下などは自由らしい。
装飾物は襟章くらいしかなくネクタイやリボンはない。制服というよりは女性用のスーツに近いイメージだ。これも校風を重んじるが故なのだろうか。
そのおかげで、制服を着るのは簡単だ。昨日、理事長に挨拶に行った時にも制服でいったから着こなしなどに問題はないだろう。
むしろ大変なのは化粧の方だ。
世の女の人はこんなに面倒なことを毎朝やっているのか。
朝はギリギリまで寝ていたい僕にとっては素直にすごいなと感じてしまう。
昨日より上手くできた気がするが、その分時間もかかってしまい、もう6時50分になっていた。
「やば」
急いで制服を着て、部屋からでて食堂に向かうと、花宮さんのほかに昨日は見かけなかった女性が席についていた。
「昨日寮に入った人ね。3年の天野よ」
「2年生の伊澤優です。これからよろしくお願いします」
「ええ」と言い僕のほうをじっと見る。
切れ長の目、胸あたりまであるきれいな黒髪の彼女は一言で表せば美人と言えるだろう。
しかし、僕を見る眼光は鋭く性格がきつそうな印象を受ける。
僕の顔を一通り見て、視線を外すとコーヒーを飲み終えて、席を立つ。
「生徒会の仕事があるので、今日は早めに行きます」
「わかったわ。頑張りなさい」
姉さんにそう言い天野さんは食堂から出ていった。
生徒会か。見た目の印象の通りだな。生徒会長とかやってそうな気がする。
「そういえば、神無は?」
「十川さんは朝食べないからね。ギリギリまで寝てるわ」
「そういえば昨日も朝は来てなかったですね。そういうのは許されるんですか?」
花宮さんが至極まっとうなことを姉さんに聞く。
「もちろんいいわ。十川さんは朝食はいらないって言われてるし、五條さんは朝練でかなり朝が早いから自分でパンを焼いて食べてもう学校行ってるわ。
それにさっきまでいた天野さんも朝はコーヒーしか飲まないから朝は食べないし。だいたいのことは事前に言ってもらえば大丈夫よ」
なるほど、話を通しておけば融通は結構利くんだな。
「学校と同じで自主性をかなり重視してるからね。私も生徒よりも早く学校に行くから戸締まりは十川さんに任せているし」
生徒にそんなこと任せてもいいのかと思いつつも、自由なのは僕としても都合がいいだろうと思い何も言わないでおいた。
朝食が終わり、姉さんと花宮さんが先に学校にいったので僕は神無と行くことにした。
神無は7時50分になってようやく顔を洗いに一階に降りてきた。
目がほとんど開いておらず、寝起きなのが分かる。彼氏でもないのに女性のこんな顔を見ても良いのだろうか。
正直この顔もめちゃめちゃかわいくてドキドキしてしまう。
「神無、おはよう。全然準備できてないようにみえるけど間に合うの?」
「おはよ。慣れてるから余裕。一緒に学校行く?」
「うん、食堂で待ってるね」
15分くらい待つと本当に先ほどとは別人みたいに小綺麗な人形のような顔立ちをした神無が準備万端で話しかけてきた。
制服が紺色ということもあり、髪の毛や肌の白さがより際立つ。
どうやら神無は化粧をしないらしいがそれでも充分過ぎるほどの魅力を感じる。
「おまたせ、行こ」
「うん」
神無は慣れた手つきで寮の鍵を施錠し、二人で学校に行く。
準備が早かったこともあり、学校には余裕をもって到着することができた。
今日から僕の女子校生活が幕を開ける。
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