初日3-2
神無に連れていかれ、下駄箱の方に向かう。
下駄箱の前にはクラス分けの紙が張り出されていた。
2年と書かれている紙には3クラスに別れており、それぞれ30人ずつくらいの名前が書かれていた。
1学年で90人くらいいるのかな。
苗字が伊澤だから上のほうを見れば簡単に見つかる。
僕の名前は2-2のところに書いてあった。
「私も皐月も2組」
「そう、良かった。寮でも一緒だけど一年間よろしくね」
「うん」
昨日あったばかりだが知り合いがいるだけで安心感がある。
まあその知り合いにもバレたら終わりだから全然油断はできないんだけど。
2-2の下駄箱にはすでに自分の名前が書かかれており、そこに外靴を入れる。上靴も特に指定がないので、普通の運動靴を袋からだして履く。
神無と教室に入るとすでに教室にいた生徒が一斉にこちらに向かって来た。
「十川さん、一緒のクラスになれて嬉しいわ」
「神無ちゃんぎゅうってしていい?」
「ああ、神無様と一緒に一年同じクラスで過ごせるなんて」
「はあ、はあ、今日もお美しい」
おいなんか今、ヤバイやついたぞ。
神無って本当に人気者なんだな。
「神無大丈夫?」
「うん、慣れてる」
まあ、髪も肌も白いお人形の様な容姿だし、目立つのはしょうがないのかな。それに神無は初等部からの進学みたいだから慣れてるというのも言葉通りの意味だろう。
「みんな、おはよ」
神無は一言だけ言い、黒板の方を見る。
黒板には出席番号順に決められた席が書かれていた。
「優、またあとで」
「うん」
神無が席に座った後で僕も自分の席を確認する。
「初めて見る人ね」
「転校生かしら」
「きれい…」
「十川さんと並ぶと絵になるわ」
後ろの方でこそこそ話し声が聞こえる。
なんか居心地が良くないな。
神無は毎回こんなに騒がれて疲れないのかな。
まあ悪口とかで騒がれている訳でもないし別にいいか。神無はともかく僕の方にはすぐに興味がなくなるだろうし。
チャイムがなり、先生が教室に入ってくる。
「担任の岡です。一年の時に担当した人もいるけどあらためて一年間よろしく」
岡先生は簡単な挨拶をした後に、始業式のため体育館に向かうように指示を出した。
体育館には全学年の生徒が集まっていた。
これだけ女性ばかりだと緊張してしまう。
前の学校だとこれだけの人数が集まるとむさ苦しくて汗臭かったが、今は様々な化粧品の匂いや香水の匂いが充満している。
あまり慣れていないからなのか、化粧品と香水の匂いで具合が悪くなってしまった。
僕が体調不良でぼおっとしていると始業式が始まっていた。
「生徒会長の天野です。始業式の挨拶をさせていただきます」
生徒会に入ってるとは聞いていたけど、やっぱり生徒会長だったのか。
天野さんは3分ほどで簡潔に挨拶をする。
天野さんはこの学校では有名人らしく、話が終わると歓声が漏れ出していた。
校長の話もすぐに終わり始業式は何事もなく終了した。
教室に戻り、再びHRが行われている。
「ほとんどの人が、顔見知りだろうけど、自己紹介してもらいます。名前と趣味くらいでいいので。じゃあ会田さんから」
「はーい」と言い、茶髪をシュシュで留めている女の子が立ち上がる。
「会田 穂希(ほまれ)です。
趣味はウィンドウショッピング、特技は裁縫。
今やりたいことは可愛い女の子の服を作ることかな。一年間よろしく」
ウィンクを僕と神無にして席に座る。
神無はともかく僕も『可愛い女の子』に入ってるのか。
会田さんが席を座り拍手が起きると、後ろの席の僕に注目が集まるので立ち上がる。
「伊澤優です。趣味は音楽鑑賞、特技と言えるかはわかりませんがお料理は得意な方だと思います。よろしくお願いします」
本当は趣味は将棋で特技は柔道だかあまりにも男っぽいので無難なことを言うことにした。まあ料理はそこそこできるから嘘ではないしね。
座ろうとしたら、先生が割り込んできた。
「伊澤さんは2年生から転校して来たので質問タイムを作ります」
目立ちたくないからそういうの嫌だけど転校生だししょうがないか
「血液型は?」「O型です」
「好きな食べ物は」 「肉じゃがですね」
「好きな色は」「青です」
etc.
凄い量の、どうでもいい質問に、次々に答えていき、最後の質問になった。
「好きな人のタイプは?」
「僕の好きなタイプ?可愛いらしい子が好きかな」
答えた瞬間教室が凍った。
あれ?どうしたんだろう。
先生の方を見ると眉間に手をあて、目を瞑っている。
質問に自然に返したつもりなんだけど。
いや、むしろ自然過ぎた。質問が多過ぎていつの間にか脳死で返答をしてしまった。
こちらに来てからはなるべく男言葉がでないように敬語で話すようにしていたのに普通に話してしまった。
寮ではちゃんと敬語だったのに。
いや、なぜか神無にだけは自然とタメ口で話していたけど。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
なんとか誤魔化せないかと考えていると周りがざわつき始める。
「かっこいい」
「なんてオープンなの」
「僕っ娘…最高」
「声も低くて良い」
僕っ娘?まずい、私で通すつもりだったのにいつもの癖で僕と言ってしまっていた。
でも声を褒められるのは地味に嬉しいな。男としては若干高いから男子校では馬鹿にされることもあったし。
「ええっと、私は…」
「僕でいいんじゃない?そっちの方が自然だよ」
前の席の会田さんから謎のフォローが入る。
でも、これはいい助け船かもしれない。
これから学校にいるときに何回も間違えるだろうし、いっそのこと僕っ娘というキャラにした方が普通に話せて楽な気がする。それだとタメ口で男言葉でもそんなに違和感がなくなるし。
「そうだね、僕もそっちのほうが楽だからそうするね」
会田さんはグッと親指を突き上げて笑顔を見せる。
「とりあえず、結構時間も経ったし質問はこれで終わりにします」
先生が質問を打ち切ってくれたお陰で、なんとか誤魔化せた気がする。
本当に僕はこんな調子で2年間この学校で生活していけるのだろうか。
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