入寮2-2

花宮さんの対応は姉さんに任せることにして、トイレに向かう。


トイレに入り、僕は母さんの言葉を思い出した。


「優。トイレは絶対座ってしなさいよ」

「え、なんで?別に監視カメラがついてるわけでもないし立ってしちゃ駄目なの?」

「家でもたまに、便座あがってることがあったじゃない。一回でも上がってたらばれちゃうわ。掃除のときくらいしか女の子は便座あげないし」


たしかに、女子寮とか学校のトイレで便座があがってたら違和感があるもんね。本当は立ってしたいけど、これからは座ってするしかないか。


葛藤がありつつ用を済ましたが、花宮さんは姉さんと話したいオーラを出しまくってたし、このまま直接食堂に戻るのも少し気が引ける。


18時まではまだ少しだけ時間はあるし、ギリギリまで自分の部屋にいることにしようかな。

2階の部屋に戻ろうと階段に足をかけると白いワンピースをきた銀髪の少女がこちらを見ていた。


白い肌、絹のようなきれいな銀髪。

全体的に色が薄いためより一層際立った赤い瞳に僕は目を離すことができなくなった。


僕がぼーっと見ていると物語の世界から出てきた妖精のような見た目をしている彼女はゆっくり階段を下りてきて不思議そうに僕を見つめる。


「誰?」


「今日引っ越してきた2年生の伊澤優です」


「十川神無。優と同じ2年生、よろしく」


十川さんは静かに淡々と話してきた。

身長は150センチもなく中学生くらいに見えるけど何か不思議な魅力がある女の子だな。



「うん、よろしくね。十川さん」

「神無」


「え?名前は聞こえてるよ。十川さん。」


「神無でいい」


この子も押しが強いな。

このまま話していても彼女は折れそうにないし僕が折れることにしよう。


「うーん、じゃあ神無」

「うん」


初めて女の子のことを名前で呼んだ気がしてちょっと気恥ずかしい。

彼女がこくっと頷き急に僕のお腹辺りに抱きついてくる。


あまりに急なことで混乱してしまった。

「とがっ、神無!?」

「優って…」


「どうしたの」

「私は面白い人好き」


声に抑揚が無いので神無が何を考えているのかを掴むことができない。

一瞬僕の大事なところに神無の体が当たったかと思ったけど、触られても形がわからないように対策はしているし、ばれてはいないだろう。それでも急に抱きついてくるのは心臓に悪いからやめて欲しい。


「優はなんで部屋に戻ろうとしてたの?」


そのあと、花宮さんと姉さんが話していて、戻りづらいということを説明したが、彼女は表情を変えることはなかった。


「見てて面白い。行こ」


僕の手を取って神無は食堂に僕を連れていこうとする。無理やりほどくこともできたが、神無がいれば気まずくないかと思い、おとなしく食堂に戻ることにした。


「優、十川さん。一緒に来たのね」


食堂に行くと、ちょっと疲れた表情の姉さんが僕と神無に話しかける。


「三人揃ったし、食べようかしら」


「あれ寮生って4人じゃないの?」


姉さんのも入れて皿は5人分用意されていたからもう1人いると思ってたけど


「優も入れて寮生は5人よ。花宮さんとあなたの部屋にはまだネームプレートをつけてないけど寮の部屋はあなたが入ったことで全員埋まってるわ2人とも遅れると連絡来てたけど1人は多分食べてる途中には帰ってくるわ」


ああ、そういえばよくみてなかったけどネームプレートには花宮さんの名前は書いてなかった気がする。人数が多いほど男ばれする可能性があるから少ないに越したことはないんだけどと思ったが、まあ寮生が多い方が楽しいかと思い深く考えるのをやめた。



20分くらい他愛もない話をしながらご飯を食べていた。その間、花宮さんが僕よりも私の方が詳しいと言いたいのか、姉さんの個人情報をめっちゃ語ってきた。そもそも何年も一緒に暮らしてないし僕はそんなに詳しくない。

勝負しているわけではないが勝負なら僕のコールド負けだろう。

てか花宮さんも入寮して3日でどうやったらこんなに調べられるんだよ。


「伊澤先生は嫌なことがあると、親指の爪で人差し指の腹を押すんですよ、優さんは知ってましたか」

「いや、知らないし興味ないんだけど」

「そんな癖、私はしてないわよ」


と指の腹を押しながら姉さんが言う。

本人すら自覚してない癖を知っているって…


「癖は中々自分では気づけないですからね」


どや顔で花宮さんが話していると、スポーツウェアを着た元気そうな子が食堂のドアを開けた。


ドアを開けた女の子は髪だけ見ればウィッグなしの僕と同じくらい短いし化粧っ気は全くないが、目がぱっちりしていて可愛らしい顔をしている。


「ただいま~!伊澤先生遅れちゃってすみません」


「おかえりなさい、別にいいわ。連絡もらえたしね。ご飯はいつも通りでいいの?」


「はい、お願いします!」



姉さんとそんなやり取りをしながら、席に着く。


スポーツバッグを持っていたし、部活帰りだろうか。


「そういえば、あなたが今日来るって言ってた新しい人っすか?」



「あなたと同じ2年生の五條皐月っす。これからよろしく」


「伊澤優です。よろしくお願いします」


自己紹介が終わったところで姉さんが山盛りのご飯を持ってきた。


これ、一人で食べるの?男の僕よりも全然多いんだけど。


「すごい山盛りですね」


「うん、部活終わった後っすから」


後から聞いたが彼女はバレー部のエースでかなりスポーツが万能のようだ。


「優さんは結構身長大きいけどスポーツとかやってるんすか?あ、先生と被っちゃうんで下の名前で呼びますね!」


大きい?そうか、女子だと僕の身長でも結構大きいほうなんだよね。男だと小さいほうだから大きいと言われるとちょっと複雑な気分だ。


「中学までは柔道やってましたけど、高校は特にやってないですね」


「柔道!?私も小学校のときはガチでやってましたよ!今でもたまに柔道部の助っ人に行くのでそこそこできるっすね。ほかにもバスケ部にも遊びにいったり」


そんなに身長も大きくないのにバレー部のレギュラーだったり、バスケ部と普通にバスケができるのはよっぽど運動神経がいいんだな。

まあ身軽そうだしな。どこがとは口が裂けても言えないが


「口裂けてる」


横から神無が言い、僕の心臓が飛びでそうになる。


「私、口に出してた?」

「何をですか?特に何もいってないですけど、口が裂けてるってなんですか?」

「いや、なんでもない。神無!?」

「ごめん、なんとなく」


五條さんは頭上にクエスチョンマークが見えそうなくらいキョトンとしてるので、本当に口にはでてないようだ。


神無のなんとなくの精度が恐ろしい。女性の感は鋭いというが、こんなにすごいのか。


神無はまだ半分以上残っているグラタンを何事もなかったかのようにゆっくり食べ続ける。まだ会ってから30分ほどしかたってないからしょうがないのかもしれないが本当に表情じゃ何を考えているかが読み取れない。もし付き合って浮気とかしたら、一瞬でばれそうだな。


「わかる」

「また!?」

「もう、先輩方なんなんですか!わかるように会話してください」


花宮さんに怒られるが僕もわかるように教えて欲しい。

女の子が三人よれば姦しいというのは本当だったんだなと僕は窓の方を見るのだった。


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