転校1-4

「とりあえず、これからは男バレしないように頑張って」


「はい、なんとかします」


「まあ、優愛ちゃんと岡先生がサポートしてくれるだろうからそこまで心配しなくて良いわ。そういえば、荷物多いけどまだ寮に行ってないの?

優愛ちゃん、すごい楽しみに待ってると思うけど」


すっかり忘れていたけど、先に理事長に挨拶をしに来たので、寮につく予定の時間からすでに40分ほど過ぎている。

まずい、先にこっちに行くことも連絡していないし、姉さんに怒られる。

普段は優しいけど怒ると結構恐いんだよな。

僕が動揺で目を泳がせていると、状況を察してくれた理事長がやれやれという顔をして、早く行ってあげなさいと手をフリフリして僕を送り出した。

その後、僕は早足で寮に向かった。


「ここか」


やや古いがきれいな洋館の前で僕は立ち尽くしていた。


ここは、明荘(あきらそう)と書いており僕の姉である優愛が寮長をしている寮だ。

ついでに言うと、僕がこれから二年間住む場所である。もちろん男バレして退学にならなかったらの話だけど。


学校から寮まではかなり近く、5分程で到着したが、もう予定の時間から大分過ぎていて、怒られるのが目に見えているのでかなり気が重い。


ここで立ち尽くしていても状況は変わらないことはわかっているので、洋館には不似合いな、インターホンを押す。


「はい、ご用件は何でしょう」


「こんにちは、今日からお世話になる伊澤優です。寮長はいますでしょうか」


「私が寮長です。今開けますので少々お待ちください」


落ち着いた声色の女性が対応してくれた。

あれ?寮長は姉さんのはずだけど、明らかに声の雰囲気が違う人が寮長を名乗っている。もしかして四月から寮長が変わるのか。そうなら男バレの危険性がさらに上がるんだけど。


ドアが開くと見知った顔があった。


「久しぶりね、優」


「うん、去年のお盆ぶりだね。姉さん」


あれ?ドアが開いて対応してくれたのはまぎれもなく姉さんだ。

でも雰囲気が違う気がする。最近は姉さんが長期連休の時しか会わないから、それほど会う機会はないけど、いつもはもっと馴れ馴れしいというか、もっと距離感が近い感じだった気がする。


ただえさえ僕よりも身長が大きいのに、今日はスーツをしっかりと着こなしているため、いつも以上に威圧感を感じる。


「予定の時間より随分遅かったわね。荷物を置いてから理事長への挨拶に行くと思ってたけどそっちの時間は大丈夫なのかしら?」


腕時計をコツコツと叩いて時間を僕に見せてくる。やはり遅くなったのを怒っているのかな。


「ごめんなさい、こっちに来るまでに時間が押しちゃったから先に理事長のほうに挨拶に行ってきたんだ」


「ああ、なら良いわ」


あ、そっちを心配してくれていたのか。普段とは様子が違うような気はしたけど優しいところは変わらなくてどこか安心した。


「取り合えず部屋に荷物を置いて来なさい。優の部屋は階段上がって一番奥の205号室だから。荷物を置いたら一階の寮長室に来なさい。一階は食堂とお風呂くらいしかないと思うから寮長室もわかるはずよ」


「うん、わかった」


とりあえず、階段を上がり奥の部屋に向かう。一番奥の部屋に向かうまでに4部屋あっり、手前の3部屋には、ネームプレートが合ったので、最低でも僕を含めて4人は寮生がいるようだ。


寮の部屋は8畳程あり、一人暮らしにしては充分な大きさだった。


トイレと風呂は共用のため部屋にはないが、ベッドやクーラーなど生活に必要な物はだいたいあるので生活するのに全く問題はなさそうだった。


さらに、女子寮ということもあり、クローゼットや大きな鏡が付いたドレッサーなどもある。

母さんから化粧品や女性用の服を大量に持たされたので、収納スペースがあって良かった。

とりあえず、部屋でゆっくりするのは姉さんの部屋に行ってからにしよう。


一階の寮長室に行きノックをする。


「優だけど、入ってもいい」

「はい、どうぞ」


姉さんの部屋に入ってドアを閉めると急に姉さんがこちら向かってきた。


「優~ずっと会いたかったんだから!しかも制服めちゃめちゃ似合ってるじゃない!」


そういうと姉さんは超ハイテンションで僕に抱きついた。


実家では見慣れた光景だが、さっきの対応とは全く違い面喰らってしまった。

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