転校1-2
「優大丈夫か」
「うん、何とか大丈夫」
女子校だと知らずに試験に受かってしまったという現実を未だに受け入れることができない僕が可哀想だと思ったのか、いつもふざけている聡にしては珍しく、全く茶化さずに心配そうに聞いてきた。それだけ男が女子校に合格するというのは異常なことなのだ。
学校側が男である僕を無条件に落としてくれればこんなことにはならなかったという文句はあるが、あの母さんが持ってきた話に何の疑問も持たずに乗ってしまった僕のほうが悪いのだろう。
「これからどうするんだ」
「とりあえず、母さんに聞いてみるよ。当然だけど母さんも女子校って知らないで僕に薦めたんだろうし」
「そのほうがいいな。早めにこの先どうするのか決めないといけないもんな。うちの学校残るならしばらく俺ん家泊まってもいいぞ。お前が来ると妹と母さんが喜ぶしな」
と言いながらにかっと笑ったので僕も苦笑で返す。
冗談混じりに言ってくれているが、心配してくれていることがわかる。
そのあとは、どうでもいい話をしながらハンバーガーとポテトを食べてワックを出た。
「手続きが間に合うとしたらこのまま残るのが一番いいだろうね。海外はとにかく行きたくないしその時は頼むかもしれない」
僕がそれだけ言うと、僕の頭の上に手をのせて、髪をくしゃくしゃしながら笑う。
「おう、任せろ」
いつもなら振り払うけど、なんか今日は温かく感じて素直に聡の明るさに感謝した。
聡のおかげで、落ち着きを取り戻してから、家にかえることができた。
家に帰ると母さんが鼻歌混じりにおかえりーと言ってくる。
母さんの機嫌が良かったので安心した。機嫌が悪いと僕の話聞かないからね。
「母さん、堀江学園って女子校だったんだけどどうすればいい?」
「うん、そうよ。どうするって別に問題ないじゃない」
「え、女子校って知ってたの?」
「当たり前じゃない。私、あそこの学校のOGだし」
母があっけらかんと答えるので、思わず問題ないのかと錯覚してしまう。
基本めんどくさい会話はこちらから折れることが多いがここは絶対に折れてはいけないところだ。
「いやいや、女子校なんて行けないでしょ。僕、男だよ!?それにあそこの学校の卒業生ってのもはじめて知ったんだけど」
「理事長には話も通してるし、めちゃめちゃかわいいから顔でバレることはないし大丈夫よ。優は女の子っていうにはちょっと髪が短いからウイッグは必要だと思ってもう買ってるの。あと制服と女の子用の服もさっき届いたわー」
ぼくの話を聞いているのか微妙な母はルンルンと、効果音が聞こえそうなくらい嬉しそうに言う。
機嫌が良かったのは制服が届いたからだったのか。
僕の心が折れかけていると追撃を仕掛けてくる。
「ちょっとウイッグもメイクもして制服来てみようか」
「はあ」
もうなるようになれば良い。
心が折れた僕は2時間程、母の着せ替え人形となったのだった。
「はー、満足した。私、子供のメイクとか服とかのコーディネートずっとしてみたかったの。お姉ちゃんは自分で勝手にやっちゃうし、格好いい系の服しか着ないからずっと退屈してたのよ」
まあ姉さんは身長も170センチくらいあって僕よりもでかいし、切れ長の目をしてる美人だから可愛い系の服はあんまり似合わないだろうな。
いや、そんな事はどうでもいいんだけどあまりにもこれからの学校生活を考えると気が重くて現実逃避をした。
結局、あれから母を論破することは出来ずに堀江学園に転校することになった。
今は3月の上旬だから終業式までは今の学校で過ごし春休みに引っ越しすることになった。
2年生からは波乱の女子校生活が幕をあける。
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