女子校に転校して男バレするが個性的な女の子に振り回されながらなんとか生活していくようです

もる

転校1-1

どうしてこうなった…


ごく普通の高校一年生である僕、伊澤いざわゆうはなぜか足がスースーする制服を着て、私立堀江学園の校門前にいる。


私立堀江学園は由緒正しき女子高であり、日本最古の女子校であると言われている。


こんなところに男の僕がいることを説明するには、3ヶ月前まで遡らなければいけない。


「優、大事な話があるの」


「何、母さん」


母の早苗は申し訳なさそうに話かけてきた。普段陽気でテンションが高い母さんがこんな顔して、話しかけてくるのは珍しいことだ。話をされる前から嫌な予感がする。


「父さんの仕事で引っ越すことになったから転校してもらうことになったのよ」


急に言われた言葉に愕然したと言うことはそれほど無かった。仲の良い友達は普通にいるが僕の通っている学校は日本でも指折りの進学校で毎日の勉強がきつすぎたのでもう少し楽な所にいきたいとずっと思っていた。

この勉強地獄から解放されるなら、転校くらいたいした問題ではない。


「まあ、転勤ならしょうがないよね。引っ越し先はどこなの?」


あっさり納得した僕の顔を見て母さんは嬉しそうに日本の真裏の国名を言ってきた。


「海外!?僕だけ一人暮らしで日本に残っちゃだめかな?」


前言撤回。転校は別に良いが流石に海外は話が別だ。そこの国はたしか母国語が英語ですらない。新しく言語を覚える努力を考えたらきつい勉強を母国語でやったほうが100倍ましに感じる。


母さんは料理がダメダメだったので、家の料理は全部僕が作っていた。お店レベルとまではいかないが、一人暮らしをするのに必要な料理スキルとしては十分すぎるだろう。家事も一通りできるし一人暮らしはしたことはないがなんとかなるはずだ。


「転勤ならしょうがないっていったじゃん」


僕がいきなり意見を変えると母さんは涙目になって抗議してきた。


「海外は話が別でしょ」


「絶対1人暮らしなんて駄目よ。優、女の子みたいに可愛いし、心配だもの」


心配って一応柔道は黒帯でかなり強いほうではあると思うんだけど。それに女の子っぽい顔は僕も気にしているから言わないでほしい。それを気にしてショートヘアにしているのに。


やはり転校する4月からやっと高校2年生だし流石にまだ一人暮らしは許してもらえないよね。諦めムードになっていたところ、


「でもちょっとまって…そういえば…」


「母さん?」


表情がコロコロ変わって、急にぶつぶつ喋り出した。


こういう時の母さんはろくなことを言わないからちょっと心配になった。


「母さんの知り合いが、経営してる学園ならいいわ。あそこなら学力もそこそこ良いし、治安も良いから。あと寮もあってそこの寮長は優愛だから」


優愛とは10個離れた僕の姉だ。


どこかで先生をやっているといっていたがどの学校で働いているとかは聞いたことがなかったな。


長期連休でたまに帰ってくる度に、僕を猫っ可愛がりしてくるからちょっと苦手だ。


でも寮とはいえ一人暮らしに憧れがあった僕にとっては渡りに船の話だと思い了承した。


今となればどうして、母さんの提案に何の疑問もなく乗ってしまったのかはわからない。


それから、少したち編入テストを受けた。

勉強に苦戦はしていたといえ、日本トップの進学校で中間くらいの順位を毎回取っていた僕にとってはまったく難しいものではなかった。


転校先は決まったが引っ越すことを同じ高校に通っている親友の聡には話さなければならないだろう。


「聡、僕転校することになった」


「まじか」


安西あんざいさとる。小学校の時からずっと同じクラスの腐れ縁。バスケ部のエースで俗に言うハイスペック男子というやつだ。


聡は一瞬だけ、悲しそうな顔をしていたがすぐにいつもの表情に戻した。


「そうか、とりあえず今日の放課後にワックでもいくか!」


「うん、ありがとう」


普段は適当なのにこういう時には気遣いができるから聡は女の子にモテるのだろう。


授業が終わり学校の近くのファーストフードの店である、ワックに移動して聡に転校することになった経緯を話した。



「それで、何て名前の学校なんだ?」


「私立堀江学園だね。寮もその学校のすぐ近くみたい」


そう僕が言うと、聡は眉間にシワを寄せて何かを考えている。


「どうしたの?」


「あー、あそこって共学になったのか。でもそんなところに男子寮なんてあるのか?」


聡は一人で納得し、頓狂なことを言う。


「え?そこって昔女子高だったの?」


「お前本当にそういうの興味ないよな。俺も別に詳しくないけどお嬢様学校といえば堀江ってくらいには有名だぞ。てか、受ける前に調べなかったのかよ」


聡はシェイクを飲みながら呆れたように僕に言う。


一人暮らしで許してもらえる場所の選択肢はそこしか無いので、調べる必要も感じていなかった。

海外に行くくらいなら多少変な学校でも良いと思っていたくらいだ。


そんなことを考えていると、Coocle先生で学園のホームページを調べている聡の表情がどんどん曇っていった。


「おい、優。ここ今でも女子高みたいだぞ」

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