おうぎを舞いし染の運命 二十六




 仁の区画、漆黒町、絶滅危惧種『ほの』が地生する森にて。


 紅凪こうしとトキが頃合いを見てチャンバラごっこを止めるようにと言ったのだが、氷月も仙弥も二人の声が届いていないかのようにまるで反応を示さず、氷月ひづきは『ちゃみつ』を打ち続けては、仙弥せんやが受け止め続けていた。

 これはもう氷月と仙弥の気が済むまでやらせようと決めて、見守る事にして、一時間。二時間。三時間と時間が経過するにつれて、空の色が青から赤橙へと徐々に変わっていき、すでに暗闇に包まれていたが、それでも、氷月と仙弥は動きを止めようとしなかった。

 根気強く待とう。トキはすでに再び現れた錦秋の忍から手渡されたお弁当(さつまいも天、牛蒡と人参のきんぴらごぼう、沢庵と醤油煮鶏の混ぜご飯)を食べ終わっては、これまた忍から手渡された毛布を持って行き、さっさと秘密基地の中で睡眠を取っていた。


(多分。親父が護衛役に忍を近くに配備してくれてんだろうな)


 あれやこれやと世話を焼いてくれる忍の存在が心強かった紅凪。氷月が殺されてしまうのは『扇の舞』当日だったが、それは今迄の話である。トキも現れ、仙弥も何度もやり直して来たと聞いた今、もしかしたら変わってしまう可能性も無きにしも非ずの状況なので、護衛役がいる事はとても有難かったのだ。


(まあ。仙弥も警戒してくれているだろうけどな)


 氷月と仙弥を応援するかのように、常ならば青色の光は淡いのだが、今は強い青色の光を放ってくれている『ほの』のおかげで、氷月と仙弥の姿が鮮明に見えていた。


(他国に行かないまでも、どっかの強固な施設に氷月を閉じ込めていた方が守れるんだろうな。いや。どうだろうか。突然強い地震が襲いかかって来て、逃げる暇なく建物に押し潰される可能性だってある)


 あれやこれやと考えては、あれやこれやの考えを否定していく。

 これで本当に氷月を守れるのか。


(災厄をどうにかできたならなあ。みんな、不安になってるから、『雪芒』を悪者にしようとしている。不安さえ拭えたら。あ~あ。『扇晶国』の昔物語みたいに、災厄を神の加護を受けた扇で薙ぎ払えたら。時の神様のトキ、は。そんな事できるならとっくの昔にしてるよな。ああ。ちょびちょび解決していくしかないのか。そうだよ。災厄はもう少しずつ解決していくしかないって決めただろうが。一気に解決できるわけないだろ)


 紅凪は凝り固まった筋肉を解すように、両頬に手を押し当てながら回していく。


(氷月は『雪芒』だ。雪晶ゆきあき殿が氷月の芯に在る以上、『雪芒』で在ろうとし続けるはず。在りたいと念じ続けるはずだ。雪晶殿に背を向けられたとしても。追い出されたとしても。氷月が『雪芒』から、雪晶殿から目を離す事はない。ずっと見続ける。無理矢理にでも、目を逸らさせた方がいいのか。それとも、もう、とことん見続けろって応援した方がいいのか。あ~~~。分かんねえ。分かんねえよ!)


 根気強く待とうと思っていた紅凪は、不意に何故二人を見続けなければならないのだろうとの思いが生まれては、即刻立ち上がり足早に歩き出して、『ちゃみつ』を二本折って容易に取って、走り出し、俺も参戦すると氷月と仙弥に向かって飛び込んだのであった。




(ガキ共が、)


 一気に騒々しくなったチャンバラごっこを聞くとはなしに聞きながら、トキは意識を沈めたのであった。











(2024.11.24)



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