おうぎを舞いし染の運命 二十五
仁の区画、漆黒町、絶滅危惧種『ほの』が地生する森にて。
「やはり
「ああ」
秘密基地の外で早速チャンバラごっこをしていた
仙弥は治安部に所属している
(
『ちゃみつ』は人間に強く当たらなければ、火花を散らすように、赤、橙、黄、緑、青の小さな花々が弾き飛んでは空へと舞い上がらないので、氷月と仙弥は激しく『ちゃみつ』を打ち合わせているが、花が弾き飛ぶ事はなかった。
(けど、氷月も武の実力はある)
氷月が『ちゃみつ』を仙弥の身体に打ち続けようとしているのに反し、仙弥は氷月の素早い攻撃を取りこぼす事なくすべて受けていた。しかし、受けるだけ。打つ事もできるだろうにしていなかった。受けるだけで精一杯、氷月に隙がないので打つ事ができない、というわけではないんだろう。
(チャンバラごっこだって言ってんのに。師匠と弟子みたい事をしやがって。まあ。仙弥と氷月は似たような関係か。氷月が最初に懐いたのは仙弥だし。仙弥も可愛がってたし、氷月に忍びの事を教えていたしな)
羨ましいと、紅凪は思った。仙弥が羨ましい。一番に氷月に近づき、唯一氷月のすべてを受け止められるのだから。
(通じ合ってるっつーか。境遇が似ているからか。二人だけしか見えてない世界があるっつーか。やっぱ。お似合いっちゃお似合いなんだろうけど。氷月が現状甘えているのは。甘えられているのは、仙弥だけだし。ただ。恋愛関係になるかって言えば。う~~~ん。前はそうなるんじゃないかって、妬いた事もあったけど)
紅凪は秘密基地の前でトキと横に並んで膝を抱えて、チャンバラごっこをする氷月と仙弥を見ていた。氷月はひたすら打ち続けているし、仙弥はひたすら受け続けている。心なしか楽しそうだ。二人だけの世界だ。
(まあこれで氷月が少しでも元気になってくれたら、)
「仙弥にヤキモチを焼いているのか?」
「焼いてますけど何か?」
「素直だな」
「もう求婚もしたし。氷月に改めて告白するつもりはないけど、別に氷月が好きな気持ちを否定するつもりもないし」
「仙弥に張り合っているわけか。小さい男だな。おまえ」
「小さい男ですけど何か?」
「小さいなら小さいなりに小さく氷月を支えろよ小さい男」
「………トキさんよお。氷月の父親って何なんですかねえ」
「小さいなりに支えようと思ってな」
「氷月は何ですんなり受け入れてんだよ?嘘だとか疑わなかったのかよ?疑わないとして、自分を捨てた親だろ。反発するだろうが」
「
「………雪晶殿は何で急に氷月を追い出したんだ?氷月は加治殿の『雪芒』を成功させたばかりじゃねえか。確かに待たせ過ぎたは待たせ過ぎただろうけどよ」
「さあな。あの堅物が何を考えているのかさっぱり分からん。が。少なからず『雪芒』に悪意が向けられているからな。雪晶なりに氷月を守ろうとしたのかもしれないな」
「………おまえは氷月を守ろうとしてるんだよな?」
「そうだな」
「『雪芒』に戻る事が氷月を守る事だと思っているんだな?」
「俺はそう思っているが。おまえが考え抜いてそうではないと結論を出したなら、それに従えばいい。俺は確かに時の神だが、時の神である俺の言葉に従えばいいと安易に考えるのは止めておけ」
「んなの考えねえよ」
「ならいい。しかし、あいつらはずっと打っては受けてはを続けそうだな。機を見て止めるぞ。紅凪」
「ああ」
(どうしたら、氷月を守れるか。か………ずっと、俺が、俺たちが守ればいいと思い続けてきたけど、)
手も足も休めずにずっと仙弥に『ちゃみつ』を打ち続ける氷月を暫くの間、紅凪は無言で凝視し続けたのであった。
(2024.11.23)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます