おうぎを舞いし染の運命 十八
仁の区画、漆黒町、絶滅危惧種『ほの』が地生する森にて。
『っへ!諫めろ!俺は
(やけっぱちになっていませんと、否定したけど、もしかしたらやけっぱちだったのかもしれない。私は、ただ。もう。悲しませたくない。何もできない人間だったと思ったまま去りたくない。歯がゆさと、自分自身に対する苛立ちと、目を逸らしてほしくないという切望と………喜んでほしかった、のに、喜ばせる事ができなかった。から。せめて。国王様の言葉に縋ってしまった。本当は。早く目の前から消えた方がいいのかもしれなくても。どうしても。諦めたくなかった)
「何だ?置いてけぼりか?」
「待っているようにと
氷月は突如として秘密基地の中に入り込んできたトキにそう告げた。
結局、淡々と新聞記事の内容を口にし続けていた氷月は起きたまま、氷月の声を聞き続けていた
「血相を変えて走って行っていたからな。よほど重要な事だったんだろうな」
トキは膝を抱えている氷月の隣で胡坐を掻いては、護衛はいるぞと続けて言った。
「俺は元よりおまえにもな。俺とおまえは王子の婚約者だからな。
「トキ様は紅凪王子の婚約者ですが、私はもう
「『雪芒』ではないと落第印を押された挙句、『
「………護衛の方から聞いたのですか?」
「さあな」
トキは意味ありげに目を細めた。氷月はトキへと向けていた顔を秘密基地の出入り口へと動かした。
「『雪芒』ではない私を婚約者にする必要はありませんので、婚約者の件はすでに破談になっています」
「昨夜、
「雪晶様は一度決めた事を覆しはしません」
「だろうな。けどそんな頑固親父の意見も容易く覆せるのが国王だ」
「国王様に『雪芒』になれると言われても、雪晶様に言われなければ『雪芒』にはなれません」
「だったら、『扇の舞』は『雪芒』ではないおまえが舞い踊る事になるな。家名もなければ、職名もない。何もないおまえが。避難殺到だろうよ。無名の者が国を背負う神事の舞を舞い踊る事になるんだからな」
「………」
「何だ?怖気づいたのか?」
「はい」
「辞めたいなら辞めればいい。その場合、俺が代わりに出てやってもいい」
「………いいえ。辞めません。もう逃げないと決めました。実力不足なのは重々承知です。非難も𠮟咤もその通りだと受け入れます」
「わざわざ受け入れるな。弾き返せ。相変わらず頭が堅いな」
「………はい」
(怒った顔をしている。が。この感情だけか。はたまた押し込めているだけ、か)
ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。膝を抱える腕の力を強めている氷月の顔を横目で見つめていたトキは、どうしてやろうかと不穏な笑みを浮かべたのであった。
(2024.11.14)
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