第21話 外に出ると

 私は、今日も執務室にいた。

 ただ、今日はこの執務室に仕事をしに来た訳ではない。


「サフィナ様、準備は問題ありませんか?」

「はい。しっかりと着込んでいますから、大丈夫だと思いますよ」

「……そのようですね」


 私の服を見ながら、リンドラ様はゆっくりと頷いた。

 リンドラ様は、色々と心配性だ。外に出た時、私が冷えないか、とても心配してくれているのだろう。


「リンドラ様、心配はいりませんよ。この服は、ラルリアさんに選んでもらったものです。彼女が間違えるはずはありませんよね」

「そ、そうですね……」


 私の服装は、メイドのラルリアさんが選んだものだ。

 ここで暮らす彼女が、私が冷えるような服を選ぶはずがない。

 よって、リンドラ様がそこまで心配する必要はないのである。


「いけませんね。使用人を信じられないなど、主人失格です」

「そうですよ。彼女を信頼しているなら、心配はしないでいいはずです」


 もし尚もリンドラ様が心配すれば、それはラルリアさんへの不信ということになるだろう。

 リンドラ様も、主人として、そのようなことはなるべくしたくないはずだ。


「それでは、行きましょうか」

「はい」


 という訳で、私達は外に出ることにした。

 今日は、外に用事があるから、このようなことを言っているのだ。




◇◇◇




 私とリンドラ様は、数名の使用人達とともに外に出ていた。

 今日は、先日約束していた周辺住人と私の顔合わせをするのだ。

 リンドラ様の屋敷から、町までは少し距離がある。今は、町に向かって歩いて行っている途中だ。


「サフィナ様、私の手をしっかりと握っていてください」

「はい……」


 私の手は、リンドラ様としっかりと繋がれていた。

 これは、足元が滑るため繋いでいるのだ。

 この辺りは、地面に雪が薄く積もっており結構危ない。慣れていない私は、猶更である。

 そんな私を気遣って、リンドラ様は手を握ってくれているのだ。


「本当に、この辺りは大変なのですね……」

「ええ、歩くのにも一苦労です」

「……でも、リンドラ様も使用人さん達も平気そうですね?」

「私達は慣れていますからね」

「それは、そうですよね」


 私の質問に、リンドラ様はそう答えてくれた。

 考えてみれば、それは当然のことだ。長い間、ここで暮らしている人達が慣れているのは当たり前である。


「確か、ゆっくりと小さく歩くのがいいのですよね?」

「ええ、基本的には慎重に力強く歩くのがいいですよ。大切なのは、バランスを保つことです。大きく踏み出すと、片足で体を支えるでしょう? そうなるのはよくありません」

「なるほど……」


 滑る地面での歩き方は、教えてもらっている。

 そのため、私も以前よりは滑らないで済んでいるはずだ。

 だが、やはり慣れていないのか、まだまったく滑らないという訳ではない。

 そんな風に、私は歩いて行くのだった。

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