第14話 もっと気軽に

 私は今日も、リンドラ様とともに働いていた。

 仕事を始めてから、しばらく経った頃、リンドラ様の手がゆっくりと止まる。


「少し、休憩にしましょうか?」

「あ、はい」


 いつも通り、休憩の合図だ。

 私はその合図を聞いて、手を止める。別に、時間は大体わかっているのだが、いつもこの合図を聞いて手を止めることが習慣になっているのだ。


「あ、そういえば……」

「む? どうかしましたか?」


 そこで私は、とあることを思い出した。

 それは、リンドラ様と会話していて思っていたことだ。


「リンドラ様、私達、一度敬語をやめてみませんか?」

「敬語をやめる?」

「はい。夫婦になるのですから、いつまでも敬語だと少々堅苦しいかと思ったのです」

「なるほど……」


 私達は、いつも敬語で話をしている。

 だが、これから夫婦になるにあたって、そのままでは堅苦しい気がするのだ。

 もちろん、人前では敬語の方がいいかもしれない。だが、二人きりの時くらいは、もっと気軽に話すくらいがいいのではないだろうか。


「確かに、私達は惹かれ合っている訳ですから、そのようにしても問題はありませんか」

「そうです。もっと、普通の恋人のように接しましょう」

「わかりました。なら、敬語をやめてみましょう」


 私の提案に、リンドラ様は乗ってくれた。

 私達は、敬語をやめてみることにしたのだ。


「さて、それでは……えっと、何を話しましょうか? ……ではなく、何を話すのかしら?」

「そうですね……いや、そうだな。何を話しましょう……ではなく、話そうか?」

「えっと……最近の屋敷でのメイドさん達が噂していたこととか、どうかしら?」

「なるほど、よさそうだな」


 敬語をやめてみてわかったが、リンドラ様は本来このような口調らしい。

 いつも丁寧だったが、本当は意外に荒々しい口調であるようだ。


「なんでも、執事のボーダンさんの娘さんが、こっちに帰って来るみたいなのよね」

「そういえば、そんなことを言っていたな。久し振りの里帰りということで、ボーダンさんが楽しみにしていたな」

「ええ、見ているこっちも、嬉しくなるくらいだったわ」


 敬語をやめたからか、なんだか自然体で話すことができる。

 この状態をリンドラ様に見られるのは少し恥ずかしいが、それ以上に心地よかった。

 考えてみれば、ここまで自然体で話せる人などほとんどいない。だから、これ程までに落ち着けるのだろう。


「……中々悪くないな」

「ええ、そうみたい」

「これからは、これで話すのもいいかもしれないな」

「そうね」


 私とリンドラ様は、お互いに笑顔になる。

 こうして、私達はしばらく敬語をやめて過ごすのだった。

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