第11話 彼への問いかけ

 リンドラ様の噂を聞いてから、一晩が経っていた。

 私は今日も、リンドラ様の隣で働いている。

 昨日、部屋に戻って気持ちを整理した結果、とりあえず働けてはいるのだ。

 仕事を始めてから、しばらく経った頃、リンドラ様の手がゆっくりと止まった。


「少し、休憩にしましょうか?」

「あ、はい」


 いつも通り、それは休憩の合図だ。

 私は手を止めながら、少し考える。この休憩の間に、リンドラ様に聞いておいた方がいいのではないかと。


「リンドラ様、少しいいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」


 そう思った私は、リンドラ様にすぐに呼びかけた。

 躊躇う必要は、特にないと思った。聞かずに後悔するくらいなら、聞いて後悔する方がいいだろう。


「実は昨日、メイドさん達からとある噂を聞いたのです」

「噂?」

「はい、リンドラ様の噂です」

「……私の?」


 私の言葉に、リンドラ様は少し表情を変えた。

 恐らく、リンドラ様も屋敷の中でどのような噂が流れているかは把握しているだろう。

 大抵の場合、そのようなことは耳に入るものなのだ。そのため、私がどのような噂を聞いたのか、大方察しているはずである。

 だからこそ、少し焦った表情になったのだろう。あの噂を、私が聞いたと思っているなら、とても納得がいく表情だ。


「そ、それは、どのような噂でしょう?」

「リンドラ様の初恋が、私の母だったという噂です」

「む……」


 私が答えると、リンドラ様はとても微妙な表情になった。

 なんというか、色々な感情がありそうな顔だ。一つわかるのは落ち込んでいるということである。やはり、この噂を私に聞かれるのは、嫌だったのだろう。

 だが、聞いてしまったものは仕方がない。申し訳ないが、追及させてもらおう。


「その噂は、本当なのですか?」

「……間違っているということは、ないでしょう」


 私の質問に、リンドラ様はそう答えてくれた。

 曖昧なようで、別に曖昧ではないような答えだ。要するに、噂は本当なのだろう。


「助けられた時から、ということでしょうか?」

「そうですね……私が一人になった時、支えてくれたのはあなたのお母様です。そのことから、私は好意を抱いていたといえるでしょう」

「そうですか……」


 どうやら、リンドラ様が両親を亡くしている時に、支えたのが要因であるようだ。

 確かに、傷ついている時に年上の女性に優しくしてもらえば、好意を覚えるのも当然のことなのかもしれない。

 子供の初恋といえば、そのようなものなのだろう。別に、不思議ではない。

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