第10話 彼の初恋

「その……リンドラ様は、サフィナ様が来ることをとても楽しみにしていました」

「そのことを語る時は、明らかに口調が違ったので、間違いないと思います」

「そうなんですね……」


 二人のメイドは、まずそう言ってきた。

 やはり、リンドラ様は私が来ることを楽しむにしていたようだ。

 だが、私が来ることをどうして楽しみにするのだろうか。問題はそこである。


「でも、どうして楽しみに?」

「それは……」

「えっと……」


 私の質問に、メイドさん達は再び躊躇うような仕草を見せた。

 どうやら、何か知っているか話しにくい理由らしい。


「お世話になったコルニサス家に、恩を返せるから楽しそうだったとかですか?」

「いえ、そうではないんです」

「非常に言い辛いのですが、サフィナ様だからこそ、楽しみにしていたのです」

「私だからこそ?」


 私の予想を述べてみたが、まったく違うようである。

 リンドラ様が楽しそうにしていたのは、私が来るということが重要らしい。

 まさか、リンドラ様が私に個人的に好意を抱いていたということだろうか。

 いや、それはないだろう。私とリンドラ様に、今まで繋がりはなかった。噂だけで人に惚れるなど、そうないことだろう。


「あっ……」


 しかし、私はそこであることを思いついた。

 それは、リンドラ様の過去と照らし合わせれば、とても納得がいくことである気がする。


「もしかして、私の母が関係しているとか?」

「あっ……」

「えっと……」


 私の言葉に、メイドさん達はゆっくりと頷いた。

 どうやら、間違いないらしい。

 恐らく、リンドラ様は私の母に特別な思いを抱いていたのだ。


「リンドラ様の初恋は、サフィナ様のお母様だったらしいんです」

「サフィナ様は、お母様とそっくりらしいという噂を聞いていて、だからリンドラ様は、楽しみにしていたんだと思います」

「なるほど……」


 二人の言葉に、私は複雑な気持ちになってしまう。

 婚約者が、母親に憧れていたことや、だから私が来るのを楽しみにしていたということ。それらの事実は、私を大いに混乱させる。


「えっと……もしかして、リンドラ様はだから私を婚約者に?」

「あ、それは違うと思います」

「多少なりとはあるかもしれませんが、恩を返すという面が大きいはずです」


 私の言葉に、メイドさん達は慌てて返してきた。

 確かに、私の判断は少し極端だった。少し混乱しすぎているようだ。


「わ、わかりました。話してくれて、ありがとうございます」

「あ、いえ……」

「こちらこそ、色々と申し訳ありませんでした」


 とりあえず、私は部屋に戻って、気持ちを落ち着かせることにした。

 このままの気分では、何もできそうにない。

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