第9話 メイド達の噂話

 私は仕事を終えて、屋敷内の廊下を歩いていた。

 とりあえず、部屋で休むためである。


「最近、リンドラ様も楽しそうですよね……」

「そうですね……確かに、楽しそうです」


 そんな私の耳に、女性二人が話す声が聞こえてきた。

 どうやら、メイドさん達が、リンドラ様の話をしているようだ。


「これも、サフィナ様が来たからでしょうか?」

「ずっと楽しみにしていましたから、そうでしょうね」

「え?」


 その話の中に、私が出てきた。そのことに、私は反射的に声をあげてしまった。

 当然のことだが、それによりメイドさん達も誰かが聞いていると理解してしまう。


「だ、誰ですか?」

「あ、えっと……」

「サ、サフィナ様?」


 仕方ないので、私はメイドさん達の前に出ていった。

 すると、二人のメイドさんは目を丸くして驚く。

 それも、当然だろう。噂していた人が、目の前に現れたのだ。驚かない訳がない。


「もしかして……先程の話を聞いていましたか?」

「あ、はい……」

「い、一体、どこから?」

「えっと、リンドラ様が楽しそうだという所からです」

「そ、そうですか……」


 メイドさん達は、とても気まずそうに目を見合わせた。

 この反応も、仕方ないものだろう。私が聞いていい会話では、なかったはずだからだ。


「少し、事情を聞いてもいいですか?」

「は、はい……」


 しかし、私も聞かずにはいられなかった。

 なぜなら、先程の話に私が出てきたことは、とても気になることだからだ。

 メイドさん達には申し訳ないが、私もこのまま去っては行けそうにない。


「リンドラ様が、楽しそうにしているというのは、本当ですか?」

「は、はい。以前までに比べて、笑顔が増えたと思います」

「そうなんですね」


 まず私が聞いたのは、リンドラ様のことである。

 リンドラ様が以前よりも明るくなったというのは、本当のことであるようだ。

 ただ、聞きたかったのはそこではない。その次の部分が、私には重要なのである。


「それに、私が関係しているというのはどういうことですか?」

「えっと……」

「それは……」


 私の質問に、メイドさん達は少し気まずそうな顔をした。

 流石に、本人の前で色々と言うのは嫌なのだろう。その気持ちは、とても理解できる。

 だが、私としてもこのまま何も知らずに帰ることはできない。聞いてしまったからには、知らないと引けそうにないのだ。


「一度聞いてしまったので、私としてはとても気になっています。だから、話してもらえるとありがたいのですが……」

「そ、そうですよね……」

「仕方ありませんよね……」


 メイドさん達は、私の言葉に納得してくれたようである。

 これで、やっと真実を知ることができそうだ。

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