第6話 僕と友達になってくれますか?
不可抗力で危険区域に入ってしまった上に、迷い人になってしまった際に取るべき行動とは。
いち、救助が来るまでその場で待機。
にい、出入り口を求めて彷徨う。
さん、その区域の住民と交流を図り出入り口まで案内してもらう。
よん、そこで生きていく。
過去の俺。
正確に言えば一時間前までの、不安に駆られ脆弱と成り果ててしまった俺ならば、『いち』を選択しただろう。
だが今は、違う。
勇猛果敢さを取り戻した俺が取るべき選択肢は。
『さん』の一択。
その区域の住民と交流を図り出入り口まで案内してもらう。だ。
荒々しく地を蹴り、空を切る幻の珍獣、漆黒のユニコーンしか横切っていないとしても関係ないね。
じゃあ、ユニコーンと交流を図って、出入り口まで案内してもらえばいいわけじゃん。
あわよくばその強靭でしなやかな背中に乗せてもらって、空中飛行まで味わらせてもらえればいいじゃない。
なにそれ、なにそれ!!!
魔法使い弟子冥利に尽きるじゃん!!!
(おっしゃおれえぇぇ。いくぞおれえぇぇ)
「あうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあうあう!」
真正面に立つのは却下。
人間同士でも人間と人間以外の生物でも目と目を合わせれば大概心が通じ合うと言われているが。実際問題、突如として眼前に現れたらどう思う?
驚くだろう。
ユニコーンを驚かせてみろ。
前足蹴りを喰らう可能性が高いぞ。一撃必殺でこの世からさようならだ。腹に穴が開いていても俺は驚かない。
そう思考を巡らせた俺はユニコーンの横に位置を定めながらも、しかし、円らな瞳に視線を一直線に伸ばして、雄叫びを上げる。
習得した“あ”と“う”を早速使って交流を図ったのだ。
しかし、頭の中は空っぽだ。
いやいやいや。本当はあれ。
大変申し訳ないのですが、出入り口まで案内してくれませんか、とか。
突然申し訳ありませんが、少しだけお尋ねしたいんです出入り口はどちらですか、とか。
至極恐悦ながらも、出入り口はどちらに配していらっしゃいますでしょうか、とか。
意味を持たせたかったわけですよしかし。
何故か何も考えられない。
この二文字を発した時の俺の頭の中はまさに天国、澄み切った純白の世界で覆われている。
簡単に言えば、無、である。
俺は果たして魔法の効果に驚いた。
頭の中を無にすることも。
そして。
漆黒のユニコーンが純白のユニコーンに変化してしまったことも。
感激と同時に。
絶好の機会だと、胸が躍った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺はさらに雄叫びを上げていた。
会得しやすいであろう一文字の内の一つ“お”を音に出していたのだ。
ただ、これを出そうとは思っていなかった。
正直選び取る余裕もない中、俺の口が勝手に出していたのだ。
しかし果たして、それが功をなした。
頭が思考を巡らせるより早く身体が勝手に反応してくれたおかげで、音に感情を乗せずに済んだのだ。
結果、俺は“お”の会得に成功したのだ。
これで俺は“あ”“う”“お”の三文字会得に成功したのである。
「あうおあうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
胸が打ち震える。
確信を得る。
ユニコーンと意思疎通を図れる。
「おい、ついてこい」
気合を一新した雄叫びを上げようとした瞬間に言われた言葉。
止まった足。
向けられた顔。
交わる視線。
(人語話せたんですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああ)
顔と言わず、全身が真っ赤っかになった俺。
はいと、小さく返事をして、ユニコーンさんについていった先。
は、出入り口ではなく。
彩様々なユニコーンさんが周囲に鎮座なされていらっしゃる窪地でした。
さながら蟻地獄のような環境。
「僕と友達になってくれますか?」
あ、僕と友達になりたくて、仲間に紹介してくれるのかな。
とか、おめでたい考えを抱いたわけではないのだけれど。
俺の優秀な口は優秀な頭脳に翻って、そう提案していた。
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