第5話 自分閃きナイス



【あ】  い胃  【う】 (え) (お) 


か蚊  き木 (く) け毛  (こ)


(さ) し死 す酢  せ背  (そ)


た田  ち血 (つ) て手  と戸


な菜 (に) (ぬ) ね根 (の)


は歯  ひ火  ふ麩  へ屁  ほ帆


ま魔  み身  む無  め目  も藻


や矢      ゆ湯      (よ)


(ら) (り) (る) (れ) (ろ)


わ輪      (を)     (ん)





「いち、に、さん………じゅうなな」




 紙に一覧表を書き出し、(括弧)、つまりは取得しやすいだろう一文字の個数を数え終えた俺は、むむむと口を一文字に結んだ。


 多いのか少ないのか。


 


「つーか。物体よりも先に思い浮かべるのは漢字なんだよなー」




 それこそ零点何秒差なのだろうけれど。






「ひらがなだけの時代って……いや。漢字のあとにひらがなだっけ……ひらがなって不便……でもねーかわかんねー」




 文字の誕生にまで思考を働かせようとしてはたと、違うだろうと停止させる。


 とりあえず、取得しやすいだろう括弧十七文字から攻めるにしても、まず白い物体を直に見ないことには話にならないのだ。


 現在使ったのは、師匠の道着と歯。


 思い浮かぶのは、骨。


 ……残り、四十二個。




「…動物に白だけのっていなかったけか?」




 指パッチン。自分閃きナイス。


 そうじゃん。動物だよ。動物。白クマに白アリに白イルカ白ザル白イヌ白ネコ。


 知らないだけで他にもたくさんいるはず。




「よっしゃあ!!」




 希望が見えて歓喜で身体が震える。口元が緩む。一本柱の炎みたいに闘志が身体の端から端まで貫く。


 動きたくて仕方がなくて。辿り着いていなかった図書館の出入り口まで駆け走ろうとした矢先。




「魔法なんか取得すべきではないのだヨ」




 攻撃できるんじゃないですかと思われるような八の字の前髪。目元を隠す黒の星形サングラス。いかつい筋肉を強調するのは全身黒タイツ。腰から膝まで隠すのは腰ミノ。


 あまりにもお近づきになりたくない男性が目の前に出現した。




「ヘイボーイ。忠告は聴き入れた方がミーの為だヨ」




 ガチョーンのポーズを取る男。


 無視をする。無視をする。無視をする。


 点滅しては現れる文字を実行に移す為には?


 選択肢は一つしかない。


 猛ダッシュで逃げ切る。


 持て余していた有り余る力を発散したかったしネ。ちょうど良かったジャン。




「ボーイ!待ちたまえ!」


「待たねえし魔法も取得する!」




 おっさんだかにいさんだか年齢不詳の男はしつこかった。


 捕まることはなかったが、寸での処でという場面は多々あって。


 だからこそ無我夢中で逃げ切ったその結果。


 図書館から遠ざかるばかりか。




「……黒の森、じゃ、ねえよな」




 禁忌の森。通称『黒の森』に似た場所へと迷い込んでしまった。


 多分。恐らく。たぶん。おそらく。伝え聞いた特徴に酷似している場所なだけで違う、だろう。


 『黒の森』でしか存在しない生物。そう。荒々しく通り過ぎる幻の珍獣、漆黒のユニコーンがいたとしても。




(…師匠~)




 声は出せない。存在を悟らせてはいけない。何故なら危険だから。


 なので、俺は口に手を当てて必死に師匠に助けを求め続けた。










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