第17話 桐の花に届かぬ/蛍火
初めて見た時、
可愛いと思った。
彼なのにと、疑問も否定も一切思い浮かばず。
高校二年。
渚はおろか佐之助やかりんも僕の事など知らないかもしれないが、
彼らと同じ高校に通っていた僕は、
笹田美影に恋する彼に
恋をした。
似合いだと、並んで歩く彼らを見て素直にそう思った。
幸せになってほしいと、一言も話した事もない彼に本気で願った。
のに。
高校二年六月の文化祭。
笹田美影の母親らしき女性の乱入をきっかけに、
姿を消した彼女の所為で、
彼から笑顔が消えてしまった。
思考全てを受験に注ぐように、
一心不乱に勉強をする彼を見ているだけの僕。
何とかしてあげたい。
何もしてあげられない。
結局何もコンタクトを取らないまま、
彼の進学先も知らないまま、
僕は目指していた大学を受験、合格、高校を卒業した。
そして、大学の入学式の後に、建築学部全員が集められた講堂で急に割り振りられたメンバー。
僕と同じ住居・インテリア学科で一人違う高校出身の
都市デザイン工学学科の真田かりん。
建築学科の原田佐之助。
そして、同じく建築学科の空井渚。
これは運命だ、なんて陳腐な科白が思い浮かんで、
高校の時の自分は何だったんだと言わんばかりに猛アプローチを始めた。
未だに彼が笑顔になる事はない。
けれどきっと、時間が解決してくれる。
それよりも前に僕が笑顔にしてあげたいと。
「少なくとも君よりは僕のほうが可能性は大きい」
吉柳の自室にて。
奈古に手渡され机に置いていた紙に向かって呟くと、夏休みで会えないんだけどねと、電話番号を交換して以降、事務連絡の時にしかかかってこない、こちらからかけても悪い今忙しいの早口で切られる携帯を強く握って項垂れた。
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