第28話
「パパが働いている第二層には、あそこから行くのよ」
レモンは大きなゲートを指差して言った。
ここはレモンの家から10分ほど歩いた場所にあるロープウェイ乗り場だ。
入り口にはガードマンがいたが、レモンの顔を見るとすんなり通してくれた。
「今日は社会科見学かい?」
ガードマンがレモンに訊く。
「まあ、そんなところです」
レモンはよそ行きの笑顔を振りまきながらゲートに入っていった。
りんこたちも後に続く。
「お前、すごいなッ」
ブランが感動して大声を上げた。
さらに5分くらい歩くと、乗り場に着く。
数人の乗客が待っていたが、全員、工事関係者みたいだ。
やがてロープウェイが到着する。
中にはベンチ型の椅子が並んでいて、20人くらいは乗れそうだ。
「これはすごい! 最新技術のカタマリじゃないかい!?」
珍しくウィリアムが興奮していた。
りんこやブラン、フィリップも初めて見るのか、目を丸くしている。
レモンは何回か乗ったことがあるのか、すました顔をしていた。
乗客をすべて収容すると、ロープウェイが動き出す。
りんこたちは先頭の座席に陣取って、外を眺めていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉッ」「わあああ」
りんこたちが歓声を上げる。
君たち、目的を忘れてないか?
……と突っ込みたかったが、俺の姿は誰にも見えないし、声も聞こえないので黙っていることにした。
りんこも俺の存在がバレそうになったことを反省しているのか、完全に俺のことを無視している。
ロープウェイはガタゴトと呑気な音を立てながら上っていった。
「ねえ、これ、上に着くのにどれくらい時間がかかるの?」
フィリップがレモンに尋ねる。
「そうねえ、6時間くらいかな」
「ろ、6時間!?」
フィリップがあんぐりと口を開けた。
「そんなにかかったらお腹が空いちゃうよ」
泣きそうな声でフィリップは言った。
俺は別にこんなものに乗らなくても大鷲に姿を変えればぴゅーんと飛んでいけるわけだが、それでは救世主であるりんこのボディーガードにならないからね。
仕方がないからこの長旅に付き合ってやることにするか。
「だけどさあッ、ニムロドさんって、そんな簡単に会ってくれるのかよッ?」
ブランが言った。
「大丈夫よ。パパが話をつけてくれるから」
「でも、宮廷建築士っていうのは忙しいんじゃないかい?」とウィリアム。
「そうかもしれないけど……私はどうしても会って確かめたいことがあるの」
レモンは強い意思を宿した目で言った。
「それって、昨日の森でのこと?」
りんこが訊く。
「そう……」
レモンはうなずくと、「実はね……」と昨日、りんこたちとはぐれた後の話をした。
「き、木が人を食べちゃうなんて……」
すべて聞き終わると、フィリップはレモンが話した人を食べる木のことを想像し、ブルブル震えた。
「それは絶対、何かあるんじゃないかい?」
ウィリアムは興奮が隠せないようだ。
りんこは「やっぱり」というような顔をしていた。
なるほど。
昨日、りんこが言っていたことも、あながち間違いではなかったということか。
ニムロドには秘密がある。
そして、それはもしかすると、このバベルの塔の建設に関係があるかもしれない。
となると、天使の俺としては無視できないな。
この情報を天界に伝えれば、も、もしかして昇進も夢じゃない!?
「ラジエル君、キミは部下にばかり仕事をやらせてないで、もう少し自分で働きたまえ」
「は、はい……。申し訳ありません……」
「まあ、いい。今回のことは俺からミカエル様に言っておくから、次回からはきちんとやってくれたまえ」
「あ、ありがとうございます、レミエル様……」
……なんつって、なんつって!
いやあ、楽しいなあ。
ラジエルをうんと働かせてやろう。
あ、もしかしたら配給係のあの子も、俺のことを見直して……。
と俺が妄想に浸っていると、突然、ガクンと音がしてロープウェイが止まった。
ロープウェイ内の電気がいっせいに消え、警告灯の赤いランプが点灯する。
いっ、いったい何事だ!?
つづく!!
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