第24話

 りんこがいない!


 俺は空っぽのベッドを見て、頭の中が真っ白になった。


 この時間ならまだベッドでもぞもぞしているはずなのに!


 うわー、やっぱり昨日のこと、気にしてんのかなー。


 慌てて1階に下りると、ダイニングでりんこのおじさんとおばあちゃんが朝ごはんを食べていた。


 おばさんはキッチンでたまごを焼いている。


 ここにもりんこはいない。


「おい、りんこはどこだよ!」


とおじさんに聞いてみたが、無反応。


 そりゃそうか。天使の声は聞こえないもんな。


 そこに、りんこの従妹のポムが眠そうに目をこすりながらやってきた。


「ねえ、りんこお姉ちゃんは?」


 おばさんが答える。


「今日はお休みの日だから、朝から出かけていったわよ。

たしかレモンちゃんのところに行くと言ってたわね」


「えーっ、せっかくお姉ちゃんと遊ぼうと思ったのにー」


 そうか、レモンの家に行ったのか!


 俺は大鷲に姿を変えると、レモンの家の方に向かって飛んだ。



 少し飛ぶと、道をテクテク歩いている赤いベレー帽が見えた。


 りんこだ!!


 俺はヒト型の姿に戻り、りんこに声をかけた。


「おい、勝手にひとりで動き回るなよ」


 りんこが振り向いて、「あっ」という顔をする。


「レミエルさん!」


「僕は君の命を守るのが仕事なの! だから勝手に歩き回るな!」


「だいじょうぶですよー」


 りんこは不服そうに口を尖らす。りんこの肩でアモンが「ホー」と鳴いた。


「ダメダメ。君はHP1の弱々救世主なんだから!」


「えー、でも、救世主ってなにすればいいんですか?

わたし、普通の女子高生ですよ?」


「それは……」


 バベルの塔が崩壊する時に、人々を守るため……とは言えない。


 もし、バベルの塔が崩壊することをりんこが知ったらパニックになるだろうから。


「まあ……人々のためになることをするんだよ」


と適当にごまかした。


「人々のためになることって?」


「えーと……そうだなあ……」


 急にそんなこと聞かれてもわかるわけないよ。


「わかった! 動物園を作ることじゃないですか?」


「ちがう! それはぜったいちがう!」


「えー、じゃあ、なにをすればいいんですかー」


 あかん! 何か適当に理由を探さなきゃ!


「ま、まずは身近なヒトを幸せにすること……かな?」


 うわー、うさんくせー。こんなの絶対、信じねーだろー。


「わかりました!」


 えっ? 信じた!?


「それじゃあ、まずレモンを幸せにします!」


「ちょっと、なに言ってるのか、俺にはさっぱり……」


「だって、レモンはブランのことが好きなんですよ!

知恵の実を食べた時、聞いちゃったんです。

『ここで死んだら、もうブランに会えなくなっちゃう』っていう心の声が」


「あー、なるほどー」


 感情のこもっていない声で相槌を打つ俺。


 まあ、いいか。


 どんなことでも、目的を持つのはいいことだな。うん。


「よし、じゃあ、レモンの恋を実らせよう」


「はい!」


 元気よく返事をするりんこ。


 すると、遠くの方から


「おーいッ、りんこーッ」


という聞き覚えのある大声が。


 声の聞こえてきたほうを見ると、ブランとフィリップ、ウィリアムの3人がこちらを見ていた。


 ブランたちが近づいてくる。


「おまえ、さっき誰と話してたんだッ?」


 ブランはりんこに聞いた。


 やばいっ! 俺たちが話しているところを見られてた!?



つづく!!

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