第23話

 レモンを無事、家まで送り届けた帰り道、りんこが俺にポツリと言った。


「あのニムロドって人、ウソをついています……」


 ニムロドというのは、森の中で行方不明になったレモンを助けてくれた人で、熱動機とよばれる鋼鉄の巨人に乗った宮廷建築士だ。


 なにを考えているのかわからないところもあるが、基本的にいい奴に見えたけどな。


「それって、どういうことよ?」


と俺が聞くと、りんこは答えた。


「ニムロドさんはレモンが『道で倒れていた』と言ってたけど、レモンの心の声は、何かに『捕まっていた』という感じだったんですよ」


「ということは、ニムロドって奴がレモンを誘拐してたってこと?」


「それはないと思います。だったら、わたしたちに渡さないと思いますし。でも、なんか隠しているって感じだったんですよね」


 うーん、確かに怪しいな。


「だから、わたし、ニムロドさんにもう一度会って、確かめようと思うんです」


「おいおい、いったい何を言い出すんだよ。だいたい、相手は宮廷建築士なんだろ? そんなエラい奴がただの女子高生に会ってくれるわけないだろ?」


「でも……」


「レモンが戻ってきたんだからいいじゃないか。まあ、フクロウは結局見つからなかったけど……」


 そう言いかけた時、頭上で「ホーホー」という鳴き声がした。


 見上げると、アモンが飛んでいる。


「あ、あいつ……!」


 騒動の元凶となった小動物を俺は憎しみを込めてにらみ付けた。


 だが、ヤツは涼しい顔でひらりとりんこの手に乗ると、かわいらしく「ホー」と鳴いた。


「よかった! 生きていたんだね! 心配したんだよ!」


 りんこが手の上のアモンを優しく撫でる。


「こいつのせいで、レモンが行方不明になったり、貴重な知恵の実を一個使っちまう羽目になったんだぞ!」


 俺は撫でられて嬉しそうに目を細めるフクロウを絞め殺したい衝動に駆られた。


「レミエルさん、アモンを責めないでください。悪気はなかったんですから」


 ちぇっ、こんなヤツの肩を持ちやがって。


 俺は家に帰るまでずっとムカついたままだった。



 その夜。


 りんこは昼間の騒動で疲れたのか、ベッドの上でぐっすり眠っている。


 俺は帰り道のりんこの言葉を思い出し、考えていた。


 あのニムロドってヤツ、いったい何を隠しているんだろうか。


 そもそも、宮廷建築士がなんであんな場所を機械に乗ってウロウロしていたのか。


 バベルの塔の建築に深く絡んでいるということは、何か企んでいたとしても不思議ではない。


 窓の外を見ながらボーっと考え事をしていると、パーッとまぶしい光が差し込んできた。


 窓を開け、見上げると、光り輝く鳩が飛んでいる。


 こんな時間に鳩が飛んでいるわけがない。


 俺が屋根の上に上ると、鳩は姿を変え、見慣れた顔の少女の姿になった。


「あ、君は!」


「レミエルさ〜ん、おひさしぶりです~」


 「なっ!き、君は、は、配給係の??」



「はい、実はラジエル様から預かってきたものをお届けに参りました~」


 あいかわらず、おどおどした態度で配給係の女の子は言った。


「そっ、そうなんだ。いや〜、ありがとう」(ドキドキ)


 そう言って受け取ろうとした時、またしても指が触れてしまう(わざとじゃないぞ)。


 すると、またしても彼女は「ひゃっ」と顔を赤らめて手を引っ込めた。


 届けものは封筒に入っていた。


 中を開けると、1枚のカードが出てくる。


「なんだこりゃ?」


 俺はひっくり返したり、月明かりにあてて透かしたりしながら言った。


「HPプリペイドというものらしいです~」


「HPぷりぺいど?」


「裏に銀色の部分があると思うんですけど、これを硬貨とかでこすって現われたコード番号を見ると、その人のHPが一時的に上昇するらしいです~」


 おおっ、なんと!


 これさえあれば、いざという時にHPが1しかないりんこのHPを増やすことができるというわけか。


 ラジエルにしては気の利いたものをくれるじゃないか。


「それじゃあ、わたしはこれで失礼します~」


 そう言って、配給係の女の子は光り輝く鳩に姿を変えた。


「ありがとう。気をつけてな」


「は、はい~」


 鳩は顔を赤らめ、夜空に飛んでいった。


 ああ、ほんとにかわいいなあ。


 あ〜……また名前聞くの忘れちゃったよ。


 ニヤニヤしながら家の中に戻ると、りんこがベッドの中で目を開けてこっちを見ていた。


「あ、起きてたんだ?」


「なんか声がしたから……」


「あっ、べ、別に関係ないから……」


「?」


「だから、そういうんじゃないんだよ、彼女とは……」


「彼女?」


「な、なんでもない。ちょ、ちょっと出かけてくるわ!」


 俺はバタバタと外へ飛び出し、大鷲の姿になった。


(俺、なんでこんなに焦ってんだよ!?)


 自分でも自分の行動が理解できない。


 ただ、配給係の子とのことを、なぜかりんこに知られたくなかった。


(ああ、なんか気まずいなあ)


 一晩中、もやもやした気持ちで夜空を駆け巡っていた。


 そして、翌朝、りんこの部屋に戻ると……。


 なんと、りんこの姿が消えていた!



つづく!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る