第21話

 わたしは、レモンの心の声を聞くため、レミエルさんから知恵の実を受け取った。


うっ、やっぱりリンゴにしか見えない。


 ちっ、違う。そうとわかってても、やっぱり抵抗がある。


 でっ、でも、レモンを探すためにガマンしなくっちゃね。


 わたしは目を見開いて知恵の実を見つめた。


ダメダメ、目を閉じていかないと。


せーのっ! かぷっ。


 口の中に不思議な味が広がる。


 甘酸っぱいような、苦いような、変な味。


まだ、何も変わらない……よ~。う~ん!!


 かぷっ、かぷっ、かぷっ……。



触感はやっぱりなんかやだな~

口に広がる、シャクシャク感、

食べたことないけど、りんごってこんな食感なのかなあ。

でも、これはリンゴじゃない!……と自分に言い聞かせて!!



行きます! 最後の一口!


 ぱくっ。


 すると、例の不思議な感覚。


 口から勝手に呪文みたいな言葉が飛び出してくる。


「りんこりんこりんこりんこりんこりんこ……」


 なんなんだろう、この呪文みたいなのは。


 それから少しずつ、人の声みたいなのが聞こえてくる。


『何だ、あいつは? 人間じゃないか』


『こんな夕暮れにね〜』


『早く帰ってくれないものか』


『独り言を言っているが、誰と話しているんだろう』


 レミエルが期待を込めた目でこっちを見ている。


 わたしは首を横に振った。


 もっと「声」に耳を傾ける。


 そして、微かに聞こえる聞き覚えがある声をキャッチした。


『りんこ、どこ〜』


 レモンの声だ!


 わたしの表情が変わるのを見て、レミエルさんが言った。


「聞こえたのか!?」


 わたしはコクンとうなずいた。


「やったじゃないか! よかったあ~。知恵の実を使った甲斐があったよ!」


 自分のことのように喜ぶレミエルさんを見て、思わずクスッと笑ってしまう。


「さあ、声の聞こえるほうに行こう!」


「うん!」


 と、その時、茂みから大きな影が現われた!


 えっ、まさか噂の巨人!? と思ったけど。


「りんこ、レモン、いたかッ?」


「ブラン! ううん。これを残してどっかに消えちゃった……」


 そう言って、わたしはレモンの靴を見せた。


 ウィリアムが近づいてきて、「これはレモンの靴じゃないかい?」と言った。


と同時に『高そうな靴だなあ』という心の声も聞こえてくる。



「えーっ、たいへんだあ! レモン、誘拐されちゃったの?」


 大げさに騒ぐフィリップ。


『やばいよやばいよやばいよ』


 心の声もやっぱり大げさだ。


「落ち着けってッ。まだ誘拐って決まったわけじゃないだろッ」


 ブランがフィリップをいさめる。


「でも、マズいなッ。もう日が暮れかけているッ。いったい、どこに行っちまったのかッ」(『落ち着け。みんなが見ている。取り乱しちゃダメだ』と心の声)


「だいじょうぶ。ついてきて!」


 わたしはそう言って、レモンの声が聞こえてくるほうに向かった。


 ブランたちがゾロゾロついてくる。


 レミエルさんも大鷲に変身してついてきた。


「りんこ、いいか。無茶するんじゃないぞ」


 レミエルさんが心配そうに言った。


「わかってるって」


 思わず口に出してしまった。


 それをブランが聞きつけて言った。


「おい、今、なんか言ったか?」


 わたしは慌ててごまかした。


「ううん。なんにも言ってないよ」


 森の中をどんどん進んでいく。


『りんこ、早く助けに来て』


『怖いよお』


『もうブランに会えなくなっちゃうのかな』


『ああ、もう体の感覚が……』


 だんだん声が大きくなってきた。


 もう近いはず!


 その時、スズン!と大きな音が聞こえた。


 ズズン! ズズン! スズン!


 地響きはどんどん大きくなって近づいてくる。


 驚いた鳥たちがバサバサと飛び立った。


「おいッ、なんだよッ、これはッ」(『嫌な予感がするぜ』)


「ひえええええええええ」(『もうだめだあああああ』)


「この音の大きさ、振動の強さ、間違いなく、巨大な何かが接近してくる気配だ」(『怖い。でも、見てみたい』)


その時、突然、木々の間から3メートルを超える巨大な「何か」が姿を現わした!!!



つづく!!!



これは、巨人!? だとしたら、俺の出番だな!


 次は俺、レミエルの話だ。

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