第20話

「消えちゃった……。レモンが……消えちゃったの……」


 茂みの中の空き地で、りんこはレモンが残したと思われる片方の靴を握り締めながら、地べたにぺたんと座っていた。


 マズい。


 これはマズい。


 もうフクロウなんてどうでもいいよ。りんこの友達が消えてしまったんだから。


 でも、いったいどこに消えてしまったんだろう?


 巨人にさらわれたのか? 道に迷ったのか? それとも……。


「おーい、りんこオッ。レモンはいたかあッ?」


 遠くから聞こえるブランの声。


「いないのぉぉぉ! レモンがいないのぉぉぉ!」


 大声で叫ぶりんこ。


 しばらくすると、ガサゴソと音がして、茂みの中からブランとフィリップ、ウィリアムの3人が現われた。


「レモンがいなくなったってッ!?」


 ブランはりんこに駆け寄ると言った。


「うん……」


 そう言って、レモンの靴を差し出すりんこ。


「まだ近くにいるかもしれないッ。呼んでみようッ」


 ブランはそう言って、口元に手をあてて叫んだ。


「レモンッッッッッッッッ!!!!」


 ブランの雄たけびが森の中に響き渡る。


 あまりの大声にりんこたちは耳を塞ぎ、鳥たちが驚いていっせいに飛び立った。


 ブランの声はしばらく木々の間を反響した後、静寂の中に呑み込まれていった。


 太陽は西に傾き、あたりは少しオレンジ色に染まりつつある。


「ダメだ、返事がないッ」


 ブランは肩を落とした。


 りんこたちも落胆の表情を浮かべる。


 りんこが期待を込めた目で俺を見つめた。


 俺は首を横に振る。


 確かに俺が大鷲に姿を変えて上空から探すという手もあるが、HP1の救世主のそばを離れるわけにはいかない。


 じーーーーーーーーーーーーーーっ。


 りんこはまだ俺の顔を見つめている。


 そんな顔で見られてもなあ。


 俺はポリポリと頭をかいた。


 ブランがりんこに声をかける。


「おい、りんこ、さっきからずっとあっちの方を見ているけど、どうしたんだッ?」


「えっ!? あ、ごめん。なんでもないの?」


 りんこが慌てて首を横に振る。


「でも、ずっとこっちの方、見てたじゃないかッ」


 ブランがズンズンとこっちの方に向かって歩いてくる。


 だいじょうぶ。コイツには見えてない……とわかっていても、やっぱりドキドキするなあ。


 ちょっ、近い! 近いって!


 ブランの顔が数センチのところに迫ってきた。


 そして、俺のほうに向かって手を伸ばす。


 もちろん、アストラル体である俺の体には触れることができす、手は俺をすり抜けて空を切るだけだが、それでもなんか気持ち悪い。


「あっ!」


 その様子を見て、りんこが思わず声を上げた。


 ブランがりんこを振り返る。


「どうしたんだッ!?」


「だって、ブランの手がレミエルさんの体に……」


 バカーーーーーーーーーーーーッ!!


 なんで言っちゃうんだよぉぉぉぉぉ!!


するとブランはそんなことは受け止める器でない言葉を口にした。


「おっおいおい、りんこ怖いこと言うなよ〜幽霊なんてごめんだぜ」


「さ〜ってと、レモーンどこだ〜」


ほっ、全く……、器の小さいやつでよかったぜ


すると、りんこがなにか期待を込めた目で俺を見つめた。


 「なっなんだよ、その視線は。

そんなことよりまずさっきのことをあやまれ!」


と小さな声で言って首を横に振る。


 

だがりんこは、全くそのことには謝罪の意思のない強い眼差しで俺を見つめ続ける。


くっくそ〜、なんだよこいつ……、俺に探せっていうのか?


確かに俺が大鷲に姿を変えて上空から探すという手もあるが、HP1の救世主のそばを離れるわけにはいかない。


 じーーーーーーーーーーーーーーっ。


 りんこはまだまだ俺の顔を見つめている。


 そんな顔で見られてもなあ。


 俺はポリポリと頭をかいた。


「ひとつだけ、方法がある」


 りんこの顔がパーッと明るくなった。


「りんこ、この前、知恵の実を食べた時、周りの人の心の声が聞こえたって言ってただろ?」


「うん」


「だから、知恵の実を食べれば……」


「レモンの心の声が聞こえるかも!」


 正解!


 でも、この作戦にはひとつ大きな問題がある。


 それは、『ここぞという時に食べさせなきゃならない』という知恵の実をまた1つ消費してしまうということだ。


 りんこはもうすっかりその気になって、両手を前に差し出している。


 どうする、レミエル。


 りんこに知恵の実を食べさせてレモンを探す手がかりを手に入れるか、それとも、心を鬼にして貴重な知恵の実を死守するか……。


 一瞬、ラジエルの鬼のような形相が目に浮かんだが、すぐにりんこの潤んだ瞳にかき消された。


 はあ、考えるまでもないか。


 俺は懐から知恵の実が入った袋を取り出すと、中に入っている知恵の実をひとつ、実体化させた。


「しっかり、頼むぞ、りんこ」


 そう言って、俺はりんこに知恵の実を渡した。


 りんこの表情が一瞬、険しくなる。


 そうだった。りんこはリンゴが嫌いなんだもんな。


 それでも、りんこは思いっきりかぶりついた。


 きっと、レモンをどうしても助けたいという気持ちのほうが強いんだろう。


 シャク、シャク、シャク……。


 みずみずしい音を立てながら、知恵の実はどんどん小さくなり、やがて最後のひとかけらになった。


 パクッ。


 最後のひとかけらを口に入れるりんこ。


「りんこりんこりんこりんこりんこ……」


 りんこの唇から例の呪文のような呟きが発せられる。


(さあ、レモンの心の声をキャッチしてくれよ!)


俺は祈るようにりんこの反応を待った。



 ……というところで、知恵の実を食べた女子高生こと、わたし、「アップルりんこ』の話になります!



つづく!!



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