第19話

 よく晴れていて、暑くも寒くもない、ちょうどいい秋の気候だ。


 りんこ、レモン、ブラン、フィリップ、ウィリアムの5人と俺は、フクロウのアモンを探すため、森に向かった。


 時間はまだ3時ちょっと前。


 30分くらい歩くと、森の入り口に到着した。


 太っちょフィリップはすでに息が上がっている。


「さあ、行くぞッ!」


 ブランを先頭に森に足を踏み入れた瞬間、ズズズズズズズと地面が揺れた。


「きゃああああ」「うわあああああ」「巨人だああ」「食われるううう」


 ブラン以外の4人が思い思いに悲鳴を上げる。


「落ち着けってッ。ただの共振だろッ」


「そ、そうか」「なあんだ、驚いた」


 4人はホッと胸を撫で下ろす。


「でもさあ、最近、共振がどんどん大きくなってないか?」


 フィリップが巨体を揺らして歩きながら言った。


「たしかにそうだねえ」


とウィリアムが言った。


「塔の建設が進んでいるからって、パパが言ってたわ」


 レモンが言った。


「今、第三層を作っているところで、来年には完成するらしいの。5年後には第四層ができるそうよ」


 どうやら、レモンの父親というのは建設関係者らしい。


「そんなに作ってどうするつもりなんだろうなッ?」


 ブランが首を傾げる。


「そりゃあ、展望台を作るためさ」


 ウィリアムがワケ知り顔で答えた。


「観光地にすれば、お金が稼げるのさ」


 ウィリアムの言葉を聞いて、りんこたちは「そうかあ」「なるほど」と口々に感心していた。


 まあ、高校生の考えることなんてそれが限界だよな。


 答えを知っている俺はニヤニヤしながら聞いていた。


 でも、それが「天界に到達するため」であり、そのことが原因で「塔が破壊されるかもしれない」ということを知ったら、彼らはどう思うだろうか。


 そして、塔が崩壊する時、こいつらは──。


 そう思うと、なんとしてでも、救世主であるりんこを守らなくてはならない。


 俺が珍しく真面目に任務に対する責任を感じているのに、りんこたちの話題はすでに「お金があったらなにをするか」みたいなことに移っていた。


「オレは街中の食べ物を買い占めたいなあ」


 フィリップが目をうっとりさせながら言った。


「ボクは世界の果てまで旅をするさ」


 ウィリアムも目を輝かせる。


「私はファッションブランドを立ち上げるわ」


 レモンはだいぶ現実的な性格らしい。


「りんこは使い切れないくらいのお金が手に入ったらどうする?」


 レモンに聞かれて、りんこは「うーん」と顎に人差し指をあてて考えた。


「動物園を作る!」


 りんこはスジガネ入りの動物好きだな。


「ブランはどうなんだい?」


 ウィリアムが聞くと、ブランは胸を張って自信満々に言った。


「俺は大きな家を建てて、好きな子といっしょに暮らすんだッ」


 フィリップが盛大に噴き出す。


「なんだよ、お前。好きな子なんているのかよお」


 フィリップの冷やかしに、ブランは大きくうなずいた。


「ああ、いるよ」


「えっ、マジで? 誰だよ、その好きな子ってのは」


 こいつ、食べ物以外でこんなに熱意を見せることもあるんだな、と俺は感心した。


「それは……」


 ブランが言いかけた時、突然、レモンがお腹を押さえ始めた。


「どうした、レモン」


 ブランが心配そうに声をかける。


「ちょ、ちょっとお腹が……」


「こんなところでマジかよ。トイレなんてどこにもないぞ」


 フィリップがあたりを見回しながら言った。


「ごめん、ちょっと待ってて!」


 レモンは駆け出すと、茂みの中に消えていった。


「レモン、だいじょうぶかな」


 りんこは心配そうに茂みのほうを見つめている。


 俺はブランたちに気づかれないようにこっそりりんこに耳打ちした。


「よし、俺が見に行ってきてやる」


 りんこが慌てて俺を呼び止める。


「ちょ、ちょっと、なに考えてるんですか、レミエルさん!」


「だから、俺がレモンの様子を……」


 りんこがげんなりした表情で俺を見る。


「ダメに決まっているでしょう!」


「なんでだよ?」


 レモンが危ないかもしれないって言うのに、なんでりんこは俺を止めるんだ?


「だって……その……レモンは……」


 りんこはなにか言いづらそうだ。


 まあいい。一流天使の俺がいるんだ。


 何かあったとしても大丈夫。問題ないだろう。


 そして、1分が過ぎ、2分が過ぎ……。


 気がつくともう10分以上。


 さすがにこれは……。


「遅すぎるッ!!」


 ブランの耳を劈くような声が静かな森に響き渡る。


「レモンは何やってるんだッ!?りんこ、ちょっと見てきてくれッ」


「う、うん……わかった」


 りんこが茂みに向かう。


 俺も後を追った。


「ブランのやつ、人遣いが荒いなあ。あんな図体してンだから自分で行けよ」


「彼はちゃんと空気が読める人なのよ……というか、何でついてくるんですか!?」


「だって危険だろ?」


「あなたのほうがアブない人ですよ!」


「どういう意味だよ!?」


「いいですか、わたしが『いい』って言うまで来ちゃダメですからね」


「わかったわかった。君が『いい』って言うまで行かないよ」


 「レモンー、今からそっちに行くよー」と言いながら、どんどん茂みの中を進んでいくりんこ。


 しばらくすると、奥からりんこの「そんな……」という声が聞こえてきた。


「おい、何があった!?」


 りんこから返事がない。


「いいか、今からそっちに行くぞ。『いい』って言われてないけど、俺の判断で行く。だから怒るなよ」


 そう言いながらりんこの声がしたほうへ向かった。


 少し開けた場所に出ると、りんこがしゃがみこんでいた。


 手には、レモンが履いていたのとよく似た片方の靴を握っている。


「大丈夫か? レモンはどうした?」


 俺が尋ねると、りんこは声を震わせながら答えた。


「消えちゃった……。レモンが……消えちゃったの……」



つづく!!












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