第13話

 俺は、まだドキドキしている。


 もちろん、これは比喩的な表現だけど。


 だって、天使には心臓がないから、人間みたいに鼓動が速くなったりしないからね。


 さっき風呂場で起こった出来事について何度も思い出してしまう。


 俺はりんこの家の屋根に腰掛け、夜空を眺めていた。


「なにを悩んでいる」


 気がつくと、隣にラジエルが立っていた。


 い、いつの間に……。


「別に悩んでなんかないって」


「どうだ、任務のほうは? うまくいってるのか?」


「まあまあだね」


「それはよかった。何度も言うが、知恵の実を食べさせるタイミングを間違えてはならんぞ」


「実は……もう、1回食べさせた」


「なんと!」


 ラジエルはびっくりして屋根から転がり落ちそうになった。


「で、どうだった?」


「うーん……なんか、みんなの心の声が聞こえるとか言ってたかな」


「心の声?」


「でも、しばらくすると聞こえなくなっちまったみたいだけどな」


「そうか。ふむふむ。他に何か変わったことは?」


「『セムの眼』で確かめたけど、あいつ、HPが1しかないぞ」


「い、1だと!?」


「ああ。腹空かせただけで死にそうになっていた」


「それで、『あの方』はお前に点滴を持たせたというわけか」


「そういう重要事項は最初に説明しておいてくれよな」


「私も知らなかったのだ」


「なんでその『あの方』とやらはいつも教えてくれないんだよ〜」


「これ!ミカエル様を茶化すんじゃない!」


「茶化してなんかいねーよ、同じ言い方しただけじゃん!」


「うーむ、なにかお前がいうと悪意を感じる」


「ちぇっ、失礼な話だな、あ〜、あと、ネザーモンスターに襲われたけど、HPが1しかないから、魂を狙われてるんじゃねえか。いつ死んでもおかしくないもんな」


「あるいは、彼女が救世主と知って、誰かが狙っているのかもしれん」


「おいおい、冗談じゃねえぞ。やっぱり、この任務、他の天使にやらせたほうがいいんじゃないか」


「そもそも、『あの方』様は情報がざっくりしすぎなんだよな〜」


「何か、お前の言い方は悪意を感じるが……まっ、まあ、実はわしもそう思ってはいるが、神のご意思なのだ。ミカエル様といえ、そこは逆らえん」


 そう言うと思ってたよ。


「これはお前にしかできない任務なのだ。しっかり頼むぞ」


 まったく、現場の苦労も知らずに、気楽なもんだな。


「知恵の実はあと2つしかない。大事な時になかったなんてことにならんようにな」


 そういい残して、ラジエルの巨体は帽子の中に吸い込まれ、夜空の彼方に飛んでいった。


「ったくよ~。

まっ、それにしても他の天使がいなくてよかった~

なんで俺あんなこと言ったんだろ」


そうか、でもまあ、結果としてまだあいつと一緒にいられるんだな。


俺は空を見上げた。


もうあいつお風呂出たかな~。


 さて、ここからはコホン!“私”ラジエルの話になる。


「ちょっといいかな?ラジエル」


「うん、誰じゃ?」


「ふふふ、『あの方』ですよ」


「えっ?ミっ、ミカエル様!はっ、はい!!」


つづく!!

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