第11話

気が付くと、もう日が西に傾きかけている。


結局、今日は学校サボっちゃったな。


レモンは心配しているにちがいない。明日、謝らなきゃ。


わたしは家に向かって歩き始めた。


……。


…………。


………………。


 えっ、なんで、このひと、ついて来るの?


「あのー、いつまでついて来るんですか?」


わたしが聞くと、レミエルさんは「へっ?」という顔をした。


「言ったろ? キミの命を守るのが仕事だって」


「だからと言って、家までついて来られるのは……」


「大丈夫。普通の人間には、俺の姿は見えないから」


「そういう問題ではなく……」


 いくらわたしのボディーガードとは言え、四六時中、一緒にいられるのはちょっとイヤだ。


 たとえ、それがちょっと素敵なルックスの天使だとしても。


「あ、プライバシーは守るよ。なにもトイレやお風呂に入る時まで一緒というわけじゃないから」


「そう、ですか……」


「寝るのも別々だし。というか、俺、天使なんで、寝るとかないし」


「ちょっと安心しました」


 ふう、よかった。


 ただでさえ、男のひとってなんか怖いっていうか、どう接していいかわかんないとこがあって、それなのにいきなりいっしょに暮らすなんて難易度高すぎ!


 そうこうしているうちに、家が見えてきた。


 うちは、おじさんとおばさんが経営するりんご畑の中にあって、おじさんとおばさん、いとこのポム、それにおばあちゃんとわたしの5人で住んでいる。


 そんなに大きくないけど、小さくもない家。


 チャイムを鳴らすと、おばさんがドアを開けてくれた。


「あら、りんこ。今日は学校に行かなかったんですって?」


「うん、ちょっと具合が悪くて……」


「そう、大丈夫? あなた、体が弱いんだから気を付けなさいよ」


「はい」


「ところで、その胸に抱えているのはなに?」


「帰り道で見つけたの。怪我してたから連れて来た」


「うちで飼うの?」


「ダメ?」


「別にいいけど、りんごの木を荒らしたりしないかしら」


「大丈夫よ、後で包帯とお薬もらうね」


 わたしは自分の部屋かある2階に上がった。


 本当にレミエルさんの姿はおばさんには見えてないみたい。


 自分の部屋に入ってドアを閉めると、木箱にタオルを敷き詰め、フクロウのベッドにしてあげた。


 そうだ。この子に名前を付けてあげなきゃ。えーと、なんて名前にしよう。


「なんかいい名前ないですか?」


「ダメダメ。俺、そういうセンスないから」


「困ったなあ。じゃあ……」


 くりっとした目がわたしを見ている。かわいい!


「ア……」


「ア?」


「アモン!」


「なんじゃそりゃ!りんこちゃんと考えて……」


「そう、アモンとは混沌に潜む地獄の悪魔、光を拒み闇を愛しこの世を地獄へと導く地獄の貴公子...」


「お、おいりんこ、

きゅ、急にどっどうしたんだ...?」


「って学校の図書館にある本に、そういう悪魔いたんです!

この子よりちょっと大きいんですがとっても可愛いんですよ、なんかその子と似てるなーと思って!」


「おっおぅ」


 と、その時……。


 ガチャ。


 ドアが突然、開く。


 おばさんだった。


「あんた、誰と話してるの?」  


「えっ……」


 まずい! 思わずレミエルさんと顔を見合わせる。


「えーと……この……フクロウ?」


 おばさんは簡単に信じた。基本的に他人を疑わない人なのだ。


「なあんだ。誰かいるのかと思っちゃったわよ。それよりも、お風呂湧いてるから、先入っちゃいなさい」


「はあい」


 ドアが閉まり、ほっと胸をなでおろす。


「あー、びっくりした」


「ほんとだよ。またそいつに助けられたな」


 アモンは「ホー」と嬉しそうに鳴いた。


「それじゃあ、わたし、お風呂入ってくるから」


「ああ」


「のぞかないでよ」


「のぞかないって」


 わたしはレミエルさんを部屋に残し、1階に降りて風呂場に入ると、服を脱いで湯船につかった。


(ああ、気持ちいい……)


 今日はいろんなことあったなあ。


 黒いバケモノに襲われたり、お腹が空きすぎて倒れたり、天使に助けられたり、りんごを食べて変な声が聞こえるようになったり、フクロウを拾ったり……。


 それまで平凡だった生活が一気に変わってしまったみたいだ。


(わたしはおじさんやおばさん、ポムやおばあちゃんと平和に暮らして、レモンといつまでもふざけあったりしてたいのに……)


 そんなことをぼんやりと考えていた時、突然、グラッと大きな揺れが起こった。



ガガガガ!

  ガガガ!!!


「きゃああああああああああああああああ」



つづく!!

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