第9話

レミエルさんという男の人にもらったりんご(みたいな果物)を口にした瞬間、口が勝手に動き出した。


「りんこりんこりんこりんこりんこりんこ……」


 ちょ、ちょっとなにコレ!?


 わたしの口が勝手にしゃべってる!?


 口だけじゃない。目もすごい速さで瞬きしてて、止められない。


 うわーん、わたしのからだ、どうなっちゃうのーーー!?


 そして、唐突に呪文みたいな言葉と瞬きが止まった。


「おい、大丈夫かよ」


 レミエルさんがわたしに声をかける。


 わたしは「味がしない」と答えた。


『ふーん、そういうものなんだー』


 えっ、今の声、誰?声はレミエルさんに似てたけど、頭の中から聞こえてきた。


 これって、もしかしてレミエルさんの心の声なのかな?


 試しに「あなたは食べたことがないの?」と聞いてみた。


 すると、レミエルさんは

「うん。……えっ?おまえ、なんで俺が食べたことがないってわかったの?」と驚いた。


 ああ、やっぱり!


 わたし、心の声が聞こえるようになったみたい!


 もしかして、このヘンな食べ物のせい?


 やっぱり、りんご食べなきゃよかった。


『あはははははは』


 えっ、なに!?レミエルさんとは別の声!?


『とにかく君の言っている話はだね……』


 また別の声。


『と言う訳さ。それにしても……』


 これも!


『早く家に帰りなさいよ』


 これも! 


 もうやだ!いろんな人の心の声が頭の中から聞こえてくるう~~。


『どうして言うことが聞けないの』


『必ず、6時には帰るから、帰ってから……』


『もう、この料理は飽きたのに……』


『早く帰って……』


 もう、無理ィ!


 思わず耳をふさいだ。


 次の瞬間、ピタッと声が止んだ。


 あれ!?聞こえなくなった!!


「どうしたんだよ、急に。大丈夫か?」


「う、うん。なんかいろんな人の心の声が頭の中に聞こえてきて……」


「心の声?」


「はい。レミエルさんの心の声も聞こえてましたよ。

『この子、壊れちゃったのかな。任務どうしよう』とか

『ラジエルに怒られる』とか

『【はいきゅうの間】のあの天使に会えなくなっちゃう』とか」


「うっ……」


「【はいきゅうの間】の天使って誰ですか?」


「そ、それはあの……つまり……まあ……」


 しどろもどろになるレミエルさん。


 なんか不思議な人。


 大人びているかと思ったら、急に年下の男の子みたいになる。


「まあ、とにかくよかった。異常ないみたいで」


 レミエルさんはホッとして言った。


 と、その時、レミエルさんの後ろに大きな黒い影が現れた。


「ぐるるるるるるる」


 不気味なうめき声。


 さっきわたしを追いかけてきた、大きな犬みたいな生き物だ。


「あぶない!!」


 わたしが叫んだ時にはもうレミエルさんは体をひらりとかわしていた。


 大きな生き物は、攻撃をはずして悔しそうにレミエルさんを睨み付けた。


「ネザーモンスター!」


 その生き物を見て、レミエルさんが叫ぶ。


「死者の魂を冥界に連れていこうとするバケモノだ。キミの死を嗅ぎ取って現われたんだな」


 ちょっとなに言ってるか全然理解できないし、理解するつもりもないけど、やばい状況だってことはわかった。


 ネザーモンスターとかいう黒い生き物がこちらを向く。


 やだ、気持ち悪い~~!!


「下がってろ!」


 かばうように、ネザーモンスターとわたしの間に立つレミエルさん。


 なんかちょっとかっこいいかも。


「さ~って、ここからは俺の出番だな!!」

**************************************************************************************


 というところで、今度は俺の話になる!



つづく!!

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