第8話
わたしの名前はアップル・りんこ。
時間を少し前に戻すね。
ヘンな夢で目覚めたわたしは、登校時間が迫っていたため、親友のシトラス・レモンに引きずられるようにして家を出た。
学校までは10分くらいの道のり。
時間がなくて朝ごはんを食べなかったせいか、さすがにお腹が空いてきた。
「ごめん……もうムリ……」
レモンに弱音を吐く。
「なに言ってるの。あと少しよ。がんばりなさい」
こういう時のレモンはほんとスパルタ。
「ほんとにもうムリ。悪いけど、先行って」
わたしの必死の表情に、さすがのレモンも深いため息をついた。
「仕方ないわね。がんばって、授業が始まるまでには来なさいよ」
レモンはそう言って、わたしをその場に残し去っていった。
憧れの八頭身の後姿を見送り、わたしはとりあえずその場に腰を下ろした。
気持ちのいい風が吹き抜けていく。
(ああ、こんな日は学校行きたくないな。夢に出てきた男の人、アレは誰だったんだろう)
わたしは朝見た謎の夢を思い返しながら、ちょっと赤くなった。
と、その時、視界の端に誰かの視線を感じた。
(えっ、犬!?)
最初、ちょっと大きめの黒い犬かと思ったんだけど、犬にしては動きがギクシャクしていて気持ちが悪い。
(なに、あれ……)
向こうもわたしの視線を感じたのか、ゆっくり近づいてきた。
やだやだやだやだ。
わたしは慌てて逃げ出した。
走って、走って、走って……。
でも、お腹が空いているから力が出なくて、わたしは意識が遠のき、地面にバタッと倒れてしまった。
にじむ視界。
その中でぼんやりと小さな人影が見えた。
背はわたしよりちょっと高いくらい?
細身で、青い服を着て、ヘンな帽子を被っていて……。
わたしは最後の力を振り絞って、その「誰か」に声をかけた。
「たす……け……て……」
その人はわたしに気づいてくれて、
「君、だいじょうぶかい?」と言ってくれた。
でも、なぜか助けに来てくれない。
ええーっ、なんで?なんでよ?
わたしはもう一度、声をかけた。
「お……ね……が……い……そこの……男の……ひ……と……」
彼はあたりをキョロキョロ見回してから、
「えっ? 俺?」と言って自分を指差した。
あなたに決まってるでしょー、と思ったけど、そんなツッコミをするほどの力も残っていない。
「はい……変な帽子を被った、青い服のあなた……」
やっとその人は自分が呼ばれたことに気づいたみたい。
ところが、その人は助けに来てくれるどころか、急に自己紹介を始めた。
「我の名はレミエル。
数多の天使の……」
もう限界。そこでわたしの意識は途切れた。
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そして、目を覚ますと、いきなり目の前に顔ってもう反射的に!!
「きゃあああああああ!!」
その人は悲鳴に驚き、飛びのいた。
わーっ、びっくりした。
目を開けると、いきなり顔、しかも男の人の顔がドアップであるんだもん。
少し気持ちが落ち着くと、その人が気を失う前に現われたレミエルとかいうひとだとわかった。
どうやらわたしは彼に命を救われたらしい。
ほっとしたらまたお腹が空いてきた。
すると、レミエルさんは「これを食べろ」と言って、わたしにりんごを差し出した。
うへぇぇぇぇ、りんご……。
わたしはりんごが嫌いだ。
なぜかわからない。
実家がりんご農家だから?
いやいや、それは関係ないはず。
だって、りんごなんて一度も食べたことないんだから。
なんでか知らないけど、りんごが嫌いなのだ。
キライなものはキライとしか言いようがない。
そこに理由なんてないんだけどな。
レミエルさんは、「りんごじゃなくて『知恵の実』だ」と言って説得しようとするんだけど、どう見てもりんごなんだよね。
それでも、レミエルさんはどうしてもわたしに食べてもらいたいらしく、わたしも根負けして口にすることにした。
「あれ?なんか…りんこりん…」
次の瞬間、わたしの体に異変が起こった!
つづく!!
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