第7話

 ラジエルの言葉が頭の中で再生される。


「けっして、その者を死なせてはならんぞ」


 うっひょーっ。


 さっそくもう死なせてしまってるんですけどー。


 うーん、どうすれば、どうすれば、どうすれば……。


 そうか!アレだ!


 俺は【配給の間】で受け取った点滴スタンドを実体化させた。


 点滴なんて使ったことないけど、えーい、ままよ!


 俺は、彼女の細い腕に針を刺し、点滴液に繋いだ。


 透明なパックに入った点滴液がファーっと光って、救世主ちゃんの体内に流れ込む。


 青ざめた顔が見る見る血の気を取り戻していく。


 ピクピクとまぶたが動き、目が開きかける。


「よかった!生き返っ……」

 

 声をかけようとすると、いきなり耳を劈くような悲鳴。


「きゃあああああああ!!」


 俺は驚いて飛びのいた。


 いきなり、なんだ!?


「な、な、なんですか!あなたは!」


 後ずさりしながら狼狽する彼女。


「いや、俺は君の命を救うため、点滴を……。君が助けを求めてきたんだろ?覚えてないのか?」


 彼女の視線が俺の顔から頭の帽子に移動し、体全体に移動してようやく彼女は納得した。


「す、す、すみません!頭が混乱していて……」


 いいよいいよ。俺だって頭が混乱しているんだ。


「それにしても、なんでこんなところに倒れてたんだよ?」


「えーと……」


 考え込む、彼女。そして、何かを思い出したように、手をポンと打った。


「ああ、そっか。私、朝から何も食べてなくって。ちょっとお腹空いてたんだよね」


 ちょっとお腹が空いただけで死ぬなんて、そんなこと……。


 いや、待てよ。


 懐から「セムの眼」を取り出す。


 一見、片眼鏡のような形状をしているが、これを見れば、そいつの生命力(わかりやすく言えばHP=ヒットポイント)がわかるというスグレモノだ。


 さてさて、この子の生命力は……。


 HP 1


 なんだ、コレ?


 最大HPが「1」って、そんなはずないよね。


 バグってる!?


 でも、何度計測しても同じ結果。


 この子、圧倒的に生命力が少なすぎる!


 HPがたった『1』しかない女の子の命をどうやって守れっていうんだよ!


 グゥ~~~~~~~。


 その時、間の抜けた音が鳴り響いた。


「す、すみません。またお腹空いてきちゃって……」


 だんだん女の子の目が虚ろになっていく。


 待て待て待て待て待て。


 この子に早く何か食べさせなきゃ。


 あたりを見回す。


 食べ物になりそうなものは、っと……ない!!


 いや、あった!ひとつだけ。


 ラジエルにもらった知恵の実の入った小袋を取り出す。


 ダメダメダメダメ。


 これは、“ここぞという時に口にさせる物”なんだから。


 でも、このままだと、この子は空腹で死んでしまう。


 となれば、答えはひとつしかない。


「これ、食べろ」


 俺は袋から知恵の実を1つ取り出して、少女に差し出した。


「きゃっ!」


「どうした?」


「りんご……」


「ああ、これはりんごじゃないよ。知恵の実と言って……。説明は後にしよう。まずはこれを食べて」


「でも、わたし、りんご嫌いなんです」


「だから、これはりんごじゃなくって……」


「ダメ、わたし、食べられない……」


 目に涙を浮かべる女の子。


 でも、ここは心を鬼にして、食べさせなければならない。


 全人類のためにも。


「ほら、早く!」


 俺は彼女の手に強引に押し付けた。


「わ、わかりました……」


 露骨に嫌な顔をして、彼女は知恵の実を受け取る。


 なんでそんなにりんごが嫌いなんだろう。

それにこの子のテンションよくわからんわ~、マイペースというか、こんな死にかけの時に好き嫌い言って一体何を考えてるんだ……。


……と俺が横目で見ている間に、少女は意を決して、知恵の実にかぶりついた。



 すると……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 そしてここからいきなり”わたし”の話になります!!




つづく!!

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