キミの彼氏になるのは

 あんなにも晴れ渡っていた空が、急にどんよりと曇り出す。


 一緒に悲しんでくれなくてもいいのに。


 さっき蹴人は「勝負は勝負だし、一応、行ってくるわ」と、洗い立ての白Tシャツのような爽やかさで、美都有の元に走っていった。


 何もかもが終わってしまった感じで、力も入らず、目に入る物すべてが針のように神経を刺し、顔を上げられずにいた。



「何、まだ落ち込んでるの?」


 頭の上から声が降ってきた。美都有だ。


「別にいいだろ」


「情けないなぁ」


 顔を上げると、美都有は腕組みをして、言葉とは裏腹にとびっきりの笑顔で、俺を見下ろしている。


「蹴人から……」


「あ、告白? されたよ。何か最近、様子がおかしいと思ったら、二人でそんな勝負してたの?」


「悪いかよ」


「ほんとバカ。まあ、そういう塁と蹴人キライじゃないけど」


「で、付き合うのか」


「蹴人と? そんなわけないじゃん」


「え?」


「だって、私の気持ちはどうなるのよ。勝った方と? おとぎ話かよっ!」


 美都有は、心底可笑しそうにケタケタ笑う。


「それに私、好きな人いるし」


 美都有は、俺の目をチラチラと見て、急にモジモジとし出す。


 確かに告白したから、必ず成功するわけではない。

 どこか勝負に集中し過ぎて、美都有の気持ちを考えるのを忘れてしまっていた。


 蹴人は、それが分かっていたから、美都有の気持ちが分かっていたから、美都有の元に行く時に、あんなに余裕だったんだ。


 思い返すと、小さい頃から蹴人よりも、俺の方が心の距離感が近かったように思う。


 軽口を叩くのは、いつも俺にだけだった。


「私の好きな人は……」


「待って! 俺から言わせてくれないか」


「塁も分かってくれてたんだ」


「まあな」


「でも、絶対に私から言いたい。いいでしょ?」


 俺はゆっくりと頷いた。



「私の好きな人は……、日和本明くんですっ!」




 やっぱり、好きな人は俺…………じゃないじゃん!


 そういえば、最初に朝練に遅れて来た時、一緒に登校して来たのが確か日和本だったし、帰りも一緒になるのが多かった。


 あいつ、バスケ部を早くに引退して、遅くなる理由ないのに、おかしいとは思ってたけど。


 バスケ部だけに、日和本はノーマークだったなぁ。



「しかも少し前から、もう付き合ってまーす。で、明くんと一緒に、手芸部の強い高校を目指しますっ!」


 美都有はビシッと敬礼を決め、高らかに宣言した。



 それが美都有の新しい夢か。


 いや、手芸の強さって、いったい何なんだよ。誰か教えてくれー。




 ちなみに『告白出来る権』を獲得したもう一人、海堂中の監督。


 二十年ぶりに、知世さんに電話で連絡をしたところ、すでに結婚していて、子供が四人いたそうです。

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