勝敗決す!

 ついに大会の当日。快晴。


 朝、大会会場へ向かう為に、学校に集合する。


 今日は蹴人と示し会わせて、二人で学校に向かう。


 さすがの蹴人も、心なしか緊張しているように見える。それは俺も同じだ。


 いきなりの最大のライバルの海堂中と大一番にして、俺と蹴人の勝負も決まってしまうかもしれない試合なので、それも当然だろう。


 もちろん、監督みたいに惜敗で良しと思ってはいない。

 大会を勝ち進み、試合数が多くなれば俺が不利なのも分かっている。


 それでも、海堂中に負けたままでは終われない。大会を勝ち進んで、全国を目指したい。


 まずは、チームの勝利優先のプレーを二人で誓いつつ、学校に向かった。



 一点差負けでもいいと思っている監督が「今日は絶対に勝つ!」と全員を集めて気合いを入れているのを冷たい視線で見ていた俺が気になったのは美都有だった。


 美都有は手に大きな袋を持っていた。

 監督が気合い入れに満足したところで、美都有はみんなの前に立った。


「三年生にとって、今回が最後の大会になるから、願いを込めて、みんなの分のお守りを作って来ました!」


 袋から取り出したのは、ユニフォーム型のお守りで、それぞれの背番号も入っている。


「ミトちゃん手芸出来たんだ。全員分を作るの大変だったんじゃない?」


 蹴人は、お守りを繁々と見ながら言う。


「実は明くんに教えてもらいながら作った。で、最終的には明くんも一緒に作ってくれたから、なんとか間に合ったよ」


 いつも間にか、日和本も美都有の横に立っている。


 日和本は、運動センスを全否定されるようなことを言われたみたいだが、手先は器用だったんだな。意外な才能を持っているものだ。


「日和本、試合もわざわざ応援に来てくれたんだな」


「本当は来るつもり無かったんだけど、せっかくお守りも作ったし、やっぱり現地で応援したいと思って」


 日和本は、なかなかの人格者だなと感心する。


 それにしても、美都有が朝練に遅く来たり、居残り練習に付き合わず、早めに帰っていたのは、このお守りを作る為だったんだな。


 美都有の手をよく見てみると、指に絆創膏が巻かれたりもしている。


 これで尚更、試合にも蹴人にも負けられないと気合いが入った。





 気合いが入ったのだが、団体スポーツというものは、俺個人の気合いだけでどうにかなるものでもない。


 蹴人のゴールで一点先制したが、その後たて続けに三点を失い、二点ビハインドの状況。


 最近の対戦を考えると善戦はしている。


 しかし、時間的に残りワンプレー。


 俺たちの負けは、恐らくはもう覆せない。


 チームのみんなは落ち込み気味で、相手はもう勝ったような顔をしている。


 ところが、この場所には闘志の衰えない男たちが四人。


 チームの勝敗は決したが、上手い具合に、監督たちと俺と蹴人の『告白出来る権』の行方はまだ決していない!


 相手の監督は「死守だーっ!」を繰り返し、選手たちをキョトンとさせ、うちの監督は「どんな手を使ってでも、一点もぎ取れ!」とわめき散らし、選手たちをキョトンとさせている。


 残すワンプレーは、俺たちのコーナーキック。


 あんな大人にだけはなりたくないと、二人の監督が思わせてくれたことで、俺は冷静さを取り戻した。


 蹴人がボールを一度おでこに当てて、コーナーフラッグを触り、ボールをセットする。


 蹴人のコーナーキック時のルーティンだ。


 ここで蹴人がミスキックを装って試合を終わらせてしまえば、自分の勝ちが確定するが、蹴人は絶対にそれはしない。


 蹴人は少年マンガの主人公メンタルだから。


 必ず、一番得点確率の高い俺にドンピシャで合わせてくるはず。


 蹴人と目が合う。にこりと笑い助走に入る。


 俺も蹴人に合わせて、助走に入る。


 蹴人が入れるクロスの軌道が、キックよりも早く俺の目の前に鮮やかに現れる。


 後はそこに飛び込み、頭を振ってゴールに叩き込むだけ。


 決めれば、かなり癪に触るが、うちの監督が勝ち、俺と蹴人の勝負は同点だ!





 あれ?


 同点だったら『告白出来る権』はどうなるんだっけ?


 えーっと、負けたら今日で大会が終わりだから……、勝負は持ち越しで……、なんだかんだウダウダやってるうちに、あの監督たちみたいに……なっちゃう?



 とか、余計なことが頭をよぎったばかりに、その頭を振るタイミングが少し遅れた。


 そして、シュートコースが若干甘くなり、キーパーがガッチリとボールをキャッチ。



 試合終了のホイッスルが吹かれる。



 コーナーに立ち尽くす蹴人。


 頭を抱える俺。


 オイオイと号泣する、うちの監督。



 そして、海堂中の監督の「イヒャラヒャッホーイ!」という歓喜の声がグラウンドに木霊した。

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