男はとある駅のホームに立ち、向かいのホームにいる女を見ている。女はホームの男をチラリとみて、電車が来る方向を向いた。そして、これから彼女が過ごすであろう永遠につづく時間のことを思い憂鬱になった。

 男は精神科のカウンセリングのたまらなく退屈な時間のことを思い、思わずホームから足を踏み出しそうになる。そして、もう一度彼女のいるホームに目を向ける。

 その時、電車がホームに入ってきて彼女の姿は見えなくなった。

 男と女が階段を下りてきて、彼に軽くあいさつをした。男は女のほうに見覚えがあった。もしかすると男の方も。あの制服の女だろうか。男の記憶がつながりはじめた。

「俺たちはハメられたんだ」

 その時男の前を電車が通過する。

「死なせませんよ」

 彼の耳元で男がつぶやく。隣の女がニヤリと笑った。

 電車が走りだし、男は窓の外の女に向かって叫ぶ。

「助けてくれ」と。

 女は軽く手を振って歩きだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偶然の日常Ⅰ 阿紋 @amon-1968

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ