「あきらめが悪いのね、あなた」彼女が彼に言う。

「おまえの方こそ」男が女に言う。

「上手くいくかな」彼が彼女に言う。

「もう少しかしら」女が男に言う。

 男は持っていた書類を彼女に渡す。

 女が持っていた書類を彼に渡す。

 二人とも驚きもせず書類に目を通す。

「こんな男知らないわ」

「俺だってこんな女は知らない」

 男も女も平静を装うことに必死だった。そんな二人を観察している彼と彼女。

 ニヤニヤと笑う男。

 すまし気味の女。

 男は急に立ち上がりあたりを見渡す。女は書類を握りしめる。

 腕を組んだ男女が二人の脇を通り過ぎて外へと出ていく。

 テーブルには同じ封筒が二つ並んでいた。

「どうかなさいましたか」

 ウエイトレスが二人に声をかける。彼女の顔を見た男と女は顔を見合わせた。

「そろそろ気づいたかな」

「多分ね」

 女は組んでいた腕を離した。

「まだいいじゃない」彼が彼女に言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る