第256話 神海龍
「へぇ、俺を知ってるんだ」
少し驚いた後、楽しそうにニヤリと笑った。
神級の魔物、その中でも龍種のみ言葉を話すことができる。
そして、人型になれるのは変身魔法を扱う神海龍のみだ。
神海龍は海に現れる魔物だが、変身した状態であればどこにでも現れる。
ただ、ゲームでは山で登場したことがなかった。
セージはここで会ったことに驚きつつも考える。
(周辺に水辺はない。今の装備で神海龍が変身状態なら、有利か。できれば対策してから戦いたいけど。とりあえず、仲間は先に逃がすか)
セージは水無効の腕輪を付け替えながら、ルシールにハンドサインを送り、スラオに皆を連れて先に飛行魔導船に戻るよう指示する。
ルシールも腕輪を付け替えながら、スラーンに指示を出した。
付け替えた腕輪はジッロにより作られたものだ。
火、水、風無効の腕輪など数多く付けている。
複数つけていても同時に効果が発揮することはなく、一番最後につけた物の効果になるため、各種ドラゴンと戦うときに付け替えながら戦っていた。
「俺のことをどこで知った?」
(会話で戦闘が避けれるかな? 神海龍は無理かなぁ)
神の魔物の中で龍種は神海龍と神寿龍。
そして、神海龍は好戦的として知られている。
戦闘回避の期待はできないが、神海龍と戦うメリットが小さいため、戦いたくないセージは友好的に答える。
「昔、アーシャンデールの方であったことがあるんですよ」
(ゲームの中でだけど)
正直に答えるセージに神海龍は
「アーシャンデール? どこだそれ。人族の付けた名前なんて知らん」
(そりゃそうか。どう説明するべきか)
「そうですよね。ええと、向こうにある川を下ると見えてくる国のことです」
「ふーん。まぁいっか。とりあえず、戦う気はあるってことでいいんだよな?」
(えっ、雑な返事というか急!)
神海龍は話の流れをぶった切り、嬉しそうにルシールを見る。
ルシールは視線をそらすことなく、まっすぐ見返した。
(二人とも好戦的過ぎない……?)
「できれば戦闘は避けたいと思っているんですが」
「そんなつまらねぇこと言うなよっ!」
そう言い終わると同時に跳躍してくる神海龍。
(やっぱ無理だったか!)
早々に戦闘回避計画が破綻したセージは隠れるように移動する。
それとは対照的に、ルシールは剣を抜きながら神海龍に手を向けた。
「パルスヴォルテックス」
ルシールの手から空気が爆ぜるような音と共にバチバチと弾ける雷が光線のように放射される。
特級雷魔法『パルスヴォルテックス』は神海龍に有効な魔法だ。
それでも、神海龍は雷をバヂィと腕で防ぎながら近づき、拳を繰り出す。
ルシールはそれを一歩引きながら盾でいなした。
「デマイズスラッシュ」
渾身の一撃を、神海龍は腕で受けつつ、さらに前へ踏み出し懐に入る。
そして、拳が脇腹に突き刺さった。
ルシールはそれを受けながら横に跳び、二撃目を躱す。
それと同時に剣を振るって反撃。
しかし、それは後ろに跳んだ神海龍には届かない。
神海龍はカチカチと歯を鳴らし、大きく口を開いて炎を吐き出した。
特技『業炎の息吹』。
神海龍が変身した状態で唯一使える特技だ。
人が火を吐くという予想外の攻撃に、後ろへ跳躍しながら剣をしまって『土遁』を発動。
多少ダメージは受けたが、穴に落ちて息吹をやり過ごす。
その間にMP回復薬を飲み、炎が止むと同時に穴から飛び出した。
「タイダルウェーブ」
出てくるのに合わせて魔法を発動した神海龍。
しかし、ルシールは腕輪の効果で水魔法を無効にして突き抜ける。
「はぁっ!? お前っ!?」
「神速」
最速の攻撃が神海龍に直撃。
神海龍の反撃に「二の太刀」を合わせる。
「なんで魔法が効か――」
「パルスヴォルテックス」
その瞬間にセージの雷魔法が発動した。
ルシールと神海龍の戦闘の裏で『リミットブレイク』を掛けなおして魔法を用意していたのだ。
「なんだその力は!」
不意打ちによる魔法の直撃、しかも限界突破したセージのINT、さらに神海龍の弱点でもある雷魔法の直撃は大ダメージを与える。
一度も経験したことがないようなダメージ量となる一撃に、さすがに驚き声を上げる神海龍。
(神海龍でも驚くんだ。まぁそりゃそうか。我ながらこのINTはチートだし)
しかし、セージは呪文を唱えているので答えない。
イラッとした神海龍はルシールに蹴りを放ち、ターゲットをセージに切り替えた。
それを遮ったのはルシールだ。
「デマイズスラッシュ」
神海龍の動きに合わせて強烈な一撃を放つ。
最強の剣技。
ステータスカンスト、神聖国最強と言われるルシール。
持つのは世界最高の剣『英雄の炎雷剣』。
いかに神の魔物とはいえ、その攻撃を無視することはできずに防御するしかない。
続く追撃の剣を神海龍は殴り付けて反撃。
ルシールはそれを盾でがっちりと防御し、一歩引きながら攻撃を加えた。
そして、攻撃に攻撃を返すという応酬に、お互いのダメージは積み重なる。
(パルスヴォルテックスは範囲魔法じゃないけどタイミングが難しいな)
セージはそんな戦闘を見ながら魔法を使うタイミングを考えていた。
戦闘中の魔法は氷魔法『フロスト』が有効だ。
しかし、神海龍に氷魔法は効きにくく、さらに上級魔法なので威力も低い。
与えられるダメージが小さすぎるため使えなかった。
そこで、ルシールは神海龍に踏み込んで剣を振る瞬間に特技を発動。
「地槍擊」
(よしきた!)
反撃しようとした神海龍に向かって地面から槍が飛び出す。
神海龍はそれに一瞬気をとられた。
「パルスヴォルテックス」
雷が空間を裂いて突き抜ける。
神海龍は腕で防御し、バチバチと体に雷を走らせながら近づいてきたルシールに拳を放つ。
無理な体勢からの攻撃は、ルシールには当たらない。
その反撃の剣が襲った。
神海龍はそれを跳躍して避けつつ、特技『業炎の息吹』を吐き出す。
ルシールが避けようと後ろへ跳躍すると、神海龍は一直線にセージへと走りだした。
(きたか。まぁマトモに戦うつもりはないけど)
セージはその動きを確認し、攻撃を受け止める。
そして、後ろに下がりながら剣を振った。
しかし、それに追随するように踏み込んでくる神海龍。
(うおっ! 速っ!)
咄嗟に防御しながら後ろに跳ぶセージ。
それがわかっていたかのように、神海龍は距離を詰めて攻撃する。
(思ったより戦いにくい!)
剣の方がリーチは長いが、至近距離では攻撃しにくい。
戦闘訓練はしてきたが、そのほとんどは魔物相手か剣士相手。
素手の相手の経験は少なく、しかも神海龍は速かった。
セージは防御に集中し、隙を見て大きく後ろに飛んだ。
それを追いかけようとする神海龍に対して、割り込むように攻撃してくるルシール。
(さすがルシィさん!)
「フルヒール、リミットブレイク」
セージはルシールを回復して、限界突破をかけなおす。
そして、再度呪文を唱え始めた。
割り込んだルシールは防御を中心に戦いを組み立てる。
神海龍は距離を詰めて攻撃するが、戦いながら動きを学んでいるルシールの防御を突破するのは簡単にはいかない。
それに、神海龍の体はこの世界の人族女性の平均を模して変身している。
ルシールより小さい上に武器も持っていないため、剣の方がリーチが長い。
加えて、水魔法は無効化されるのだ。
神海龍は歯をカチカチと鳴らし、業炎の息吹を吐き出す。
それを予想していたルシールは跳躍で避けた。
神海龍の本来の姿は巨大な龍である。
跳躍で避けられるようなものではない。
しかし、今の姿であれば飛び越えることができた。
神海龍はすぐに炎を止めて防御の態勢で振り返る。
しかし、ルシールは剣を仕舞っており、神海龍の服を掴んだ。
そして、着地とともに特技を発動する。
「巴投げ」
見た目よりも重い神海龍を特技によってぶん投げた。
(よしきた!)
「パルスヴォルテックス」
神海龍は浮遊することはできないので、回避することはできない。
防御もできずに空中で直撃を受ける。
この時、神海龍は危機感を持った。
本来の龍の姿だと、地上での行動が難しい。
海で生活するための姿だ。
水の中であれば負けないが、地上でその姿になれば、より攻撃を受けやすくなるだけだろう。
変身した状態では使えない物理攻撃系の特技が使えるようになったとしても不利だ。
少なくとも全身が入るような大きさの湖が必要である。
そして、変身の魔法は自由自在というわけではない。
各種族の平均の姿、または何種類かの魔物の姿になることができる魔法である。
別の種族に変身することも可能だが、人族が最も多く、紛れ込みやすいため、神海龍は地上で人族の姿を選ぶことがほとんどだ。
慣れない姿で戦うよりは、そのままの方がマシだった。
「デマイズスラッシュ」
巧みに攻撃し、チャンスがあれば渾身の一撃を繰り出すルシール。
「パルスヴォルテックス」
隙を見つけて強烈な特級雷魔法を放つセージ。
特に厄介な魔法を止めるためにセージへと近接攻撃を仕掛けたとしても、倒すどころか大きなダメージを与えられない。
後衛のセージだが、普通に近接戦闘でも戦える。
それにルシールと連携をとろうと動くため、一時的に魔法を止めたところあまり意味はない。
神海龍はこの連携を攻略できなかった。
(かなり安定してダメージを与えてるな。それでもあと数十分はかかるか。いや、神海龍なら削り切る前に逃げる――)
「こんなところで人族と戦っているとはな」
そんなことを言いながら現れたのは新たな龍。
蛇のような体は数十メートルあるだろうという巨体。
それが地面から数メートル浮遊しながら近づいてくるのは異質である。
(神寿龍!? それはやばい!)
現れたのは神の魔物『神寿龍』であった。
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