~神級の魔物編~

第255話 ランク上げの終わり

「終わったー!」


 セージの目の前にはホーリードラゴンがいる。

 今、グレンガルム王国中央にある山『龍の領域』に来ていた。

 そして、ドラゴンを狩り続け、とうとうホーリードラゴン二体目が仲間になり、調教師をマスターできたのである。


「とうとう終わったな」


「かなり長かったよね。特に最近は低確率を狙ってたから」


 調教師のランク上げは、最初は順調だった。

 仲間になる確率は高く、十回も戦闘しないうちに二体が仲間になって終わるなんてこともある。

 しかし、それは徐々に難易度が上がっていき、百回戦闘しても一体も仲間にならない、周辺の魔物を根絶やしにしても仲間にできなかった、などということもでてきた。

 ホーリードラゴンはかなり仲間になる確率が低いのだが、ストンリバー領より大きいと言われる程広い龍の領域を十日以上かけて戦い続け、なんとか仲間になったのである。


「そうだな。ついでに仲間のレベルも上がったのはよかったが」


「うん、スラオもレベル99になったし良かったね」


 スラオはセージのリュックから半分出てきて嬉しそうに震えた。

 ルシールが初めて仲間にしたスライム、スラーンもポヨンと揺れる。


「スラーンもな。スライムがこんなに強くなるとは驚いたよ」


「そうだろうね。レベルは最速で上がるけど、レベル90まではかなり弱いし」


 スライムはレベル90から急激にステータスが伸び、レベル99になるとHP9999、MP9000、他の能力値は全て900という強力な魔物になる。

 ステータスのバランスが良く、回復の特技、強力な魔法など覚える技もいい。

 しかし、レベル90までが弱すぎることと、魔法、状態異常の耐性が低いことから、ゲームでは上の下くらいの評価であった。


 それでも、セージはスラオを育て続けた。

 愛着があったということもあるが、それだけではない。

 スライムの利点。

 何でも食べるので食事が楽、睡眠がいらないなどもあるが、最大の利点は小さいことだ。


 深い森や狭い洞窟、人ですら戦いにくい環境でも関係なく戦えることは大きなメリットである。

 さらに各種耐性が低くてもリュックに隠れ、セージを盾にすることで対策でき、途中で出会った冒険者を威圧することもない。


 ホーリードラゴンの評価は上の上。

 完全にスライムより強くなるが、その分体は大きく、戦える環境、連れていける場所は制限される。

 基本的に強い魔物は人より大きく、小さいサイズの魔物の中ではスライムが圧倒的に強かった。


「結局ここで戦ったのは正解だな」


「思ったよりドラゴンの数が多くて助かったよ」


「この領域に入る者はほとんどいない。多く生息しているとは思ってはいたが、ここまで多いとは思わなかったな」


「ドラゴンはレベル70くらいないとしんどいからなぁ。あんまり狩る人いないよね」


「まったくいないだろうな」


 ルシールの冷静な突っ込みにセージは首をかしげる。


「でも、王国に勇者はいるでしょ? 勇者なら倒せるだろうし、レベル70のランク上げならありだと思うな」


「王国の勇者でもここには来ないぞ。ドラゴンは強すぎる」


「そうなの? 悠久の軌跡はレベル50の時にドラゴン倒したって聞いたけど。属性なしのただのドラゴンだけど、レベル70の勇者なら余裕があるでしょ」


 ドラゴン系にはレッドドラゴンやホーリードラゴンなど、属性持ちが数多く存在する。

 その中で、ドラゴンは息吹と物理攻撃だけしか使わない。

 そして、ドラゴンは山の麓によく現れる。

 しかし、魔法を使わないとはいえ、通常の冒険者パーティーではそうそう敵うものではない。


「悠久の軌跡はパーティーのバランスがいいからな。それにそれぞれがきちんと鍛えている。だからこそ倒せたんだろう。勇者になってから考えてみると、王都の王国騎士団勇者部隊はそこまで強くはない。さらに、ここで出現するのがドラゴン一体だけじゃないことを考えると危険だな」


「なるほどね。悠久の軌跡もラングドン領の騎士も強かったから、そんなものなのかと思ってたよ」


 セージの基準となるのは悠久の軌跡やラングドン騎士団。

 悠久の軌跡は王国トップの冒険者。

 ラングドン騎士団は近接戦闘だけは飛び抜けていると評判だった。

 勇者補正があるにせよ、レベル70でSTRがカンストするほど鍛えた者たちだ。

 魔法の腕はいまいちだったが、ドラゴンなどの高耐性持ちには生半可な魔法を使うより物理で攻めた方が効果的である。


「さすがに勇者部隊のトップはかなりの手練れのようだが、半数はそれほどでもない。パスカルも大したことはなかっただろう? そもそも、ランク上げなんてしないな」


「いやまさか。勇者のランクは上げるでしょ?」


「それはもっと低いレベルで行うようだ。レベル70になってからはしないさ。生まれたときから勇者になれるんだぞ。セージは全部マスターしているが」


 セージは「そっか。たしかに」と言って、自分のランクを確認する。


 セージ Age 14 種族:人 職業:賢者

 Lv. 99

 HP 9999/9999

 MP 9999/9999

 STR 987

 DEX 999

 VIT 808

 AGI 999

 INT 999

 MND 999


 戦闘・支援職

 下級職 中級職 上級職 特級職 マスター

 戦士 魔法士 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人 

 聖騎士 魔導士 暗殺者 探検家 

 勇者 精霊士 忍者 探究者

 英雄 賢者


 生産職一覧

 下級職 中級職 上級職 特級職マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師 

 錬金術師 魔道具師 技工師 賭博師 

 創造師 

 調教師


 称号

 勇者の証 人族を極めし者 ドリュアスの祝福


(そうなんだよ。マスターしてしまったんだよなぁ。もう終わりか)


 職業は無限にあるわけではないため、当然終わりはくる。

 セージは全職業マスターを目指していたので、目標達成に喜ぶところだろう。

 もちろん、喜びや達成感はある。

 ただ、それと共に一抹の寂しさを感じていた。


「セージ? 大丈夫か?」


 気遣わしげに見るルシールにセージは「大丈夫大丈夫」と答える。


「人族を極めし者って称号がなんなのかなって思ってさ」


「セージにも現れたんだな。結局何かはわからなかったが」


 ルシールが先にマスターしており、その時に少し検証をしていたのだが、結局セージが思いつく効果はなかったのだ。


「祝福は少なくとも植物魔法耐性はアップしてて、勇者の証は限界突破。この称号はただ単に終わりを示すだけって可能性もあるけど、何かある……あればいいなって」


 ルシールは「そうだな」と同意し、あまり表情の優れないセージに問いかける。


「セージ、これからどうする? パーティーと合流するか? 今は皆素材集めに奔走していると思うが」


「うん、そうしながら、神級の魔物を倒して回ろうかな。特に神霊亀は素材の宝庫だから倒したいし。あと、調教師はマスターしたけど全魔物を仲間にしたわけじゃないから集めたいし」


「じゃあ、これから降りて神煌虎か神閻馬を倒しに行くか? この山にいる神寿龍とは戦わないよな?」


「そうだね。限界突破があれば二人で倒せなくもないけど、さすがに大変だし、素材もそんなにとれないから後回しかな」


「それじゃあ――」


 その時、セージたちに向かってくる音が聞こえた。

 その瞬間に『リミットブレイク』を発動し、呪文を唱え始める。

 周辺の魔物は根絶やしにしていたが、復活することはあるので、驚くことはない。


 ただ、今回出現した姿には驚かされた。


(まさかこんなところで?)


 青い髪に浴衣のような紺の衣装、整った顔立ちに不敵な表情。

 ルシールと同年代の女性に見える。


「こんなところに人族がいるとは珍しいな。この辺りのドラゴンがいないのはお前らの仕業か?」


 警戒しながら質問に答えようとしたルシールをセージが手で遮る。


「ルシィさん、パルスヴォルテックスを唱えてください。あれは人に変身した神海龍です」


 セージは神級の魔物『神海龍』から目をそらさずに言った。

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