第241話 スラオ
「スラオ、生きてたんだ! というか仲間の設定なくなったと思ってたよ」
セージは以前神木の道でスライムを仲間にしたことがあった。
ただ、ゲームでは魔物を預けておく場所があったが、ここにはない。
スライムを連れて行動し続けることはできないということで、パーティーから外して逃がしたのである。
(これでも仲間システムが生きているなら、むしろ逃がす時はどうすればいいんだろう。別に無理に逃がす必要はないんだけど)
「セージ、知り合いなのか? まさか魔物にも知り合いがいたとはな」
「違う違う! この前ケルテットに来たとき、調教師のことを調べるためにスライムを仲間にしたんだよ。あっ、だからスライムが仲間にならなかったのか」
「どういうことだ?」
「スライムが仲間になる確率は二分の一なんだけど、二体目は確率が下がって八分の一になるんだよ。それがルシィさんに適用されたのかも」
「なるほどな。じゃあ私がパーティーから外れたらどうなるんだ? 二分の一で仲間になるのか?」
「うーん。試してみよっか。確率だから判断が難しいけど。えっ!?」
スラオのパーティー申請を許可すると、視界ステータスが表示された。
それを見てすぐに復活魔法の呪文を唱え始める。
スラオ Lv.38
HP 0/344 MP 132/342
(なんでHP0なの? このレベルならレッドスライムも一撃なんじゃ……西の森に行ったのかな? ステータスが低いから、ワイルドベアには勝てないだろうし)
「フルリバイブ」
(とりあえずこれでよし。何か嬉しそうに見えるけど感情があるのかな? スライムの生態なんて設定あったっけ?)
プルンプルンと揺れるスラオは喋ることはなく、意志疎通は難しい。
それでも何となく嬉しそうに見えた。
「それにしてもこのスライム、レベルが高すぎないか?」
「うーん。わかれる前にレベル20までは上げたんだけど、その後自力でレベルを上げてたみたいだね」
「自力か。このステータスで、なかなかやるな」
(ということは、レベル上げを魔物自身にまかせられる? でも回復手段に乏しいし、いざというとき復活できないのは危ないし。そもそもどうやって指示すれば? 声って聞こえてるのかな? そういえばゲームでは仲間の数に空きがないと自力で魔物預かり所に行ってたっけ。そんな行動がとれるってかなりすごいことでは?)
セージはスラオを見つめているが、その意思は読み取れない。
スラオはポヨンポヨンと移動して、セージの足元でプヨプヨする。
(おおっ! なんか懐いてる?)
プルプルした体を持ち上げてみると、プルンプルンと揺れていた。
「仲間になるとそんな感じなのか」
「そうみたい。僕もよく知らないんだけど」
「ちょっと触ってみていいか?」
そういってルシールが手を伸ばしたとたんに、スラオはセージにまとわりつくようにして逃げた。
(おおっ! そんなこともできるんだ。そういえば木に張り付いたりもしてたな。どうやってくっついてるんだろう)
セージは背中側でへばりつくように平たくなったスラオを見る。
「攻撃されそうになったから怖がってるのかな?」
「……私もスライムを仲間にしてみよう。一旦パーティーから外れるぞ」
少しの間、手を伸ばしたまま呆然としたルシールは気持ちを切り替え、パーティーから抜けた。
そして、スライムを探し始める。
(魔物だけのパーティーで活動できるのかな? 回復魔法が使える魔物って少ないけどちゃんといるし。仲間にしてちゃんとバランスを考えてパーティーを組んでもらってレベリングするとか。放置ゲー的な感じ?)
スラオはルシールが離れたのでセージの肩に乗った。
乗ったと言ってもスライムは結構大きい。
丸いまま乗ることはできないので、肩にかけたタオルのように、びにょんと延びている。
少し撫でてみると、プルルンと嬉しそうに震えた。
(スライムは可愛いって感じではないと思っていたけど、懐かれると愛着がわくな。ペットみたいな感じで。でも乗られると結構重い)
そんなことをしていると、ルシールにもスライムが仲間になる。
「やっと仲間になったか。ほら、おいで」
スライムに手を伸ばすルシール。
しかし、スライムは動かなかった。
「い、嫌、なのか?」
「ルシィさん、まだ出会ったばかりでしょ?」
「セージもそんなに長い間一緒にいたわけじゃないんだろう?」
「そうだけど。スラオが人懐っこい性格なのか……そもそも性格なんてあるのかな?」
(性格も好感度システムもなかったはず。隠しパラメーターがある? 聞いたことないけど。でも、ゲームでは戦闘で指示を出すことができたし、何かしらの意志疎通方法とある程度の知能があるはず。レッドスライムは魔法が使えるくらいだし。それなら多少感情があってもおかしくはないかも)
スラオをじっくり観察しても何もわからない。
しかし、スラオもセージをちゃんと見ているように思えた。
(まぁいっか。とりあえず二体目を確保しよう)
こうしてセージたちはケルテット周辺の魔物を仲間にして、再度ナイジェール領に向けて飛んだのであった。
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スライムのスラオ。
元々はどこにでもいる平凡なスライムであった。
セージと会うまでは。
セージに出会ってスラオという名を付けられて、レベルを上げてもらった。
最弱の代名詞と言われるほどスライムは弱い。
それでもレベルを上げればちゃんとステータスは上がる。
そして、スラオはセージに置いていかれた後、ずっと戦い続けてきた。
それは強くなってセージと共に行くためか、セージの影響があったからか、元々の性質か、誰にもわからない。
それでも、睡眠を必要としないスライムは日々魔物を狩り続けた。
神木の道のスライムが減っていたのもスラオが原因である。
スライムの復活はかなり早く、倒しても倒しても完全にはいなくならない。
そして、スライムのレベルは上がりやすい。
とはいえ、スラオのレベルはすでに20である。
スライムから得られる経験値が低すぎて、全くレベルが上がらなかった。
スラオは神木の道を抜け出して別の場所に移動する。
レベルは高くてもステータスは低い。
木に登って隠れ、近づいてきた魔物にレベル20で覚えた特技『溶解液』で攻撃する。
ダメージを受けたら、神木の道に戻ってレベル10で覚える特技『吸収』でスライムからHPを奪って回復。
弱い魔物でないとHPを吸収する間に反撃を受けて回復できないが、スライム相手ならほとんどダメージを受けることはない。
スラオはケルテット周辺の森を行ったり来たりしながらずっとレベルを上げ続けた。
そんな日々を過ごしていたが、ある日至近距離でワイルドベアと遭遇。
レベルはスラオの方が高いが、ステータスはワイルドベアが上だ。
下手に逃げれば追い討ちを受けてしまう。
木を活かして攻撃から逃げ回りつつ『溶解液』で地道にHPを削った。
死闘の末、ワイルドベアを倒し神木の道で回復しようと急いだが、途中で駆け出し冒険者に襲われ、魔物にも襲われ、HPが0になる。
命からがら神木の道にある教会にたどり着き、そこに隠れた。
教会に魔物は寄ってこない。人もほとんど来ない。
スラオにとって一番の安全地帯だった。
身を潜めてしばらくすると、声が聞こえた。
セージの声だ。
スラオはこっそり姿を見せ、パーティー申請を出す。
その瞬間、隣にいたルシールが襲いかかってきた。
その圧倒的な速さ。
スラオが逃げる間もなく接近されており、どうしようもないことは瞬時に理解する。
「ちょっと待って!」
鋭く響くセージの声。
ぴたりと止まるルシールの攻撃。
スラオは弾け飛ぶことなくプルプルと震えた。
九死に一生を得たスラオ。
その後、HP0から全回復してもらったスラオが、セージにずっとついていこう、と思ったかどうかは誰にもわからない。
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