~魔物集め編~

第240話 仲間との再会

 対ブランドン戦を終えたセージたちはというと、王宮やシトリン家から書物やアイテム類を押収するため一時的に王都に滞在することになった。

 セージは何が欲しいかを言っただけで、実際にその作業をしているのはクリスティーナや旧ナイジェール領から呼んだ者たちだが。


 クリスティーナはセージの役に立てることに生き生きとしている。

 元シトリン家の邸宅はストンリバー神聖国大使館に生まれ変わり、クリスティーナは外交官になった。

 ストンリバー神聖国の窓口のような役割だ。


 追い出される形となったブランドンは質素な家に移り住み、政務の裏方としてグレンガルム王国を平和な国にするため尽力している。

 更迭されたブランドンの処遇は難しく、様々な意見があったが、ブランドンは元宰相。

 グレンガルム王国のことは国王よりも知っているため、急に抜けられても問題があるのだ。

 そして厳罰を求めないというクリスティーナの意見によってその形に収まっていた。


 ブランドンは父親であり見捨てることはできない、というわけではなく、セージの意向である。

 セージとしては、ローリーたちがいい暮らしを満喫していたにも関わらず、騎士団壊滅させ、ブランドンを昏倒させ、訓練場をズタボロにしたことに対して引け目を感じていた。

 セージの気持ちを考えるクリスティーナにとって、ブランドンを守ることは重要だ。


 そして、頃合いを見てブランドンは神聖国に引き抜こうとしていた。

 新たに国になった神聖国には政務に携わることができる人材が少ないため、その経験を持つブランドンは有用だからだ。

 ベアトリクスがストンリバー神聖国に移り、クリスティーナの部下になっているため、ブランドンはしっかりと働くだろう。


 これは政務の仕事に関わるネイオミやロードリック、そして唯一ストンリバー神聖国と併合を許可されたラングドン領のノーマンにとって助かることだった。

 ノーマンは領主だが爵位という制度がなくなったため、子爵ではない。

 ただ、神聖国の中ではかなり上位になる、と外からは見られるだろう。

 友好領としてアッシュフィールド領とミストリープ領が定められたのだが、かつてアッシュフィールド領主にお世話になっていたノーマンは今後の対応に苦慮することになる。

 ちなみにケルテットは聖地に認定された。


 ローリーたちは故郷が聖地になるとは知らず、護衛を連れて王都の観光と情報収集をしていた。

 助け出された四人は王都が初めてである。

 到着から二日後にクリスティーナに案内してもらっていたが、広い王都を一日で見て回るのは不可能。

 かつて学園に通っていたルシール、一時期は王都で生活していたビリー、現在も拠点をもっている悠久の軌跡が案内することになった。

 護衛としてルシール自由騎士団のトニーパーティーがついており、ぞろぞろと団体で移動する姿は目立っていたという。


 また、ルシール自由騎士団のギルパーティーは冒険者ギルドや旧友を訪ねており、クリフパーティーはドワーフの里フォルクヴァルツに行っている。


 フォルクヴァルツではセージたちを心配する声が上がっていた。

 里からでも神鳴鳥登場はかすかに見えており、その後姿が見えなくなったとなると、討伐に失敗したんじゃないかという話になっていたのだ。

 神命鳥周回中に音信不通になり、戦っている様子もなく、フォルクヴァルツに一部の荷物が置きっぱなしになっているとなると、そう考えるのも仕方がないだろう。


 特に心配して毎日帰って来ないかと見ていた門番課課長モーリッツ・ザイフリート。

 いつもは南門の執務室で仕事をしているが、最近は北門にもよく足を運び、様子を確認していた。

 そんなモーリッツに知らせが入る。

 自由騎士団のパーティーが南門から来たというのだ。


 北門から出ていって南門から入ってくる、しかも1パーティーだけである。

 急いで南門に向かって話を聞いてみると、神鳴鳥を倒した後、別のところにいたボスを倒し、さらに魔王を倒していて遅くなったということだった。

 そこまでのことをしていたにしては短期間過ぎるという突っ込みを抑え、モーリッツは十名のドワーフと共に王都に向かう。


 ドワーフ族の中でセージのところに行きたいという者が数多くいたからだ。

 山から降りてきたら何とか連れていってもらえるように交渉しようとしていたら降りてこず、登ってきたパーティーにセージはいない。

 全員を連れていくわけにはいかないため、まずは十名で行き、お願いをすることになっている。


 そのセージはというと、第一学園に入学していたことを思い出し、まずは学園に行っていた。

 このときすでに四月になっており、始業式も終わって学園は始まっていたのだ。

 完全な無断欠席ではあるが、侯爵家当主であるためそこは不問である。

 この後、神聖国になるので、何にせよ関係がないことではあるが。


 同様に学園生であるクリスティーナとエヴァンジェリンも学園に行き、アルヴィンは騎士団の勇者部隊に配属された。

 アルヴィンはそこで情報収集をしたあと、ストンリバー神聖国に抜け出すことになっている。


 第三学園では教科書が一冊しかなかったが、第一学園では立派な教科書を何冊も受け取れる。

 せっかくなので受け取りに行き、ついでに一つ授業を受けた。

 魔法分析1の講義だ。


 突然参加してきたセージに、学園生は遠巻きにチラチラと見ていた。

 ここまで目立っているため、侯爵家当主という肩書きは知られており、絡んでくる者はいない。

 注目を受けながらクリスティーナと共に授業を受けた後、必要がないと判断したセージは図書館の蔵書やオルグレン公爵の蔵書、魔導具などを確認して重要なところをメモしていった。


 学園にしかない本が一部あるからだ。

 魔王を倒して『リミットブレイク』が使えるようになったが、他にも使えない特技はあり、それを調べていた。

 そこでわかったのは獣族専用職のように人族がなれない職業があるということだけだった。

 種族を変えることはできないため諦めるしかなく、セージは学園を放置して旧ナイジェール領、ストンリバー神聖国に飛んだ。


 ストンリバー神聖国独立に際して決めることが多く、三か月の月日が経つ。

 そして、セージとルシールはケルテットに降り立った。

 それはやりたいことがあったからだ。


「さて、スライム狩り、しよう!」


 そこは神木の道である。

 ストンリバー神聖国独立のためだけにセージが三か月もの間留まるわけがない。

 ルシールが創造師をマスターし、調教師の職業を発現させるのを待っていた。

 セージとルシールはとうとう調教師のランク上げに取りかかるのだ。


 わざわざケルテットに飛んで神木の道に来たのは、スライムが仲間になる確率が最も高いからである。

 そして、FSが同一の魔物を最大四匹まで仲間にできるというシステムを確認するためでもある。

 スライムが数多くいる神木の道は最適だった。


「仲間にするのに倒してしまっていいのか?」


「そうだよ。一度倒さないと仲間にできないからね。一撃で倒せるだろうから、追撃はしないように気をつけて」


「それくらいわかっている。仲間にしようとしているんだからな」


「でも、もしかしたらHP0にしてそのまま叩き潰しちゃうとかあるかもしれないでしょ?」


「セージ。私を何だと思っているんだ」


 セージとルシールは二人で森林浴でもするかのように歩く。

 スライムが何体来ようとセージとルシールを倒すのは不可能なので緊張感もない。


 そして、しばらく進むとスライムが飛び出してきた。

 しかし、レベル差がありすぎて、スライムはおそいかかって来ずに逃げようとする。

 ルシールはスライムを瞬時に追いかけて一閃。

 一撃で吹き飛ばした。


「あっ……」


 その声を出したのはルシールかセージかその両方か。

 HP0になったスライムは木にぶち当たり、スライムゼリーが飛び散って核が転がる。

 静寂と共に緩やかな風が吹くのが感じられた。

 ややあってセージが口を開く。


「まぁ、なるべく優しく攻撃するのがよさそうかな」


「……そうだな」


 また進んでスライムに会ったら、今度は圧倒的な速度で近づいて、優しく殴り飛ばすルシール。

 べしゃっと落ちたスライムはプルプル震えて逃げていった。

 少し悲しげな表情のルシールが振り向く。


「これで合っているのか?」


「たぶん大丈夫。次にいこっか」


 スライムはすぐに仲間にはるはずだった。

 しかし、その次も、そのまた次もスライムは仲間にならない。

 ルシールは逃げていくスライムの姿を見る。


「私はスライムに嫌われているのか?」


「いや、そんなはずはないと思うけど。昔よりスライムの数が少ないし、何かあったのかな?」


 前よりスライムの出現率がかなり低く、レッドスライムは一度も見ていない。

 それに、スライムが仲間になる確率は二分の一。

 セージは、おかしいなと考えながら歩いていると、教会が見えた。


「もう教会に着いたのか」


「そうだね、あっ、スライム」


 教会の裏からスライムが顔を出す。

 条件反射のように迅速に動くルシール。


「ちょっと待って!」


 それをセージが慌てて止めた。

 セージの視界にパーティー申請が入っていたからだ。


「スラオ?」


 かつてセージが仲間にして逃がしたスライム、スラオは嬉しそうに跳ねてセージに近づくのであった。

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