第232話 魔王戦後

(ここはちゃんと閉めたはず)


 ヴィアヴォリアが入れないように地下への入り口はぴったりと閉じていた。

 そのフタがズレて開いている。


「ラビットイヤー」


 探検家の特技を発動して耳をすませると、わずかに歩く音が聞こえた。


「突入します」


「先頭は僕が行くから。任せて」


 マルコムがスッと前に出て、入り口を調べる。

 最近はアタッカーやタンクとして前衛の役割もこなすが、もともとは斥候役だ。

 探索には慣れている。


(さすがマルコムさん。手際がいい)


 マルコムはざっとフタを調べると、剣を抜いて『ルーメン』を唱えて中に入る。

 それにセージたちが続く。

 通路は階段になっており、横幅は一人分しかないほど狭い。

 そこを慎重かつ迅速に降りていく。

 そして、一番下まで着くとそこには扉があった。


 バンッと開けると、そこは松明が灯された薄明かりの部屋。

 真ん中には禍々しい雰囲気の祭壇とその上に黒いオーブがある。

 そして、その奥の壁には蝙蝠のような翼を持ち、長い髪をした人のような姿が彫られていた。

 人ではないとわかるのは、翼だけでなく手が四本あるからだ。

 四本ある手の二本で杖を抱え、残りは片手ずつ剣と盾を持っている。


(これは邪神の祭壇? この邪神は見たことがないぞ)


 その邪神の姿に気を取られていた時、祭壇の奥からパッと姿を現したのは、五十センチ程のヴィアヴォリアのような魔物。

 その魔物は出てきた瞬間にオーブを取るとすぐに引っ込んだ。

 その一瞬の出来事に不意を突かれ、反応がわずかに遅れてしまった。


(しまった!)


 セージがそう思った時には、マルコムが動いている。

 そして、祭壇の奥に跳んだが、手にした剣を振ることはなかった。


「ごめん、逃がした」


 セージも駆け寄ったがすでになにもなく、祭壇の奥の地面には子供が通れるくらいの穴が開いているだけだった。


(これは、メタルモールが掘った穴か? 最後にしてやられたな)


「いえ、これは僕が予測しておくべきでした。すみません」


(あれは神命鳥のように生まれ変わりの姿なのか、それとも子供的な存在なのか。どちらにせよ、考えておくべきだったな)


 セージは反省しながらどうするかを考える。


(ここを潰しておきたいところだけど下手に破壊したら崩落しそうだし。見張りに誰かを置いていくのも邪神相手だと危険だからなぁ。まぁまたここが使われる可能性は低いし、とりあえず放置するしかないか。何とかできればいいんだけど。あとから王国騎士団に――)


「セージ、大丈夫か?」


「うん、まぁ、今回の邪神復活は阻止できたから良いとして……」


(でもヴィアヴォリアがまだ邪神を復活させてなかったということは不完全な状態だったのか? じゃあ、むしろ完全体ではない今復活させておいた方が楽だった? このメンバーなら……いや、今となってはどうしようもないし、とりあえず)


「町に戻ろっか」


 セージは諦めたようにそう答えた。

 そうして、セージたちは魔王を倒したものの、すっきりとしない気持ちのまま町に向かうのであった。



 ****************************



 帰り道は魔除けの香水と特製茶を使って迅速に戻り、町までの道を走り抜けた。

 そこで、邪神の件があったものの、魔王を倒したということで宴を開催。

 町着いた時には暗くなっていたが、町の人の協力もあり、何とか肉や酒を用意することができた。

 この後、すぐに出発しなければならないような用事は無いため、夜遅くまで催される。


 そして、その翌朝。

 セージは魔物を狩っていた。

 魔王を倒してからずっと気になっていたことがあったからだ。


 セージ Age 13 種族:人 職業:英雄

 Lv. 90

 HP 9999/9999

 MP 9999/9999

 STR 968

 DEX 999

 VIT 936

 AGI 903

 INT 999

 MND 999


 戦闘・支援職

 下級職 中級職 上級職 特級職 マスター

 戦士 魔法士 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人 

 聖騎士 魔導士 暗殺者 探検家 

 勇者 精霊士 忍者 探究者

 英雄 賢者


 生産職一覧

 下級職 中級職 上級職マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師 

 錬金術師 魔道具師 技工師 賭博師 

 創造師


 特級職 調教師 ランク1


 称号

 勇者の証 ドリュアスの祝福


 追加されたのは称号という欄。

 魔王を倒した後、ルシールがランクの確認のためにステータスを見た時に気づいたのである。

 それが何かはわかっていなかったが、セージには心当たりがあった。

 ほとんどの職業をマスターしたにも関わらず、FSで出てきた技の中で使えないものがあったからだ。


「リミットブレイク」


 セージがそれを唱えると、青いオーラがセージを纏う。

 そして、ステータスが限界突破した。


 HP 13561/13561

 MP 19477/20477

 STR 968

 DEX 1428

 VIT 936

 AGI 903

 INT 2561

 MND 2659


(やっぱりこれはヤバいよな。見たことの無い数値になってる)


 MP1000を消費して限界突破状態になり、それが100秒間続くという破格の特技だ。

 ただ、そもそもステータスがカンストしてなければ意味はない。

 それに時間制限があるため常に発動させておくと無駄が多く、呪文を先に唱えると『リミットブレイク』を発動することができないなど、不便な部分もある。

 しかし、セージのINTであれば、その不便さを補って余りある効果だろう。


(英雄でこれだから、賢者に転職すればINTが3000を超えるし、むしろそんな威力になっていいのか?)


 そして、呪文を唱えたセージは少し移動して魔物を探す。

 魔物は運良くすぐに現れた。


(ドラゴンモドキ三体か。まぁいいでしょ)


「メテオ」


 突如として現れる隕石。

 ドラゴンモドキへ突き刺さり、轟音と共に地面が削れ、暴風が巻き起こる。


(何か隕石の大きさが変わった? 速度は速すぎてわからないけど、やっぱりINTってエフェクトへの影響があるのかも。効果範囲は変わるのかな?)


 前日に『リミットブレイク』が使えることだけは確認していたが、急いでいたこともあり戦闘はしていなかった。

 そして、町についた頃には暗くなっており、宴の準備もある。

 騎士たちは食事の後に『リミットブレイク』を使って模擬戦などをしていたが、セージの場合、近接戦闘ではほとんど変わらない。


『ファイアボール』を放って少しは検証したが、町中で『メテオ』放つなどは危険である。

 何とか頑張って早く寝て、早朝に出てきたのは、早く検証がしたかったからだ。

 ドラゴンモドキ三体は一撃で逃げていき、新たな魔物は見えない。

 まだ少し薄暗い中、再び歩き始める。


(ドラゴンモドキはやっぱり一撃か。ちゃんとステータスが反映されてるなぁ。というかもっと魔物が出てきてほしい。ゆっくりしてたらリミットブレイクが切れるし。一人だけど魔寄せの香水を使おうかな)


 そんなことを考えていると「セージ!」と後ろから声がかかった。

 振り向くとそこにいたのはルシールだ。


「あれ? ルシィさん?」


「ここに来ていると思ったよ。魔法を試しているのか?」


「そうだけど、ルシィさんも?」


「いや、私は……」


 ルシールが言いよどんだ時、セージの『リミットブレイク』が切れ、青いオーラがフワリと消える。


(青いオーラがあるから切れたことが分かりやすくていいな)


 何やら満足そうに頷くセージに、ルシールは口を開く。


「私は、セージがいるだろうと思って来ただけだ。少し二人でリミットブレイクの検証でもしないか?」


 ルシールは前髪を整えつつ、目をわずかにそらす。

 こうやってルシールから誘いがあるのは珍しい。

 セージは一瞬きょとんとしたが「いいね!」と喜んだ。


「魔王城に行くときに魔物を倒したせいか、魔物が少ないんだよね。魔寄せの香水でも使おうかと思ってて、一人だと戦いにくいなと思ってたんだ」


 ルシールは「相変わらずだな」と苦笑して、魔寄せの香水を取り出す。

 セージが魔寄せの香水を使うだろうということは想像できていた。


「ルシィさんも戦う気だったの?」


「まぁそんなところだ」


 そうして、ルシールとセージは魔物との連戦を始める。

 ただ、連戦でもセージの融合魔法に耐えられる魔物はここには出現しない。

 ルシールの魔法は耐えるが、二発で仕留められる。

 魔王城への道の入口付近で融合魔法や特級魔法をメインに放ち続け、しばらくすると魔物はほとんど現れなくなった。

 そして、さらに少し進み、魔物を倒していく。


(こうして二人で戦うのも久しぶりだな。いや、久しぶりってほどでもないか?)


 ソンドン洞窟からしばらくは二人でラングドン領に向けて歩き、その後神霊亀と戦ったことを思い出す。

 その時もこうして二人で戦い続けることがあった。


(あの時よりかなり強くなったなぁ。あっ、今度は二方向から同時に来たか。こっちに魔法を放つから、ルシィさんはあっちで)


 魔法の呪文を常に唱えているため会話はない。

 しかし、簡単なコミュニケーションならハンドサインなどを使って問題なくできる。

 検証をしているだけだが、セージだけでなくルシールも楽しそうにしていた。


 二人で魔物を狩り続け、パタリと魔物の出現が止まる。


「もう終わりかな?」


「まだ先に行くか? まだ魔寄せの香水はあるぞ」


「うーん、そろそろ戻ろっか。帰る準備もあるし」


「そうだな。朝食の準備も必要だ」


「朝食用にちょっと狩っておけばよかったかな」


「二人だと運ぶのが大変だ。急いでいるわけでもない。必要ならまた後で狩りに来ればいいだろう」


 セージとルシールは来た道を戻り始める。

 すると、町が騒がしくなっていることに気づいた。


「どうしたのかな?」


「急ぐか」


「そうだね」


 セージとルシールは走り、すぐに町へと到着する。

 すると町の人が驚いていた。


「あんたたち大丈夫だったか!」


「さっきから森の方で天変地異が起こっとるんだ!」


「近づかん方がええ!」


 その言葉にセージたちはピンときた。

 というよりも、自分たちの魔法が原因だろうと確信する。


「すみません。それ、もしかしたら僕の――」


「ええから早くこっちへ逃げ!」


「船もまた飛んできよったで、何かあるぞ!」


(船? 飛行魔導船が?)


「セージさん!」


 セージが声の方を向くと、そこにはビリーがいた。


「えっ? ビリーさん? どうしてこんなところに?」


 困惑するセージにビリーが叫んだ。


「ローリーさんとティアナさんが、さらわれました!」

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