第231話 魔王戦6
(失敗したな。まさかそんなことができるなんて)
ラングドン流剣術『ムーンサルト投げ』によってヴィアヴォリアを追うルシールを見つつ、セージは反省する。
カーミラの存在や技、役割など何も知らなかったとはいえ、『アイスウォール』を使ってしまったのは事実だ。
セージの『アイスウォール』の耐久力は高い。
だからこそ魔王でもそう簡単に抜けられない壁となるのだが、すり抜けられると邪魔になる。
仲間はSTRカンスト勢なので、『アイスウォール』の耐久力を削り、ただの氷壁にすることは難しくない。
しかし、grandis級になると厚みが増すため、ただの氷壁になったあとも破壊は面倒である。
マルコムたちが『グランドスラッシュ』で『アイスウォール』の耐久力を削り『シールドバッシュ』で氷を砕いた。
その時にはルシールがヴィアヴォリアと戦闘を始めている。
ルシールが押している、というよりヴィアヴォリアはまだ逃げようとしているように見えた。
(逃げるというか、どこかに行こうとしてる? また邪神復活を
かつて中ボスとして現れたヴィアヴォリアは、その時の主人公に負けて逃げ、邪神バアルオルを復活させた。
その時の邪神はゲームバランス上、主人公パーティーで倒せる程度ではある。
ただ、その後のFSシリーズで、邪神バアルオル【完全体】というボスが登場。
それは凶悪なレイドボスであった。
(邪神が目的とは限らないけど、逃がすわけにはいかないな。もし邪神バアルオル完全体が出てきたら勝てな……くはないか。このメンバーなら何とかなる? でも、知らない邪神だったらヤバいし)
邪神は全部で七体いるという設定が公開されており、今までのFSで登場したのはバアルオル、ルシフォル、レヴィオル、マムオル、ベルゼヴォルの五体だけだ。
セージが見たこともない邪神が二体いる。
(でも逃がさないって言っても風魔法は耐性が高いからほとんど効かないし、ウォール系はワープがあるからダメ。氷魔法も水遁も効きにくいとなると、あとは金遁くらいだけど効く気がしないな)
セージはどう戦っていくかを考えながら、ヴィアヴォリアを追う。
ヴィアヴォリアは完全に逃げの体勢で、特技『仄暗い沼』や『暗黒濃霧』などを発動しつつルシールの猛攻を凌ぎながら城へと近づいていく。
そこへセージたちが追いつき、取り囲んだ。
「
忍者の特技『金遁』はメタリックな鈍色をした鼠が現れて敵に噛みつき、小さなダメージを与えつつ動きを阻害をする効果を持つ。
しかし、ヴィアヴォリアは再び『仄暗い沼』を発動し、鼠は沼に沈み込んだ。
(無駄か。あとは瞬光玉と音響玉だけど、今は使いにくいし)
敵が向かってきている時など一方向を向き続ける時はいいが、それ以外の時は瞬光玉の光を当てるのは困難だ。
それに、アイテムは味方にも効果が及ぶ。
取り囲んで攻撃する時には使いにくい。
(このまま逃げられないように全員でかかるしかないか。おっケルベロスが倒れ……アースドラゴンも倒れた! あとはヴィアヴォリアだけだな)
その時、ヴィアヴォリアが『暗黒領域』を発動する。
状態異常無効の腕輪があるので効果は何もないのだが、捕らえようとしている今の現状では最も厄介な技であるといえる。
(全員でルーメンを使ったら……あっそうだ)
ふと思い付いたセージは、瞬光玉を投げつけた。
光魔法『ルーメン』を唱える時間はないが、一瞬だとしても強力な光で、瞬時に使える瞬光玉なら見えるのではないかと思ったのだ。
カッと閃光が
(逃げられる!)
それを確認したセージたちは『暗黒領域』からすぐに出て辺りを確認する。
「城だ!」
ヴィアヴォリアが出現し始めたのは城の勝手口だ。
見えにくい所に配置されており、そこに隠れるようにして出現していた。
(こんなに必死に逃げる魔王とかありなの!?)
勝手口から入るヴィアヴォリアを追いかけるセージたち。
ルシールはギルに1パーティーを連れて回り込むように指示を出す。
室内を大勢で走っても邪魔になるだけだ。
勝手口から入るとヴィアヴォリアは『ウィンドブラスト』を放った。
キッチンのような場所で散乱した調理器具などが魔法で吹き飛んでくる。
(嫌がらせが酷いな!)
室内でテンペストを放ち、通路を滅茶苦茶にするなど、魔王とは思えないようなやり方に辟易しつつも追いかけるしかない。
セージはたまに音響玉を投げて居場所を知らせながら走る。
(この先は、中庭?)
魔王がどこに向かうのかはわからなかったが、だいたいの城の地図は事前に覚えている。
中庭の方向へと向かっている様子だった。
(中庭ならベンたちがいるはず。戦いが終わっていればいいんだけど)
ヴィアヴォリアがバンッと扉を蹴破った先は案の定中庭。
ちょうどベンたちがボスを倒して移動しようとし、ギルたちが回り込んできた時だった。
(よし! 良いタイミング!)
三方向から囲まれる形となったヴィアヴォリアに逃げ場はない。
それでもヴィアヴォリアは中庭の中央、聖域の祠に向かって走った。
(聖域の祠に何か仕掛けが?)
セージと目があったベンは頷いて聖域の祠の入り口に向かい、ギルたちは包囲するように広がって走る。
聖域の祠の入り口の向きはベンがいる方向。
ヴィアヴォリアとは逆だ。
確実にベンたちの方が速い。
しかし、ヴィアヴォリアは聖域の祠の裏側で『暗黒領域』を発動した。
セージはそのモーションを見た時点で、手に持っていた瞬光玉を投げている。
暗闇の中でカッと光り、地面に隠されていた通路の入り口を開けているヴィアヴォリアが見えた。
(隠し通路か!)
そこへジェイクの弓矢が刺さり『ハウリング』を使ったマルコムが「行かせないよ!」と滑り込むよう攻撃しながら邪魔をする。
そこにヤナの『フロスト』、さらにルシールの『グランドスラッシュ』が襲いかかった。
ヴィアヴォリアは一歩下がってマントで防御。
そのまま『ワープリング』を発動する。
(まずい! って、えっ!?)
その瞬間にミュリエルが武闘士の特技『巴投げ』を発動していた。
両手で相手を掴み、後ろに倒れ込みながら相手を蹴り上げるという技。
発動後は武器も持たずに地面に倒れた姿勢になり、隙だらけのためそうそう使われない。
しかし、『巴投げ』は発動が早く、相手を掴む唯一の特技だ。
影に沈み込もうとするヴィアヴォリアを掴んで引っこ抜き、蹴り上げるミュリエル。
(そんなのありなんだ!)
宙を舞うヴィアヴォリアはひらりと体勢を整える。
そこに飛びかかっていたカイル。
「グランドスラッシュ!」
遠心力を利用した渾身の一撃を叩き込んだ。
まるでそこにくることがわかっていたかのような動き。
一級冒険者パーティーだからこその連携である。
(なにこのコンボ、ってそれより!)
セージは地下への入り口のフタを閉じた。
地下は暗く、中がどうなっているのかはわからなかったが、ワープによって地下の内部に飛ばれると捕まえるのが困難になる。
(これでワープは使えないはず)
セージは新たなヴィアヴォリアの技のことを知らない。
しかし、ここまでの対応である程度想像はついている。
特技を使うとき『暗黒領域』を発動していたり、塔の影の先端部分に出現したり、奥まった勝手口の前に転移したりしていた。
つまり、影がある場所でしか使えない、転移距離が短い、建物の中など見えない場所には転移できないなどの制約があると考えられる。
フタを閉めれば内部に転移できないと想像していた。
(あとは、もう大丈夫か)
ヴィアヴォリアはカーミラの技を使えるようになっていたが、それほど強い技はない。
さらにヘルハウンドと戦っていたダンカンたち、アースドラゴンと戦っていたクリフたちも合流する。
これだけの人数になると絶え間なく魔法が放たれ、どこに行こうとも攻撃の手が緩むことはない。
(容赦ないな。魔王なのにズタボロにされてる)
いくら魔王といえども、どうすることもできないだろう。
セージは今までざっくりとダメージを計算していたのだが、攻撃が激しすぎてもう大まかなダメージすらわからなくなっていた。
魔王のHPはわかっていないが、少なくともセージの中での想定HPは過ぎている。
(んっ? 原赤解放を使った? そんなモーションはなかったけど)
ヴィアヴォリアから赤いオーラのようなものが立ち上ぼり、動きが変わった。
ルシールの攻撃に対抗できる能力に強化されている。
(ルシィさんに対抗できる魔王がすごいのか、強化された魔王に対抗できるルシィさんがすごいのか。どちらにせよ問題はないんだけど)
多少能力が上がろうと、レベル90でステータスがカンストしているような者たちに囲まれて耐えられるわけがない。
激しい攻撃が途切れることはなかった。
赤いオーラを出して数分後、ヴィアヴォリアの体に変化が起こる。
日の光を遮るようにかざした手がサラサラと灰に変わり始めた。
それでもヴィアヴォリアは邪悪な笑みを浮かべて、地面に右手をつく。
そして、その自分の影から大量の蝙蝠を発生させた。
(えっ!?)
「アクアマインスフィア!」
セージは普段とは異なるモーションとヴィアヴォリアが見えなくなるほど出現する
他の者は慌てずに蝙蝠を剣で次々に打ち消していった。
その時間は数十秒。
その全てがいなくなった時、ヴィアヴォリアは完全に灰に変わっていた。
(勝ったのか?)
セージも他の仲間も警戒を緩めない。
通常のボスなら領域が消えているかを確認すればいいが、魔王だと範囲が広すぎる。
ピリッとした空気が立ち込める中で、ルシールが言った。
「ランクが上がっている。終わったようだな」
ルシールは英雄のランクがまだ上がりきっていないため、魔王を倒すことで上がったのだ。
ルシールの言葉を聞いてセージは声を上げる。
「魔王討伐完――」
「セージ! こっちに来て!」
終戦の合図を遮ってマルコムが叫んだ。
突然呼ばれたセージは「どうしたんですか?」とマルコムの方に走る。
そこはヴィアヴォリアが入ろうとした地下への入り口だった。
(あれっ? まさか?)
セージは近づいて気づいた。
マルコムが険しい表情で口を開く。
「ここ、ちゃんと閉めてたよね?」
ぴったりと閉じたはずの地下への入り口がズレて少し空いていた。
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