第229話 魔王戦4

 ヴィアヴォリアとの戦いは順調だった。

 ルシール、セージ、ジェイク、エヴァンジェリンの四人パーティーで戦っているが、十分と言える戦力である。

 

 そもそも一人で攻め続けているルシールだけでも優位に戦えるだろう。

 魔王の動きを学習し、圧倒的な戦闘力によって攻撃はより激しくなる。

 その上、他の三人がしっかりサポートしているので万全の体制と言えた。


 ジェイクはバフと回復と弓矢の担当。

 ヴィアヴォリアの『深紅波動』により、バフが解除される度に楽器を鳴らしてかけ直している。

 それをしながら回復呪文を唱え、隙があれば弓矢を放ち、さらに『黒狼召喚』によって現れた狼相手に近接戦闘をすることもある。

 それを器用にこなしていた。


 エヴァンジェリンは最初は『アンチスリープ』係だったが、しばらくすると攻撃魔法を使うようになった。

 ルシールが『睡眠魔眼』を使ってくるヴィアヴォリアの動きに対応して受けないようになったからだ。

 使う攻撃魔法は風魔法『ウィンドブラスト』。

 それは、ヴィアヴォリアの『暗黒濃霧』に対抗するためである。


 『暗黒濃霧』が発動されると、暗闇から出なければ戦えない。

 いくらルシールと言えども、ボスの攻撃を視界0の中で対応するのは無理である。

 しかし『暗黒濃霧』は『ウィンドブラスト』で吹き飛ばせることがわかり、ルシールが一旦引いて魔法を使うという対応に変わっていた。


 そして、セージの役割はルシールのフォローと攻撃魔法、そして『吸血蝙蝠』による攻撃対策に『アクアマインスフィア』を発動することである。

 ヴィアヴォリアの特技『吸血蝙蝠』はダメージを与えるだけの技ではない。

 与えたダメージの総量が一定以上になると、別の特技『能力解放』を発動でき、一定時間ステータスが向上する。

 セージが常に精霊ウンディーネを召喚しているのは、それを防ぐことが目的だった。


(もうヴィアヴォリアの技には対応できてるし、負けることはなさそうだな。残りHPは自動回復の設定によるけど、ダメージ量の方がかなり多い気がする)


 相手の技は『能力解放』以外確認できており、さらに慣れてくると最適な動きがわかる。

 ヴィアヴォリアは元々は魔法使いタイプだ。

 魔王になって新たな技、近距離特技やバフ解除技が増えたのだが、相手はルシールである。

 何をしても瞬時に復帰して圧倒的な接近戦を繰り広げるルシールに押されていた。


(この調子なら、この闇の領域を解除しなくてもヴィアヴォリアを倒せる可能性が高いな)


 セージはヴィアヴォリアのHPを考えつつ、安定して攻め続けるルシールを見て、そんなことを思う。

 その時、城の奥から虹色の光が吹き出した。


(おっ! もう設置できた? なかなか早い!)


 闇の領域が虹色に描き消されていく。

 これによって魔王やその手下との戦いが終わるわけではないが、強化が解けて弱体化するため、さらに戦いが優位になるだろう。

 ヴィアヴォリアの攻撃を受け流すルシールのHPを確認しつつ、周りの様子も確認する。


(間違いない。弱体化してるし、闇の領域はなくなったな。自動回復もなくなってるだろうし、もう倒しきるのも時間の問題だ)


 もともとセージたちが優勢であり、その戦いに大きな変化があるわけではない。

 しかし、確実に魔王軍団を追い詰めていく速度は上がっている様子だった。

 ナイジェール騎士団も闇の領域がなくなり、戦いやすくなったようだ。

 士気も上がっているように見える。


 そうしているうちに、まずはターミガンが討伐され、羽が力なく地面に落ちた。

 そして、それからそれほど間が空かずにロードコープスが土に変わって崩れ落ちる。

 魔物に対応していたメンバーは他の援軍に走った。


(次に倒すのはキングワイバーンかアークヘルデーモンか)


 そんなことを考えていた時、ヴィアヴォリアが『暗黒濃霧』を発動。

 エヴァンジェリンが少し前に出て、魔法発動の態勢をとる。

 ルシールが暗闇から一時待避し、エヴァンジェリンが『ウィンドブラスト』によって『暗黒濃霧』を吹き飛ばそうとした。

 その時、逆にセージたちに濃霧が叩きつけられる。


(うおっ! やり返されるとかあるんだ!)


 エヴァンジェリンが発動する前に、ヴィアヴォリアが『ウィンドブラスト』を使ったのである。

 予想外の攻撃に防御しつつ、視界が悪い中、ヴィアヴォリアが何をしようとしているのかを注意深く観察する。

 霧が晴れた時、そこにいたのはヴィアヴォリアではない。

 白髪の長い髪、赤い瞳、黒のドレス、魔王の眷属カーミラであった。


(えっ? 誰?)


 突然現れたボス、カーミラのことをセージは知らなかった。

 今までのFSに登場していなかったからだ。

 セージは驚きつつも不意打ちを警戒して周囲を確認する。


 霧が晴れる前に動き出して攻撃しようとしていたルシールも驚いていた。

 それでもルシールは攻撃を止めない。

 カーミラに対して一閃。

 それをカーミラは手で防御すると同時に『仄暗ほのぐらい沼』を発動。

 地面が黒く変化し、足がとられる。


(泥化の上位特技か! というかヴィアヴォリアは!?)


 セージはヴィアヴォリアを探し、魔王城に向かって走っている姿に気づく。


(逃げた!? この状況で!?)


 セージはヴィアヴォリアが逃げる可能性を考えていた。

 しかし、それはもっと追い詰めてからの話だ。

 魔王の手下はまだ五体残っており、ヴィアヴォリアのHPはわからないが、少なく見積もってもまだ半分ほど残っているはずだった。

 予想外に早い展開に驚く。


(というか、魔王城で何かする気? それともただ逃げてるだけ?)


 そして、ルシールとセージはとりあえずカーミラを無視して魔王を追いかけようとしたが、カーミラが『小青鬼しょうせいき』を発動する。

 沼から膝丈程度の小さな青鬼が五体現れて、ルシールに攻撃を仕掛けた。

 ルシールはそれを振り払って魔王を追いかけようとするが、沼に足がとられる中では難しい。

 カーミラから少し離れていたセージは『テイルウィンド』を使い沼から脱出する。


(いや、これ追いつけないのでは? というか追いついたところで一人で止められる? 無理じゃない?)


 セージは走り出しながら、すでに遠く離れたヴィアヴォリアを見てそんなことを思った。

 逃げる相手を止めるのはかなり難しい。

 しかもセージ一人。

 少し遅れてジェイクとエヴァンジェリンはいるが、ヴィアヴォリアが城に逃げ込む前に追い付けないだろう。


(ルシィさんが足止めされなければ――)


 その時、セージを追い越す者がいた。

 一級冒険者パーティー『悠久の軌跡』のマルコムだ。


(えっ! マルコムさんっ!?)


 セージはその姿に驚く。

 マルコムを先頭に、ミュリエル、カイルが続く。


「セージ! あれ――」


「あれを止めてください!」


 マルコムの言葉に被せるようにセージが叫んだ。

 それはとっさの言葉で、何か計画があったわけではない。

 何の説明もなく、魔王を止めろと言われたマルコム。

 それでも、マルコムは仕方ないなという表情をして片手を上げて返事し、そのままカイルに合図を出す。


(えっ、マジで止められるの?)


 マルコムは急加速して跳躍。

 そして、カイルの方向を振り向いた。


「ウィンドバースト!」


 カイルが風魔法を発動し、空中で盾を構えたマルコムに直撃する。

 吹き飛ばされながら一直線にヴィアヴォリアへ近づいていくマルコム。


(マジで!? 力業っ!)


「カイル! アンチスリープを準備して!」


 セージが指示を出した時、さらにマルコムは空中で体勢を整えて『テイルウィンド』を発動。

 発生した突風がマルコムを押し進める。


「水遁」


 ぐんぐんとヴィアヴォリアに近づき、忍者の特技を発動してから着地。

 そのスピードのまま疾駆する。

 まさに疾風のごとき高速移動をみせたマルコムは剣に手をかけた。


「神速」


 横に並んだマルコムはヴィアヴォリアに対して高速の斬撃を放つ。

 ヴィアヴォリアはマントで防御し『黒狼召喚』を発動した。

 それに対して、追い抜いたマルコムは『土遁』を発動。

 落ちはしなかったが、ヴィアヴォリアの足は止まる。


(本当に止めた! さすがマルコムさん!)


 セージはマルコムの能力に笑みを浮かべながら、追いかけるのであった。

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