第228話 魔王戦3・ルシール
ルシールの相手はアースドラゴン。
魔王の手下の中で最も強力なボスだ。
これは魔王討伐作戦の計画で決まったことである。
ルシールはセージからこの役を任されたとき冷静に返事をしたが、嬉しい気持ちがあったことは否めない。
そこには、ルシールであれば一人でもアースドラゴンを相手に戦うことができるというセージからの信頼があるからだ。
もしそうでなければ、セージは絶対に選ばない。
そう確信しているからこそ、ルシールはその信頼に応えようと燃えていた。
戦闘開始の魔法戦の後、ルシールはアースドラゴンに正面から接近する。
アースドラゴンの巨体と比べるとルシールはひ弱に見えるだろう。
しかし、内に秘める力は絶大だ。
(役目は果たしてみせる!)
アースドラゴンが前足を地面に叩きつけて特技『岩石爆散』を発動。
弾け飛ぶ大小無数の岩石をルシールは盾で受け流し、反撃の融合魔法『メイルシュトローム』を放つ。
その魔法の直撃を受けたアースドラゴンは口に炎を溜める。
そして、特技『灼熱の息吹』が襲いかかった。
しかし、ルシールは炎無効となるサラマンダーの腕輪を装備している。
状態異常無効の腕輪もつけてはいるが、状態異常攻撃はしてこないので、炎無効を選んでいた。
そして、神命鳥の神炎と比べてはるかに劣る『灼熱の息吹』程度に、わずかにでも怯むはずがない。
(三、二、一!)
炎によって視界が遮られる中を駆け抜け、タイミングよく剣を振るう。
狙うは首もと。ダメージが通りやすい部分だ。
「デマイズスラッシュ!」
その強烈な一撃は狙い通りの位置に当たる。
大きなダメージよる衝撃にアースドラゴンは炎を止め、右前足を使ってルシールのいる場所をなぎ払った。
ルシールはそのわずかな間に三連撃を加えており、さらに前足を飛び越えつつ腕を切りつける。
そして、一歩踏み出して剣撃を加えた。
(やはり首へのダメージが大きいな)
アースドラゴンが再度振り払うよう攻撃したが、それも飛び越える。
続く叩きつけも、特技『旋回刃』も避け、その間にアースドラゴンを斬り続けるルシール。
そうして、ルシールはその手応えから、最適な攻撃場所を見つけ出し、さらにダメージは増えていった。
岩を飛ばす攻撃など完全には避けられない技はあっても、大きなダメージを受けることはない。
歴然とした格の違い。
それを見せつけるような戦いだった。
斬られ続けるアースドラゴンは『豪炎球』を発動。
至近距離で大きな火球を吐き出し、その反動で後ろに跳ぶ。
しかし、火球は盾で受け流されて、返事にとばかりに『メイルシュトローム』が放たれた。
アースドラゴンはその魔法に怯み、わずかに動きが止まる。
(これで怯むのか。想定内ではあるが、少し弱いな)
セージから聞いていた情報を元に計算しつつ、アースドラゴンへ接近するルシール。
魔法の大渦が消えたと同時にアースドラゴンの目の前にあったのはルシールの剣。
「デマイズスラッシュ!」
その時、アースドラゴンが選んだのは突進だった。
(そうくるか!)
ルシールの攻撃に激突し、そのまま押しきろうとするアースドラゴン。
空中にいるルシールは避けることができない。
さらに、地面に降りるとそのまま轢かれるだろう。
「テイルウィンド!」
ルシールは特技を発動し、剣先に力を込めた。
剣を支点にして回転しながらアースドラゴンの上に飛び、その背中に乗る。
そのまま背を跳躍するようにしてアースドラゴンの背を走り抜けた。
しかし、ルシールが着地する前に尻尾による攻撃が襲いかかる。
(なかなかやるな!)
「シールドバッシュ!」
尻尾と盾がぶつかり合い、重く激しい音を響かせ、ルシールは反動で飛ばされた。
ルシールは体勢を整えて着地。
ガリガリと地面を削りながら衝撃を逃がしたところに、アースドラゴンは再び地面を叩きつけて岩石飛ばす。
ルシールは岩石を弾きながらその中を走った。
急速に近づくルシールにアースドラゴンの長い尻尾が叩き付けるようにして襲いかかる。
それがくるのがわかっていたかのようにスルリと避け、その尻尾を斬りつけるルシール。
すると、アースドラゴンは尻尾を振り払い、両前足を上げて地面を叩き付けた。
特技『大地の槍獄』。
ルシールはあらゆる方向の地面から次々と襲いくる槍を避け、いなし、防御していく。
(これは対応が難しい技だな。しかし、一撃の威力は大きくないか。ダメージを受けにくい避け方は聞いたが、これなら強引に突っ切っても問題ないかもしれん)
実は、ルシールはセージから事前に攻撃の避け方を聞いていた。
だからこそ、ここまでの攻撃に初見で対応できていたのである。
実際に見てみないとわからない部分があるとはいえ、事前の情報があるのと無いのとでは対応の難易度が大きく異なるのだ。
突進という技を聞いていなかったり、意外な動きはあったが、もう受けることはないだろう。
(これでもう技は全て出しきったか? それなら戦いやすいんだが)
この一連の攻防の中でルシールはアースドラゴンが大きな脅威にはならないことを悟る。
アースドラゴンは『灼熱の息吹』を発動し、ルシールはそれを駆け抜けた。
そして、炎から飛び出した瞬間、魔法を発動する。
「フルヒール」
回復のエフェクトにより煌めくルシール。
アースドラゴンからすれば絶望的な光景だろう。
HPが全回復したルシールは徹底的に首を攻撃しながら、アースドラゴンの反撃を避ける。
(この位置が安定するな。もう問題なさそうだ。あとはMP消費量を抑えるべきか。いや、一気にダメージを与えていく方がいいな)
魔王の手下であるアースドラゴンを前にして余裕ができてきたルシール。
王国騎士団が行った魔王戦の話では、魔王が現れるまでまだ時間がある。
(セージから聞いた想定HPから考えると、さすがに削りきれないだろうからな。あとは……なにっ!?)
突如として音響玉が鳴り、ルシールは驚いた。
それは魔王が出現した時の合図。
しかし、予定では魔王が出てくるのはもっと後のはずだ。
(ヴィアヴォリア、もう出てきたのか!)
アースドラゴンから少し離れると、こちらへ駆けてくる魔王が見えた。
ナイジェール騎士団は合図となる狼煙を上げ、アースドラゴンに向かってクリフとマイルズが走ってくる。
魔王が出てきたらアースドラゴンとの相手をルシールと交代する計画になっていた。
そして、ルシールは魔王との戦いに向かう。
魔王は体が小さいので、複数人で取り囲んでも攻撃しにくい。
パーティーで戦いにくい相手だ。
そこでルシールが一人メインで戦い、セージ、ジェイク、エヴァンジェリンが支援することになっていた。
ルシールは小さく息をついて切り替える。
(やるか)
そして、魔王に向けて手をかざす。
「メテオ」
隕石が突き刺さり、衝撃波が広がる。
そのなかを走り抜けたヴィアヴォリアは特級風魔法『テンペスト』を発動。
それと同時にジェイクの弓が突き刺さり、セージの『メテオ』が発動する。
「ルサルカ、サモン」
ルシールは精霊を召喚しつつ疾駆する。
巻き起こる強大な竜巻。通常なら大きなダメージになるところだろう。
風魔法無効の腕輪を装備したルシールには全く効かない。
ジッロが試作として作っていた風魔法無効の腕輪が一つだけあったため、それを買い取っていたのである。
ヴィアヴォリアの固有技は中距離タイプが多いので、遠距離では風魔法しかない。
ルシールは三つの腕輪をつけ外しすることで攻撃に対応していた。
「テイルウィンド」
さらに発動された『ウィンドブラスト』も無効化し、特技を使ってヴィアヴォリアへ急速接近する。
状態異常無効の腕輪をつけ直し、剣を振るった。
ヴィアヴォリアはそれをマントで防ぎ、特技『緋色ノ拳』を発動。
突如として現れた巨大な赤い拳がヴィアヴォリアの動きに合わせて振り下ろされる。
(いきなりこれか!)
この一撃はセージが知らない技であり、アルヴィンから聞いただけだ。
最適な対応はわからないが、ルシールは発動を見た瞬間、横に飛んでいた。
勘に近い動きではあったが、何とか寸でのところで回避する。
(この反応でギリギリとは厳しいな)
「フリージングゾーン」
ルシールはルサルカの特技を発動し、すぐに斬りかかった。その間にもジェイクからの弓矢が飛んでいる。
ヴィアヴォリアはマントで体を覆い、ルシールたちの猛攻から防御の姿勢を取る。
そして『吸血蝙蝠』により影から数十もの蝙蝠を出現させた。
それと同時にセージの召喚したウンディーネが『アクアマインスフィア』を発動。
無数の球体が浮かび上がる。
現れた蝙蝠の群れはそれに当たり、次々と消えていった。
さらにヴィアヴォリアは『暗黒濃霧』を発動。周囲が黒い霧に覆われる。
「ルーメン」
光魔法を使って剣を光らせるが、それでも視界は悪かった。
攻撃を仕掛けるが、相手の動きが読めない。
(これは想像以上に見えない。まずいな)
ヴィアヴォリアは暗闇の中で攻撃を仕掛け、さらに『緋色ノ拳』で攻撃してくる。
さすがに相手のモーションも見えないような状態で避けることはできず、盾で受け流すようにして防ぐ。
そのまま一旦離れるルシールにヴィアヴォリアは『黒狼召喚』を使い、影から五体の狼を出現させた。
暗闇から出たルシールは襲いくる狼を次々と斬っていく。
(狼は一撃で倒せないか)
蝙蝠は一撃で消えたが、狼は少しの耐久力がある様子だった。
ルシールのところにセージが駆けつけて、狼の相手の援護をする。
ヴィアヴォリアはその間に『深紅波動』を発動し、セージたちのバフを消し去った。
しかし、すぐにジェイクが木魚や鈴を器用に操り、バフをかけ直している。
続いてヴィアヴォリアは接近してくるルシールから距離をとりながら『暗赤魔弾』を発動。
虚空に円を描くように赤い球体が並び、次々に打ち出される。
これはまっすぐにしか飛ばないため回避は容易だ。
ルシールは避けきったところで『メテオ』を発動する。それに会わせてセージも『メテオ』を発動した。
ヴィアヴォリアは防御の態勢をとりながら、接近してくるルシールに『吸血蝙蝠』を使う。
セージは再び『アクアマインスフィア』を使って蝙蝠を排除し、ルシールも周囲にいる蝙蝠を倒した。
その返す剣でルシールはヴィアヴォリアを攻撃する。
すると、マントで防御したヴィアヴォリアが急にしゃがんで『睡眠魔眼』を発動した。
ここまで目を見ずに体の動きだけを見て戦っていたが、突如として視界に入ってきたヴィアヴォリアと目が合ってしまう。
(っ! これは……!)
急速に意識が遠のくのを自覚し、一旦離れようと足に力を込めようとする。
しかし、力は抜けるばかりで、意思の力ではどうしようもなかった。
「アンチスリープ!」
そこでエヴァンジェリンの声が響く。
ルシールは倒れ込もうとしていた体をドシンッと足で支えた。
エヴァンジェリンは目を覚まさせる役だ。
特に最初は特技を受けてしまう可能性が高く、ずっと魔法を待機させていたのである。
ルシールは厄介な特技に眉根を寄せた。
(こんなこともしてくるのか。本当に厄介だ)
前を見ると、バランスを崩したルシールのフォローに入ったセージがヴィアヴォリアからの攻撃を防御して、反撃している。
そのセージの姿にルシールは頼もしさを感じた。
(この程度の技、対応してみせる!)
復帰したルシールはわずかに笑みを浮かべ、セージの前に出るのであった。
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