第226話 魔王戦1
「作戦開始!!」
ルシールの号令によって動き出したセージたちは黒い靄『闇の領域』へと足を踏み入れる。
(ここは想定通りかな)
サボランナーやデスイーグルなどの雑魚敵が現れ、魔王城からボスが出てくる。
サイクロプスやケルベロスなど、アルヴィンから聞いていた通りの布陣で、特に思うことはない。
(さて、そろそろ効果範囲か。これだけまとまってると当たりやすくてお得感があるなぁ)
セージは慌てることなく一旦止まって魔物の群れに手をかざす。
「メテオ」
すでに見慣れてきた燃え盛る隕石が激突し、魔物を吹き飛ばして地面をえぐる。
「メイルシュトローム」
続いてルシールの魔法が発動。
これは神命鳥戦で見飽きたと言える魔法だ。
巨大な渦潮に巻き込まれて翻弄される魔物。
そして、少し遅れてパーティーメンバーが放つ特級魔法『ヘイルブリザード』『インフェルノ』『テンペスト』『タイダルウェーブ』。
魔物の中には接近する前、なにもしない内に散り散りに逃げていた。
運良く魔法を抜けてきた魔物もいるが、だいたいが一撃で倒されていく。
ただ、さすがにボス級の魔物は魔法を受けても多少怯んだ程度であり、魔法や特技で反撃してくる。
ターミガンは雷撃、ロードコープスは闇魔法、アークヘルデーモンは氷魔法、アースドラゴンは火炎など、攻撃は多種多様。
サイクロプスとケルベロスのみ遠距離攻撃を持っていないため、高速で接近してきた。
(被ダメージ量も行動も想定通り。知らないボスはデーモン系とハウンド系のやつだけだけど、たぶんヘルデーモンとヘルハウンドのボス版だし。というかハウンド系は三つ首だしケルベロスみたい。まぁ、何にせよ今のところ問題ないな)
そんなことを考えながら呪文を唱える。
王国騎士団の魔王討伐作戦によって事前情報があり、今回も同じような魔物の動きであった。
セージが二発目に『メイルシュトローム』を放つ。
この時には、サイクロプスとケルベロスは近接戦闘が始まり、他のボスたちも近づいていた。
こうなるとセージたちはボスに集中することになり、後方へ向かう魔物も増えてしまう。
それを止めるのがナイジェール騎士団の務めだ。
セージがナイジェール騎士団を見てみると、ガチガチに固まっており心配になって叫ぶ。
「キツかったら言ってくださいねー!」
声をかけると気合いを入れる声が響いたが、足が動いていない。
(ボス以外なら普通に戦えるはずなんだけど、大丈夫かな? あっそうだ)
「命を大事に! 無事帰ったら勇者になれまーす!」
この一言でセージが驚くほど士気が上がる。
セージは気合いを入れるようなかけ声は苦手としていた。
だからこそ
(気合いは入ったみたいだけど、入りすぎ?)
これはセージの独断ではなくナイジェール騎士団の方針だった。
実は部隊によって訓練が異なるのだが、ナイジェール騎士団冒険部隊にのみ、すでに農業師や商人のランク上げが始まっている。
これはナイジェール領の戦力増強のためであり、本人たちにも秘密にしていることだ。
ただ、セージは許可を出しているので当然のことながら知っている。
(とりあえず今のところは何とかなるかな。学園の教官たちも混ざってるし)
冒険部隊は若手が多いので、サポートできるよう教官などが一つのパーティーに一人か二人混ざっている。
闇の領域の外であれば魔物の強さも全く問題がない程度だ。
そして、すでにボス戦が始まっているので、後ろばかりを気にしてはいられない。
サイクロプスとケルベロスはギルとダンカンが抑え、激しい戦いを繰り広げている。
(さすが、ギルとダンカン。強いな)
サイクロプスは五メートルはありそうな巨体で、ケルベロスも象と言えるほど大きい。
しかし、ギルたちがそれに怯むことはなかった。
強大なボスの攻撃を受け流して反撃する姿は勇者の戦いのワンシーンのようだ。
ボスは七体、仲間は十八人。
近接戦闘はボス一体に対して二、三人が基本となる。
ただ、ギルとダンカンが一人で対応しているように偏りを作っていた。
キングワイバーンとターミガンは空を飛んでいるため、魔法が堪能なセージとヤナが担当しており、アースドラゴンはルシールが相手となる。
この五人を支援しているのがアルヴィン、エヴァンジェリン、ジェイクである。
特に防御力が低いヤナはアルヴィンがついており、二人体制といってもいい。
キングワイバーンは物理攻撃もしてくる魔物だ。
ヤナがINTカンストの特級風魔法『テンペスト』を放ち、アルヴィンがキングワイバーンからの物理攻撃を防ぐ。
その連携は意外とハマっている。
そして他の十人でアークヘルデーモンとロードコープスを討伐しようとしていた。
(まずはロードコープスを倒す。魔王が出てくる前に討伐できれば良いけど)
この中で最も物理耐久性が低いのはターミガン、次点でロードコープスということはわかっていた。
しかし、ターミガンは飛んでいるので、物理で戦うには落とす必要がある。
混戦の中でムーンサルト投げを使うわけにもいかず、落ちるまでは魔法で対応するしかない。
そのため、ロードコープスから討伐し、順次倒していくつもりだった。
(与えるダメージ量が思ったより大きいな。これで怯みが出るなら、ダメージ20パーセント減くらい? ロードコープスとか十分程度で終わるぞ。自動回復の量にもよるけど、このダメージを何とかできるほど多くはないだろうし)
クリス、キース、アンナ、メリッサ、マイルズがロードコープスを取り囲み、滅多打ちにしている。
ロードコープスはゾンビ系の魔物だ。
その宿命として動きが遅かった。
氷魔法と闇魔法を使ってはくるが、絶え間なく発動できるわけではない。
AGIがカンストしているパーティーでロードコープスの杖による攻撃が当たるはずもなく、猛烈な勢いでHPを削っていく。
(でもターミガンが落ちないな。自分の電気で覚醒してるとか?)
FSでターミガンが登場したときはまだ敵を落とすという概念が存在しないシステムだった。
セージは『メイルシュトローム』を放つことで落とそうとしたが、ターミガンはふらつきながらも滑空し、紫電をバチバチと纏わせて復帰する。
結局、剣が届くところまでは落ちなかった。
(アレ、使ってみるか)
そこで、再度『メイルシュトローム』を放ち、さらに『瞬光玉』を投げる。
うまくターミガンの視界に入るかわからないので、適当に三個投げていた。
また『瞬光玉』の発動には衝撃が加わる必要がある。意外と使い所が難しいのだ。
激流の渦に光の奔流が合わさり、光輝く大渦の中で翻弄されるターミガン。
光と渦が消えると墜落してくる。
(よし! 効いてる!)
それに気づいたキム、ジミー、アンガス、ロブ、フィルのパーティー。
相手をしているのはアークヘルデーモン。
強力な魔法を使う上に耐久力がある魔物だ。
アークヘルデーモンよりターミガンの方が楽に倒せる。
アンガスとロブを残して、キム、ジミー、フィルはターミガン討伐に動いた。
集中攻撃を受けるターミガンは特技『超放電』を発動。
紫電を撒き散らしながら翼を回転させて飛び立とうとする。
「デマイズスラッシュ!」
電撃を受けながら飛びかかるキムとジミー。
インベット山脈の神鳴鳥戦など、今までにこれの比ではない雷撃を受けていた。
今さら普通のボスの電撃に怯むようなことはない。
ターミガンに向けて渾身の力で剣を振り下ろす。
わずかに浮いた瞬間に強烈な衝撃を受けて落とされたターミガンは、すぐに走って逃げようとした。
しかし、それを阻止するのはフィルだ。
盾で正面から受け止めて反撃する。
(これなら倒しきれるか? かなり順調だな。ルシィさんの援護は……大丈夫そう)
ルシールは一人でアースドラゴンに立ち向かっていた。
アースドラゴンは体高でもルシールの倍はあり、体長は十メートルを超える。
ゴツゴツとした岩のような肌に発達した鋭い爪。
明確な弱点がなく、手下の中で一段上の存在だ。
しかし、ルシールは飛来する岩石を受け流し、吐き出される業火をものともせず駆け抜け、会心の一撃を放つ。
その姿はまさに英雄。
目が奪われてしまうような光景だった。
(やっぱり強すぎ。チートだ)
洗練された動きに強力な魔法。
オールカンストのステータス。
世界最高峰の装備。
魔王の手下程度が相手をするような者ではなかった。
セージは用意した『メイルシュトローム』をキングワイバーンに向けて発動する。
安定感のある戦いの中で、次に早く倒せそうなのがキングワイバーンだからだ。
危なげなく進行する魔王戦。
ルシール自由騎士団の攻勢は衰えることなく、むしろ増していく。
(王国騎士団の戦いで魔王が出てきたのはしばらく戦った後だって話だけど、この調子だと出てくる前に手下がいなくなるんじゃないか? 全部倒して魔王城に攻め込むとか)
そんな時、小さな人影が魔王城から出てきた。
そして猛烈な勢いで駆けてくる。
「ホークアイ」
(ヴィアヴォリアだ! 予定よりかなり早いな!)
それが魔王であることを確認し、合図のために音響玉を投げるのであった。
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