第223話 魔王城へ

 セージたちは旧王都に近いオールディス領の北端の都市に飛行魔導船を置き、そこから徒歩で旧王都に進んだ。

 本当は魔王城、元ハイデンバーグ城まで飛行魔導船で行きたかったのだが、旧王都周辺は強力な魔物が多い。

 セージたちなら余裕を持って倒せるが、飛行魔導船が降りる時に攻撃されたり、飛行するタイプの魔物に襲われたりする可能性がある。


 実際に勇者部隊が進軍した時に、偵察で先行していた飛行魔導船が襲われたようだ。

 飛行魔導船の耐久力はそれほど高くないので攻撃されると壊れてしまう。

 その時は、下からの強襲で気付かず被害を受けたが、幸か不幸か、被害は船部分だけで重要なバルーン部分には被害がなかった。


 下部への監視を強めれば、強力な魔法が使えるセージたちなら、強引に進むこともできるだろう。

 そうはいっても、さすがに魔王城まで乗り付けるわけにはいかなかった。

 結局、魔王城まで徒歩二日で着く都市に置き、徒歩で向かうことになったのである。


「次はハイウルフの群れだ! ギルパーティー、対応しろ!」


「行くぜ! お前ら!」


「クリスパーティー! 交代だ!」


 タイガーベアとの戦闘を終了したクリス班はすぐに下がってギル班が前に出る。

 交代して戦うのは、魔王戦に向けて戦闘訓練をしているからだ。

 相手は格下の魔物なので、魔除けの香水を使えば問題ないのだが、急だと新しいパーティーでの連携がとれない。

 魔王戦は有利な戦いになると想定していても準備は必要だ。


 また、全員でかかるとすぐに終わってしまう。

 そのため、パーティー単位で交代し、特級魔法は使わず、さらに特技も禁止という制限をかけて戦闘をしていた。

 そんな戦い方でも訓練と言えるくらいの余裕はある。


「フロスト」


「相変わらず詠唱が早いな!」


「アルの回復魔法も大したもんだ。それに動きも悪くねぇし、判断も早い。反射で動けるようになりゃさらに強くなるぜ」


「相手がハイウルフでも気を抜くなよ! 回復は早めにしろ!」


 パーティーの編成がいつもと異なるのは、魔王戦に向けて戦い易いように変えたからだ。

 全員で戦う総力戦にはなるが、回復や支援を受けるのはパーティー単位となるため、パーティー単位での訓練は必須である。

 特にヤナやアルヴィンなどは後からの参入組なので、連携の確認は重要だった。


 今戦っているギルパーティーは、ダンカン、アルヴィン、ヤナの四人。

 そして、下がってきたクリスパーティーはキース、アンナ、メリッサ、マイルズの五人だ。


「俺たちは全く問題なさそうだ」


「マイルズは合わせるのが上手いよな」


「俺たちは三人パーティーだったからな。昔は臨時で仲間を入れることもよくあったんだよ」


 マイルズ以外は元々のクリフパーティーなので連携に問題はない。

 ニックの代わりにマイルズが入っているのだか、それはニックがベンパーティーに入っているからだ。


「前に出すぎるなよ! 今回の戦いは回復役が後衛専門になるぞ!」


「次! 正面からタイガーベアとコブラキング!」


「ベンパーティーと交代しろ!」


 ベンパーティーはトニー、ウォルト、ブレッド、ニックの五人。

 このパーティーは別動隊、宝玉設置部隊だ。

 スピード重視で組まれたパーティーは、本隊が正面から激突して注意を引いている間に宝玉設置場所へと潜入する役割である。

 作戦上かなり重要な役割を担っていた。


 残りの仲間はルシールパーティーのセージ、ジェイク、エヴァンジェリンの四人、キムパーティーのジミー、アンガス、ロブ、フィルの五人である。


「右からドラゴンモドキとコブラキングが来ました! 瞬光玉を使いますね! 三、二、一!」


 その瞬間に、全員が右の魔物の群れから視線を外す。

 カッと光ると同時に動きがおかしくなる魔物たち。

 戦闘訓練の中で、セージは何度か道具を試していた。

 魔物に対する効果がどんなものかを確認するためだ。

 全く効かない魔物、ピタリと止まる魔物、逆に暴れまわる魔物、反応は様々である。

 場合によっては使わない方が戦いやすいこともあった。


「メガスラッシュ!」


「ハイヒール!」


「フロスト!」


「インフェルノ!」


 周囲ではナイジェール騎士団も戦闘をしている。

 ただ、こちらの戦いは本気だ。特技を制限して戦うような余裕はなかった。


「さて、今日はここで泊まります!」


 魔物を倒しつつどんどん進み、着いたのは元は町だったであろう廃墟。

 家というより瓦礫しかないような場所である。

 ここまでに二つの町を通り抜けてきたが、いずれも同じような廃墟だった。


「まずは食事と寝床の準備です! あと、この教会を修繕します!」


 使えるような家はなく、崩れたら危険なのでテント泊となる。

 それでも、特にパーティーから異論はない。森の中などの道中よりもテントが張りやすい上に教会があるからだ。


 町の中で教会はたいてい頑丈に作られており、原型を留めていることが多い。

 教会を修繕し、そこに新たな女神像を置くことで、周囲に魔物が近寄らなくなるのだ。

 教会の効果はインベット山脈でも実証済みのことである。


 魔物が避けたくなるような効果であり、絶対に襲われないわけではない。

 大量発生でなだれ込む、意図的に魔物を引き付けるなどで魔物が来ることはあるのだが、襲われにくいだけでも負担は軽くなる。

 どちらにしても見張りを立てている。それでも、魔物に襲われて戦闘が始まってしまえば寝てる場合ではなくなるからだ。


「よし! 自由騎士団! 狩りに行くぞ! 私たちは岩場に行く! クリスパーティーとトニーパーティーは森に行け! ナイジェール騎士団は天幕班、警戒班、調理場班に別れろ! 他は教会の修繕を手伝え!」


 セージの号令の後、ルシールが指示を出して皆が動き始めた。

 セージたちは今までの経験があり、ナイジェール騎士団でも訓練はしているため慣れたものだ。

 天幕がみるみるうちに張られ、作られたかまどに火がつけられる。

 教会は一部の崩れた部分を補修し、掃除をしてから女神像を置けば完成だ。


 ルシールたちはその間に魔物を狩ってきた。

 爬虫類型のドラゴンモドキと牛型のブルバースト、茸型のラッシュマッシュ、植物型のサボランナー。

 多種多様の魔物である。


「さぁ急いで調理するぞ!」


 天幕を張り終えた者たちも含めて、テキパキと動いていく。

 騎士団なので調理ができる者は多い。

 ラッシュマッシュとサボランナーの調理法はルシール自由騎士団が知っているので問題なかった。


「わっ! ラッシュマッシュじゃない!」


「ほんとだ! でもこの辺に出現したっけ?」


 教会の修繕を終えたセージたちが調理中の魔物を見てテンションを上げる。


「近くに洞窟があって、その中で見つけたんだ。運が良かったな」


「久しぶりに見たわ。あのときは毎食見てたけど。懐かしいわね」


「そんなに前のことじゃないですけどね」


「はぁ? そんなわけ……あれっ半年程度なの? もっと前かと思ってたわ。まぁいいけど、とりあえず塩焼きは外せないわね」


「ラッシュマッシュってなんだ? そんなに旨いのか?」


 意気揚々と調理に加わるエヴァンジェリンを見て、ブレッドは疑問符を浮かべながらセージに聞いた。


「前食べたときはかなり美味しかったよ。茸では一番だね」


「この魔物がなぁ……なんでこんなやつ食べたんだよ」


「この前迷宮に閉じ込められて食料がなくてさ」


「あぁ、前に言ってたやつか」


「そうそう、あの時はボスが強すぎて迷宮から出られなかったから」


 それは大樹の迷宮での話だ。

 ブレッドは以前にその話を聞いていた。

 ただ、その周囲にいるナイジェール騎士団の者たちは聞いたことがない。

 迷宮に閉じ込められるという不穏な話に、騎士たちは調理をしながら耳を話にかたむける。


「たしか精霊と神の魔物の二体だったか?」


「そうそう。さすがにキツかったよ。いろいろな収穫もあったけどね。あっドラゴンモドキの味付けなんだけどさ……」


 話はすんなりと味付けの話に変わった。

 ナイジェールの騎士たちは、えっ?と目を見合せる。

 もっと迷宮の話を詳しく!と思っていたが、誰もセージの話に口を挟むことはできなかった。


 セージたちも調理に加わりどんどん料理ができていく。

 ドラゴンモドキはドラゴンというよりワニに近く、レベル50なら戦える強さだ。

 攻撃力は高いが魔法は使わず、氷魔法に弱いという弱点があるので戦いやすい。

 なので、出現する地域ではよく食べられる魔物で、焼いても煮ても美味しいと評判である。


 サボランナーは荒野を常に走り回っているサボテンのような魔物だ。

 トゲごと皮を剥けば生でも食べられる。

 美味しいというほど旨味があるわけではなく、独特の風味はあるが、ビタミンと食物繊維が豊富なので体にはいい。


 この人数になると全部用意してから全員で食べるという形はとらずに、調理しながら食べていく感じになる。


「ドラゴンモドキって顔が凶悪なわりに味は癖がないよな」


「スープできましたよ! 自分で自由にいれてくださいね!」


「俺、茸のこと見直したわ」


「やっぱブルバーストうめぇ! お前も食べてこいよ!」


「ほら焼きあがったぞ! どんどん食えよ!」


「俺、サボランナーは生がいいな」


 それぞれが魔物料理に舌鼓を打つ中で、少し緊張した面持ちの者もいた。

 それはナイジェール騎士団の面々だった。

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