第215話 邂逅
飛行魔導船を使って着いたのはミストリープ領の領都。
セージたちはそこから東に向かって移動していた。
今回のパーティーはルシールパーティーとチャンバラトリオに加えてベン、アルヴィン、エヴァンジェリンが参加することになった。
「もうそろそろ着くみたいですよ」
「ふーん。思ったより近いのね。それで、その村に必要な道具があるって本当なの?」
「そうらしいですよ? アルヴィンさん情報ですけど」
「あの村に昔から伝わる秘宝が紫の宝玉らしい。それが伝承に書いていたものかはわからないが、これ以上手掛かりが無いからな」
その伝承は王宮の図書館に秘蔵してあった本の内容だ。
現在魔王の住みかとなっている旧王都はグレンガルム王国になる前の王国が使っていた場所である。
その地は強力な魔物の脅威があるものの、聖なる宝玉により護られていた。
しかし、魔族に唆された者が宝玉を盗み出し、旧王都は崩壊。その地は魔物に侵略された。
それが旧王都のなりたちである。
そして、その本にはその続きが書き記されていた。
旧王都にある聖なる宝玉を置いていた神殿の台座が邪悪な気で満たされると、邪悪な護りとなる。
それを解除するには、再び聖なる宝玉を置くしかないということだ。
(魔王が現れて宝玉を集めるとか、これからがゲーム中盤の始まりって感じだよなぁ)
FSシリーズの中には攻略に必要なアイテムを探すタイプのストーリーもあった。
光と闇のオーブと真実の鏡、火水風地氷雷のエレメント、各地に隠された聖なる紋章。
セージは今回の宝玉もそのタイプだと想定していた。
セージは五歳からランク上げを進めていたが、通常はブレッドたちのように十歳で見習いのようになり、十二歳で本格的に冒険者として活動し始める。
そこから徐々に強くなり、魔王が現れ宝玉集めが始まり、紆余曲折を経て魔王と最終決戦。
セージはそんなストーリーを想像する。
「で、その宝玉? を受け取ったら各地を探し回るってわけ?」
「そうですね。僕も実物は見たことがないですし、皆でその宝玉を確認してから各地に散って宝玉探しをしようと思っています」
「ふーん。でも、そんなのがなくてもセージなら魔王を倒せるんじゃないの?」
「まぁおそらくは」
「えっ? そうなの? じゃあこれ意味ある?」
「いくつか理由があるんですが、討伐に時間がかかるのが問題ですね。おそらくステータス上昇と自動回復が付与されているので」
「はっ? 自動回復ってなにそれ? というかなんでそんなことわかるの?」
「アルヴィンさんから聞いた話だと、連携をとって集中攻撃を受けないようにしているみたいですから。無敵ならそんな行動にならないでしょうし、倒せないわけじゃないと。でも、強さの割に継戦能力が高すぎるので、HPは回復しているはず。でも回復の魔法や特技を使っていない様子だったので、時間経過で自動回復するようになっているはず、ということです」
「あなた、こういうことに関しては頭が回るのよね。でも、それじゃあ倒せないんじゃないの?」
「自動回復の回復量をダメージが上回れば倒せますね。それができるかどうかはやってみないとわからないですけど、戦いの様子を聞く限りはできる可能性が高いです」
「結局、倒せるけど宝玉をみつけた方が楽ってこと?」
「いえ、相手がヴィアヴォリアだからですね。時間をかけていると手下のボスを増やされるかもしれませんし、逃げられるかもしれません。そうなると厄介です。結局のところ、宝玉を使って迅速に倒すのがいいかなと」
「ふーん。じゃあ宝玉を見つけたら金貨十枚とか言って、国民全員に探させたらいいんじゃないの?」
そんなことを言うエヴァンジェリンを、セージはきょとんとして見る。
セージとしては自分たちが宝玉を探して回ることしか考えていなかった。
「……それもそうですね。その発想はなかったです」
「なんでよ。真っ先に考えるでしょ。こんだけの人数でこの国全部見て回るなんてどれだけ時間かけるつもりなのよ」
「まぁそうなんですけどね。でも偽物が出回りそうなことと、魔族にも知られる可能性があるところが問題ですね。先に取られたら厄介ですから。ヴィアヴォリアならそんな行動を取りそうですし」
「セージは魔王のことがなんでわかるわけ? 友達なの?」
セージは「あー、なんというか、魔王のことを聞いたことがあるというか」と適当に誤魔化した。
するとルシールがフォローを入れる。
「まぁそれはいいだろう。とりあえず信頼できる者だけで探す方がいいってことだな」
「そうだね。まぁ見つからなかったら大々的に探すのもアリだけど」
「あなたたちはもっとセージに疑問を持つべきだわ」
エヴァンジェリンがそう言ったところで、外から緊張感のある声が響いた。
「町が襲われてるぞ!」
飛び出すように馬車から外に出て見ると、町が魔物の群れに襲われている様子であった。
「急ごう!」
セージたちは馬車をおいて走り出す。
「ホークアイ」
(あれは、コブラキングとブルバースト、ダークゴート、タイガーベア、だいたい攻略レベル50程度か。んっ? デーモン系の知らない魔物がいるな)
魔物の群れは外壁へと攻撃を始める。ただ、外壁が崩れる様子はなく、上からは騎士たちが魔法を放っている。
(耐えれそうだけど、とりあえず行って援護を――)
その時、デーモン系の魔物が杖を掲げ、大岩が出現しする。そして、外壁に激突した。
それによって外壁の一部が崩れる。そこに魔物が殺到し、町に入り込んだ。
騎士たちは応戦しているようだが、セージたちの位置から内部の状況はわからなかった。
(くそっ、あのデーモンが厄介だな。ボスなのか? 周囲の魔物よりふた回りほど大きいけど……とりあえず、邪魔する魔物は全部倒す)
「メテオ!」
それに続いてルシールも『メテオ』を発動し、その他の者たちは『ヘイルブリザード』を発動する。
ほとんどがレベル80超えの者たち。その中でもルシールとセージはINTカンストの融合魔法だ。
その魔法は地形をも変える。
レベル50の戦いで、その威力は絶大。
魔物たちの多くは逃げていき、一部は倒れたまま動かない。
外壁の外側にいた魔物の群れは壊滅した。
(よし、あとは中に入り込んだ魔物を――)
その時、ボスの領域に入った。
壁が壊れた部分から侵入しようとしたセージたちにボスから近づいてきたのである。
(やっぱり来たか)
「オリジン」
セージは容赦なく最強の融合魔法を放った。
強烈な魔法に怯むボスは、さらにルシールの『オリジン』を受け、その上皆の『デマイズスラッシュ』が殺到する。
ボスは怯みながらも上級土魔法『ロックブラスト』を発動。それと同時に三体のゴーレムを召喚し、距離をとろうとする。
「オリジン」
そこにセージが魔法を叩き込んだ。
その猛攻にデーモン系の魔物は耐えられない。
ドシンという地響きと共に地面に倒れ込むボス。
セージはそれをちゃんと確認することもなく走り出している。
そして、町に入り、足が止まった。
(これは……!)
崩れた神殿、舞い上がる土煙、鳴り響く怒号、どこからか聞こえる叫び声。
そこは戦場だった。
セージは、町中での戦いは初めてだ。
迷宮などでの戦いとは全く異なる雰囲気に衝撃を受ける。
「行くぞ!」
ルシールがかけた声に背中を押され、セージは再び走り出した。
セージたちは『フロスト』を使いつつ、魔物をなぎ倒していく。
数は多いが、魔物のレベルは高くない。
ほとんどの魔物が瞬殺だ。
そんな時「ひょあー!!」と叫び声が聞こえた。
そこには魔物、タイガーベアに襲われる老人の姿があった。
(間に合わないか!?)
瓦礫を足場にして戦場を飛び越え走ったが、どうやっても間に合わないタイミング。
それでも、セージとルシールは走り、老人も諦めなかった。
「キェエエ!」
老人は至近距離でいくつもの薬品を投げつける。
攻撃しようとしていたタイガーベアはそれを手で振り払った。
その瞬間、様々な現象が起きる。目が眩むような光、視界を遮る煙、離れていても驚くほどの音、燃え上がる炎。
タイガーベアもこれには怯み、がむしゃらに手を振るう。
それがたまたま逃げようとした老人の背に当たった。
「ぐふぅっ」
たったそれだけでガラスが割れるような音と共にHPが0となる。
(まずい、でも間に合う!)
「フロスト!」
セージがタイガーベアに魔法を発動。一瞬動きが固まる。
そこに先行していたルシールが剣を振るった。
「デマイズスラッシュ」
タイガーベアを屠る会心の一撃。タイガーベアはすぐに逃げ出す。
それを追うことはなくセージは『フルリバイブ』を使うためにパーティー申請を出した。
老人はそれに気がついて、承認する。
ビリー Lv.15
HP 0/196
MP 666/741
(ビリー?)
聞いたことがある名前だったが、まずは回復だと切り替えて『フルリバイブ』を発動するのであった。
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