~魔王編~
第214話 王都へ
魔王出現により、グレンガルム王国は混乱を極めていた。
グレンガルム王国に入ることはできるが出ることはできない。
国民が他国へ移動することは少ないが、国境付近の商人や旅人、冒険者などは大きな影響を受ける。
魔王出現の情報は数日で王都に伝わった。
それほど早く判明したのはフォルクヴァルツとの交易の再開があったからだ。
神命鳥が倒され、それをグレンガルム王国に伝えに行った。
その帰り、山の麓付近で領域に阻まれたのである。
そこから次々に報告が集まってきた。
クロフト領、ミストリープ領、ナイジェール領といった国境の領からも、続々と飛行魔導船がやってきて緊急報告が上がる。
そして、王都から東にある旧王都に魔王が現れ、周辺の魔物が強化されたことがわかった。
第二から第五騎士団と勇者部隊が迅速に動き、旧王都を強襲。
騎士団と勇者部隊は強化された魔物の波を押し返した。そのまま攻略しようと進攻する部隊を阻むように現れたのが魔王とその手下七体。
騎士団は魔王の手下、勇者部隊は魔王が相手をした。
前衛は剣、後衛は攻撃魔法、中衛は『スケープゴート』や回復魔法、バフなどの支援を行い、戦いは長時間におよぶ。
しかし、王国騎士団が消耗していくだけで、魔王の手下も魔王も倒れる様子はない。
結局一体も倒すことなく撤退した。
被害は大きく、回復が間に合わずに怪我をした者が多数いる。
まだ余力を残した状態で撤退したことと、途中から魔王の軍勢が追ってこなかったことで、重傷者はほとんどいないのは幸いだったが、軽い怪我でも油断はできない。
それに加えて、旧王都周辺のオールディス領、マクガレン領には騎士団を派遣していることから、通常業務が回らないような状況だ。
さらに、そこへサルゴン帝国がグレンガルム王国へ軍を動かしているという情報が入ってきた。
魔王が出現し、混乱している状況が攻め時と判断されたのだろう。
その上、内乱の可能性が出てきている。
建国以来、グレンガルム王国には魔王が現れていない。
それは国王が神の子であり、神の力によって守っているからだといわれてきた。
魔王が現れたことにより国王を神格化するものの一つが崩れ、シトリン派閥の一部が反乱を起こそうとしているとのことだ。
「これが、セージがいなくなってから起こったこと。二週間くらいしか経ってないこととは思えないよ」
少し疲れたように言うのはアルヴィンだ。
セージは王都に戻ってとりあえず一番詳しく知ってそうな人物に聞きに行ったのである。
アルヴィンは一応王族なので、そんなに簡単には会えないものなのだが、通いすぎたセージはアルヴィンの許可もあって顔パスで入れるようになっていた。
「なんだか疲れていますね」
「そりゃそうだよ。僕は王族で勇者で魔王戦にも連れていかれて来週騎士団に入る予定なんだから」
「へぇー、まぁ頑張ってくださいね。ところで――」
「待ってよ! ちょっと軽すぎない!? なんか良い案とか助言とか、せめて慰めの一つでもないの!?」
セージ不在の間の出来事を丁寧に説明したのに軽く流されて怒るアルヴィン。
もちろん本気で怒っているわけではない。
しばらく一緒に生産職のランク上げをしていたこと、そしてその後の学外訓練、大樹の迷宮を経て気安い間柄になっていた。
エヴァンジェリンの前ですら少し気を使うのだが、セージに対してはほぼ素の状態である。
「慰めって、頭を撫でるとか?」
「……僕のこと何歳だと思ってるの? やっぱり慰めじゃなくて助言が欲しい」
「うーん、でも助言とかはできないというか、僕にはどうしようもないですし」
「どうしようもない……まぁそうなんだけどねぇ」
アルヴィンはため息をつく。
セージがこの件で助言ができるとは思っていなかった。
そんなアルヴィンにセージはあっと思いつく。
「でも、アルヴィンさんがやりたいことを手伝うのは構いませんよ。他国に逃げたいとかなら助けられそうです」
「他国に逃げたりはしないよ! というか現状逃げられないし! まぁ、でも、やりたいことは……あのさ、セージが魔王を討伐しに行く時、連れていってくれる?」
「討伐しに行く予定ないですけど?」
「えっ? ないの?」
アルヴィンはてっきりセージなら魔王を倒しに行くと思っていた。
セージも「えっ?」となり、二人は顔を見合わせる。
「だって危険ですし。そんな危険なところ行きたいと思いますか?」
「いや、えっ? それ、セージが言う?」
「普通言いますよね?」
アルヴィンは「普通……」と困惑する。
確かに普通は魔王と戦いに行こうとは思わないだろう。
それでもセージから言われると違和感しかなかった。
「どうして僕がセージから普通を説かれているんだろう」
「急に魔王討伐とか言うからですよ」
「急に神命鳥討伐って出ていく人が何言ってるの?」
「神命鳥は倒せるってわかってましたからね」
「魔王も倒せるんじゃない?」
アルヴィンの質問にセージは「うーん」と唸ってから答える。
「倒せる、とは思ってたんですが、今はわからないですね。正直なところ勇者部隊が出れば倒せると思ってたんですよ」
「そうだったんだ」
アルヴィンは内心かなり驚いていた。
それはセージの予想が外れたからだ。
魔王討伐戦に参加したアルヴィンとしては倒せる想像がつかない相手だったのである。
「それで、とりあえず魔王について聞きたいなと思いまして。今のところは戦うつもりはないですけど、勇者部隊でも倒せなかったというのが不思議なんですよ。魔王の手下でさえ一体も倒すことができなかったんですか?」
「そうなんだよね。まずは一体倒そうと考えたんだけど、全体で連携をとってくるから一体を狙うって難しくて」
「連携をとるんですか? 魔王の手下が?」
「意外だよね。逆に騎士団の中衛とか後衛を狙ってきたり、一点を攻めてきたり、戦術的な行動をとってきたし」
「そんなことあるんですね」
「それに、魔王って最深部にいると思ってたから手下を引き連れて出てくることも意外だったし。あと魔王が子供みたいだったし」
「子供みたい?」
そこでセージはハッとした。
「魔王の手下はそんなことないのに――」
「その魔王って黒のマントに紫色の髪と目、十二歳くらいで童顔の八重歯が鋭い……?」
「えっ、そうだけど何で魔王のこと知ってるの?」
「ヴィアヴォリア、魔王になったんだ……!」
ヴィアヴォリアはFS10に出てくる吸血鬼のような中ボスである。
主人公との戦いに敗れたあとに逃げ、邪神を復活させるという役割があった。
かつての中ボスが魔王に昇進したことにセージは驚きつつ目をきらめかせる。
そんなセージにアルヴィンも驚く。
「知り合いなの!?」
「いや、全然。魔族ですから知り合いじゃないです」
スンと表情を変えるセージにアルヴィンは戸惑いを深める。
「じゃあなんで名前知ってるの!? それに何かちょっと嬉しそうだったし!」
「そうですか? そんなことないですけどね。名前は聞いたことがあるんですよ」
「聞いたことあるってなんで!? ってか容姿まで知ってるなら完全に会ったことあるでしょ!」
「ないですよ。さて、ヴィアヴォリアは危険ですから会いに……討伐方法を検討しにいきましょうか」
「本当に討伐する気ある!?」
「もちろんです。ヴィアヴォリアは絶対に倒さないといけない魔族ですよ。魔王になったのならかなり危険ですからね」
「本当に!? 僕もついていくからね!?」
「もちろんいいですよ。ただし」
「ただし?」
「飛行魔導船を用意してくださいね」
「えっ?」
「あと、魔王討伐のヒントがあるかもしれないので、国に伝わる大事な本とかあったら持ってきてください」
「あれ? なんかいいように使われてる?」
それでもアルヴィンはちゃんと飛行魔導船も本も用意するのであった。
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