第201話 SSフォルクヴァルツの宿屋

 宴会が終わった後、セージたちは宿屋へ向かった。

 夜通し飲むなんてことはしない。

 もし神命鳥を討伐することが目的であれば、そういうこともあっただろう。

 ただ、セージたちの目的は神命鳥でランク上げすること。

 討伐自体は当然であり、軽めの宴会で切り上げたのである。


 宿屋へは門番課のドワーフたちが護衛し、セージたちを連れていってくれた。

 セージはそこまでしなくてもいいと言ったのだが、モーリッツは宿屋までドワーフが群がらないように通路を規制したのだ。

 建物からセージたちにお礼を言ったりする者はいたが、スムーズに宿屋へたどり着いた。

 そこでちょっとした問題が起こったのである。


「すまねぇ、今は客がいっぱいでよ。部屋はちょっと足りねぇんだ」


 セージたちは受付の気の弱そうなドワーフからそう言われたのだ。

 北側に住んでいるドワーフの一部が宿屋に泊まっていて、部屋が足りなくなっていた。

 北側は倒壊した建物もあるので仕方ないことである。


 空いているのは冒険者パーティー用の五人部屋が二つと一人部屋が五つ。

 商人が使う宿なので、宿の造りとして商人用の一人部屋、護衛用の五人部屋が多かった。


「三人分足りないか」


「すまねぇな。なんとか空けてぇんだが……」


「まぁ仕方ないですよ。大変な時に来た僕らが悪いですし」


「いやいや、来てくれて本当に助かったぜ。なのに、こんなことになってすまねぇ」


 恐縮するドワーフにセージは「これくらい大丈夫ですよ」と返す。

 ドワーフ族は気が強い者が多く、そんなタイプのドワーフを見るのは珍しかった。


「とりあえず、一人部屋に二人入る者を決めないとね」


「三人足りないから二人部屋を三つ作るってことだよな?」


「一人部屋に二人は結構キツいぜ」


「くじ引きで決めるか?」


「やめとけよ。組み合わせによっちゃあ大惨事になるぜ」


 二人部屋をどう決めるかを話していると、ルシールが「私が二人部屋でもいいぞ」と言う。


「いや、それはダメですよ! 団長は一人部屋にしてください」


 今までルシールは宿となるとだいたい一人部屋になっていた。

 状況によっては五人部屋になることもあったが、基本は一番いい部屋をとる。


「私が比較的体格が小さいだろう?」


「そりゃそうですけど……」


 ルシールは女性としては大きく、身長も170センチを超えていた。

 ただ、180オーバーの筋骨隆々の男性が多いこのパーティーの中では小柄といえる。

 ルシールの言っていることは正しいが、問題は誰が一緒に入るかと言うことだ。


「アンナかメリッサなら――」


「団長はセージさんと二人部屋がいいんじゃないですか?」


 ルシールの言葉を遮って、メリッサが言った。

 ルシールは少し考えて答える。


「まぁそうだな。私はいいが、セージはどうだ?」


「もちろんいいよ。僕もこの中では小さいし。それに婚約者だしね」


「じゃあ私はニックと二人部屋にします」


「あれっ? アンナさんとじゃ――?」


「私はニックと、ですね」


 いつになく強引なメリッサは、ルシールにアイコンタクトを送る。

 そこでルシールはピンときた。

 大樹の迷宮で輪番をした時に話したことを思い出したのだ。


「あぁ、そうだな。それがいい」


「そうなの? まぁいいんだけど。じゃあ、あと一つの部屋はウォルトさんかフィルか……」


「アンナが一番細身だから、二人部屋にした方がいいんじゃないか? アンナ、どうだ?」


 ルシールから振られたアンナはビクッとして答える。


「あっ、はい! えぁー、その、じゃあ、私はキ――」


「おいおいどうしたんだ?」


 そこで、モーリッツが宿に入ってきた。

 宿の外で警備をしていたが、セージたちが中でごちゃごちゃしているので、心配して来てくれたのだ。


「部屋割りを決めているんですよ。部屋がちょっと足りなくて」


「んっ? そんなはずはねぇんだが……おい、どうなってんだよ」


 実はセージたちが宿につく前に門番課のドワーフが先に来て、人数分部屋を空けるように伝えていた。

 ギクリとした受付のドワーフは、少し焦りながら言い訳をする。


「そりゃ俺だって空けようと思ったんだぜ? でも客が帰ってこねぇからよ。空けてくれとも言えねぇし、一人部屋は広いからそこに二人入れるかって……」


「はぁ!? なにやってんだ! 救国の英雄だぞ!?」


「でもよ、客を勝手に追い出すわけにもいかねぇし」


「馬鹿いってんじゃねぇ! それくらいどうとでもなるだろ! っつうか、どうせ今日は帰ってこねぇよ!」


「でももし帰ってきたときによぉ」


「そいつら全員俺が引き受けてやる! 早く名簿を出せ!」


 受付から出てきた台帳を見て指示を出すモーリッツにセージが言う。


「無理に空けなくても大丈夫ですよ? なんとか詰めれますから」


「いいんだよ。明日からモンテ・ヴィテに登るんだろ? 疲れを残しちゃいけねぇ。それにな、ドワーフなら宿舎にでも連れて行けるが、人族が泊まれるところなんざ今はここぐらいしかねぇんだ。でかいベッドなんて普通は置かねぇからな」


 その言葉にセージは「なるほど。そういうこともあるんですね」と頷く。


「すまなかったな。すぐに部屋を空けるからちょっと待ってくれ」


 その時、モーリッツの耳に「ちっ」という舌打ちのような音がかすかに聞こえた。

 モーリッツにはそれが誰から発されたのかわからなかったが、その何とも言いがたい雰囲気に気がつく。

 セージが普通だったのでわかっていなかったが、パーティーが喜怒哀楽に包まれていた。

 自分の行動のどこかが間違っていたのか。

 モーリッツの悩みがまた一つ増えるのであった。


 ****************


 あとがき


 200話記念SSでした。SSって今回初ですね。ただ、普通の一話っぽい感じになってますけど。逆に本編がSSの寄せ集めになっている気も……SSって何なの?

 それに、あとがきも初めてです。あまり本編に挟みたくないという気持ちがあり……。でも、せっかくなので新しいことを試すのもいいかなと。でもあとがきって何を書けばいいのかさっぱりわかりません。

 ということで、200話記念に地図を公開しました(雑な地図ですけど)。近況ノートにありますので、のぞいてみてください。


https://kakuyomu.jp/users/riverbookG/news/16817330661159086702


 出井啓

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