第196話 強襲・神命鳥
セージたちは武器屋『鋼と木』から外に出て北にある山の方に視線を向ける。
そして、セージとルシールは特技『ホークアイ』を使って、こちらに向かってくる神命鳥の姿を確認した。
「あれが神命鳥か」
「そうだね」
神命鳥を一言で表すならば、巨大な炎の鳥である。
鶴のようなフォルムだが、尾は長く、羽は炎でできていた。
「完全装備で来ててよかったよ。みんなも向かって来るよね?」
セージは北門に向かって走りながら、ルシールに話しかける。
「神命鳥が来たことに気づいたらすぐに来るだろう。それより、こうして強襲された場合でも戦い方は変わらないのか?」
「うーん。それはちょっとわからないね」
セージは少し悩んでそう答えた。
ゲームで神命鳥が強襲してくるイベントなどなかったからだ。
そもそも神命鳥は準備なしで戦えるような相手ではないので、ゲームバランスとして強制戦闘が起こらなかったのである。
「わからないか。じゃあ、セージの想定としてはどうだ?」
「ほぼ同じかな。技が一つ二つ増える可能性はあるけど、魔法攻撃で火と風系以外がくることはないだろうし、物理攻撃の場合はルシィさんなら大丈夫だよね?」
「まぁな。初見でどこまでできるかはわからないが、全く対処できないということはないだろう」
ルシールは「守ってみせる」と決意を表し、セージは「頼りにしてるよ」と返す。
そうしているうちに、北門まで近づいてきた。
「あれっ? 門番の課長?」
「課長というと、南門で会った者か? 私にはちょっとわからないんだが」
「たぶんだけど。ドワーフはわかりにくいよね」
「まったく判別できないな」
慌ただしく行き交う者たちの中で、指示を出すドワーフがいた。
ただ、ドワーフ族の顔は人族からするとそっくりだ。
エルフもわかりにくいが、ドワーフは髭で半分顔が隠れているので、さらにわかりにくい。
「間違ってたら気まずいから、とりあえず近づこっか」
セージはその門番に寄っていくと「お前ら、早く逃げろ!」と声がかかった。
そこで、セージはきっと課長だなと感じる。
「課長さん! 門を開けてください!」
「馬鹿野郎! 神命鳥が来てるんだ!」
「僕らは神命鳥と戦いに来たんですよ!」
課長であるザイフリートはその言葉を言い返そうとして止まった。
セージの話はもっともである。
神命鳥と戦いに来たということは聞いており、そのために門を通したのだ。
それなのに、この状況で門から出さないというのは門番として間違っていると思った。
そうしている内にセージとルシールはザイフリートの目の前に来る。
「ということで、早く開けてもらっていいですか?」
「……ユルゲン! 門番用通路を開けろ!」
「いいのか!?」
「通してやれ!」
北門の門番ユルゲン係長は戸惑いながら門番が使う通路の扉を開ける。
神命鳥が強襲してきている中で、大きな門を開けることはできない。
しかし、その脇には門番が移動するための通路があり、そこは簡単に開けることができる。
「ありがとうございます。それでは」
「すぐに退避できるところで戦えよ!」
「了解です!」
セージは走り去りながらそう答える。
そして、通路を抜け外に出ると、神命鳥はすぐ近くまで迫っていた。
「さて、討伐しよっか」
「そうだな」
セージとルシールはコツンと拳を合わせると、外壁から距離をとりながら呪文を唱え始める。
神命鳥はぐんぐん近づき、まだ魔法の効果範囲外から攻撃モーションに入った。
そして、神命鳥の火系固有特技が放たれる。
特技『神炎の息吹』
これは開幕先制攻撃に必ず使われる特技であり、最強と言われる理由だ。
高威力かつ防御力貫通ダメージ。
さらにこれは魔法攻撃でも物理攻撃でもある息吹系に含まれる。
例えVITとMND999かつ高性能装備で固めようと、ダメージ減衰系装備でなければ二万を超えるダメージを叩き出す。
物理や魔法ダメージ減の防具を装備していようと一撃。
これに耐えるには耐火装備しかない。
クリア後のイベント戦で神命鳥に挑むとき、初見でガチガチに耐火装備をつけているはずもなく、開幕先制攻撃で全滅になるプレイヤーが続出するという嫌がらせのような魔物だ。
しかし、当然のことながらセージとルシールは対策済みである。
(完全に炎に包まれても、やっぱり普通に息ができるよな。息吹系でも魔法と同じく空気中の酸素を消費してるわけじゃないか)
炎に包まれながらセージはそんなことを考える。
神霊亀戦では防御していたが、今回は防御も何もせずに炎の中だ。
それでも酸素がなくなるなんてこともなく、耐火装備によって熱いとも感じなかった。
(んっ? なんだこの音)
セージとルシールは『ホークアイ』だけでなく『ラビットイヤー』なども使っている。
炎の中にいて視覚では相手の動きがわからないが、音は聞こえた。
盾を構えつつ移動しようとした時、セージはルシールに手を捕まれ引っ張られた。
(えっ? なに?)
ルシールとセージは呪文を唱えているため会話ができない。
手を引かれて全力ダッシュだ。
セージはわからなくとも、ルシールを信じて走る。
炎が晴れた瞬間、神命鳥が直前まで高速で迫ってきていた。
そして、グッと引き寄せられて、セージは寸でのところで回避。
その瞬間、反動で止まったルシールは神命鳥に剣をふるう。
『
そしてルシールはセージに頷く。
剣から伝わる感覚で神命鳥にダメージが入ったことがわかったからだ。
神命鳥は火魔法と状態異常無効に加えて高い魔法耐性を持つが、物理攻撃には弱い。
ただ、常に飛び回るため攻撃回数が少なく、魔法で戦うのが基本となる。
しかし、それにも対策があった。
セージは手を神命鳥に向ける。
「メイルシュトローム」
風と水の融合魔法『メイルシュトローム』は神命鳥の弱点である。
水の激流と竜巻のような暴風が重なり、大渦が巻き起こる。
それに飲み込まれた神命鳥はふらつきながらも範囲外に逃れようと羽ばたいた。
「メイルシュトローム」
今度はルシールの魔法が発動。
神命鳥は直撃を受けて渦に巻き込まれ、そのまま飛ぶことができずに墜落する。
これが最強にして最弱と呼ばれる所以だ。
融合魔法『メイルシュトローム』によって地上戦に持ち込むことができる上に大きな隙もできる。
火属性無効装備と融合魔法『メイルシュトローム』があれば討伐難易度はガクッと下がり、むしろ戦いやすいボスといっても過言ではない。
(よし、これが効くならもう脅威ではないな)
ルシールとセージは接近戦に入る。
呪文を用意しているため、物理攻撃の特技は使えない。
しかし、神命鳥の防御力なら通常攻撃でもしっかりダメージが通った。
神命鳥は墜落ダメージと怯みが発生するが、数秒もしないうちに翼を回転させ周囲に熱波を発生させる特技『炎旋風』を発動しつつ体勢を整える。
その行動により熱風が襲うのだが、火属性無効になっているため、風系ダメージのみ。
その風系攻撃も風耐性装備によって七割減。
いかに強大な威力を誇ろうとも、ここまで耐性をつければ脅威にはならない。
(やっぱり余裕がある。ここまでくると討伐に時間をどれだけかけないかという問題になるな)
ゲームでは耐火装備でガチガチに固めるため、物理攻撃や風魔法のダメージは大きい。
しかし、耐火はブレスレットのみで十分になり、他の装備を耐風魔法にすることができた。
そして、その装備はガルフたちが気合いを入れて作ったもの。
さらに、物理攻撃はルシールが適切に対処する。
負けるはずがない。
神命鳥はばさりと風圧を出しながら後ろに飛び、さらに上へと飛ぼうとする。
「メイルシュトローム」
「メイルシュトローム」
セージとルシールは容赦なく魔法を当て、神命鳥は再び墜落した。
(このままだとHPの回復が回復薬頼みに……おっ、いいところにみんな来たな)
外壁の通路から続々とパーティーメンバーが現れる。
それをチラリと見つつ、落ちた神命鳥へと向かうのであった。
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